日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PA(01-83)

ポスター発表 PA(01-83)

2017年10月7日(土) 10:00 〜 12:00 白鳥ホールB (4号館1階)

10:00 〜 12:00

[PA74] 高校における「いじめ認知」に関する実証的研究

藤井義久 (岩手大学)

キーワード:いじめ深刻指数, 苦痛度, 傷つき度

目   的
 毎年,文科省が発表している「いじめ認知件数」は,自治体によってバラツキが大きく,「いじめ」の実態を的確に表しているとは言えない。その大きな原因として,子どもの主観に頼った「いじめ認定」が行われていることが挙げられる。つまり,ちょっとしたことでも苦痛を感じる子もいれば,全く苦痛を感じない子もいるように,同じ出来事を体験しても子どもの感じ方はそれぞれ異なるので,子どもの主観だけに頼った「いじめ認定」は,大変あいまいなものになる恐れが強い。
 そこで,本研究では,文科省が制定した「いじめの定義」に基づき,「被害者判断」でもあり「第三者判断」でもある,客観的な「いじめ認定」を可能にする方法について検討することにした。
方   法
■調査対象者:東北地方の公立高校2校の生徒(1~3年)計201名(男子96名,女子105名)
■調査手続:担任によって,以下の調査内容から成る質問紙を一斉に配布し,回答終了後,直ちに質問紙を回収する方式で調査が実施された。
■質問紙:以下の内容から成る質問紙を作成した。
(1)フェイスシ-ト:性別,学年について尋ねた。
(2)「いじめ」の疑いのある「スク-ルライフイベント」に対する苦痛度調査(45項目):「あなたは,次のような時,辛い気持ちになりますか」と教示し,それぞれのイベントごとに,5件法(全く辛くない-非常に辛い)で回答を求めた。
(3)「いじめ」の疑いのある「スク-ルライフイベント」に対する傷つき度調査(45項目):「あなたは,次のような時,心が傷つきますか」と教示し,それぞれのイベントごとに,5件法(全く傷つかない-非常に傷つく)で回答を求めた。
 なお,(2)と(3)で提示する「スク-ルライフイベント」は同一としたが,回答の信頼性を高めるために,項目の順番は(2)と(3)で逆にした。
結   果
(1) 「いじめ深刻指数」の算出
 まず,それぞれのスク-ルライフイベントごとに,苦痛度得点(0点~4点),傷つき度得点(0点~4点)を単純に合算することによって「いじめ深刻指数」(0点~8点)を算出した。
 次に,45個のスク-ルライフイベントごとに算出された「いじめ深刻得点」全体の平均値および標準偏差を求めた。その結果,「いじめ深刻得点」全体の平均値は4.26,標準偏差は0.45,最小値は2.90,最大値は5.19であった。そこで,それらの値を用いて,45個のスク-ルライフイベントそれぞれの「いじめ深刻得点」を偏差値に換算することによって,それぞれのスク-ライフイベントが一般的に子ども達の心にどの程度深刻な影響を与えるか。今後,「被害者判断」でもあり「第三者判断」でもある,客観的な「いじめ認定」の指標に成る「いじめ深刻指数」を算出した。その結果,特に「いじめ深刻指数」が高かったスク-ルライフイベントとして,「友達に自分が大切にしている物を盗まれた」(指数:72),「クラスで仲間外れにされた」(指数:68),「下駄箱の靴がなくなっていた」(指数:67)などが挙げられた。
(2) 高校生版いじめ認知尺度開発の試み
 「いじめ」の疑いのある各スク-ルライフイベントに対する,個人の「いじめ深刻得点」(苦痛度+傷つき度)を用いて,主因子法・プロマックス回転による因子分析を行った。その結果,固有値の変化および解釈可能性から4因子解が妥当であると判断された。二重負荷の見られる項目が複数あったので,それらを削除し,同様の因子分析を繰り返し行った。その結果,最終的に「精神的攻撃」(例:友達に,事実でない噂を広められた),「集団的攻撃」(例:自分の失敗をクラスのみんなに笑われた),「物的攻撃」(例:友達に自分の大切にしている物を盗まれた),「身体的攻撃」(例:友達にたたかれた)という4つの下位尺度から成る「高校生版いじめ認知尺度」を開発した。
考   察
 本研究において開発した「高校生版いじめ認知尺度」の各項目には,それぞれ「いじめ深刻指数」が付けられている。今後は,この「いじめ深刻指数」を用いることによって,「被害者判断」でもあり「第三者判断」でもある,客観的な「いじめ認定」が可能になる。具体的には,「あなたは,過去1か月以内に,次のような出来事を経験しましたか」と教示し,「ある」と答えた「出来事」の「いじめ深刻指数」を単純に合算することによって,客観的「いじめ認定」が可能になる。ただ,合算した「いじめ深刻指数」が何点以上になると子どもの心に重大な影響を与える可能性が高くなり,早急に介入する必要があるかという基準については,今後改めて全国調査によって設定していかなければならないと考えている。