1:00 PM - 3:00 PM
[PB02] 母親の育児語使用と言語発達観
Keywords:育児語, 言語発達観
目 的
養育者が乳幼児に話しかける時に使用する言葉(Child Directed Speech(CDS);育児語)は,大人同士が話す言葉とは異なり,音声面,語彙面,文法面,語用面で独特な言葉かけである。日本の養育者はCDSを頻繁に使い,また,長い期間,CDSを使用しているとの報告もある(Fernald & Morikawa, 1993)。本研究では言葉の発達やことばかけについての母親の言語発達観が育児語使用にどのようにあらわれているかを明らかにする。
方 法
対象:質問紙は9ヶ月42名,12ヶ月36名,18ヶ月61名,33ヶ月63名,計202名(18ヶ月の一部と33ヶ月は観察児の追跡データを含む)。観察は9ヶ月28名,12ヶ月27名,18ヶ月26名。
手続:一定のままごと遊具での自由な5分間の母子遊び場面を録画した。質問紙調査は事前に記入し,観察時に持参してもらった。追跡データは郵送により回収した。
分析:1.母子遊び場面の育児語:母子の発話のトランスクリプションを作成し,CHILDESのJCHAT方式と本研究目的にそった様式で入力し,以下の育児語測度のタイプ数とトークン数をclanにより算出した。(1)幼児語motherese:JMOR(宮田,2002)に従い,名詞形(例:マンマ),動作名詞形(例:ナイナイ),形容詞・形容名詞形(例:アチチ),communicator(例:イナイナイバー),(2)オノマトペ:語基だけ,語基反復withオノマトペ標識(促音,撥音,長音,り,複合),語基反復2以上語基withオノマトペ標識,(3)接尾辞(さん,ちゃん,くん)がついた語。(1)(2)(3)の各測度について,母親の発話数で除した発話単位タイプ数と発話単位トークン数を用いた。
2.母親の言語発達観の質問紙:(1)保育所保育指針(厚生労働省,2008)第3章の「エ言葉」「(イ)内容」に掲載されている12項目,評定は「非常に重視している」から「全く重視していない」の7段階,(2)村瀬(2009)が作成した親のことばかけの信念についての質問項目7項目に3項目を追加した10項目。評定は「非常にそう思う」から「全くそう思わない」の7段階。
結 果
1.育児語の年齢推移(ここではタイプの結果だけ記載):9,12,18ヶ月の発話単位オノマトペ,幼児語,接尾辞の発話単位タイプ頻度について年齢を個人間要因,育児語の種類を個人内要因として繰り返し要因のある分散分析をした結果,種類F(2, 162) = 111.648, p<.001,年齢F(2,81) = 3.197, p<.046, 種類×年齢 F(4,162) = 1.666, ns であった。発話単位タイプ頻度はオノマトペ > 幼児語 > 接尾辞の順でそれぞれの間に5%水準で有意な差があった。年齢は9ヶ月が18ヶ月に比べ有意に高かった。
2.(1)子どものことばに対する重視点項目の因子分析:12項目について 200名のデータから相関行列を算出し,最尤法,プロマックス回転で因子分析し,2因子を抽出した。第一因子は「あなたの応答的な関わりや話しかけにより,子どもが自ら言葉を使おうとする」「あなたと一緒にごっこ遊びなどをする中で,言葉のやり取りを楽しむ」「あなたや友達の言葉や話に興味や関心を持ち,親しみを持って聞いたり,話したりする」など5項目に負荷し,「ことばでの表現重視」因子と命名した。第二因子は,「生活の中で言葉の楽しさや美しさに気付く」「いろいろな体験を通じてイメージや言葉を豊かにする」「日常生活の中で,文字などで伝える楽しさを味わう」など6項目に負荷が高く,「言葉の豊かさ・楽しさ重視」因子と命名した。
(2)ことばかけについての項目の因子分析: 202名のデータから相関行列を算出し,共通性が0.10以下の1項目を削除し,9項目について最尤法,プロマックス回転で因子分析した結果,2因子を抽出した。第一因子は「『これ何?』などの質問をして,ことばをひきだすようにするのがよいと思う」「『りんご』,『ボール』などの物の名前を覚えることは重要だと思う」「子どもがまねしやすいように話しかけるのがよいと思う」「まわりのものに親しみがもてるように話しかけるのがよいと思う」など6項目に負荷が高く,「言語獲得援助因子」と名付けた。第二因子は「『わんわん』,『ねんね』,『ないない』など育児語をつかって話しかけるのが子どもがことばを覚えるのによいと思う」,「大人とあまり区別せずに,同じように話しかけるのがよいと思う」(負の負荷:逆転項目)の2項目に負荷し,「育児語働きかけ因子」と命名した。
3.母親の育児語使用と言語観:母親の言語発達観で抽出された「ことばでの表現重視」「言葉の豊かさ・楽しさ重視」「言語獲得援助」「育児語働きかけ」の因子を4尺度とし評定平均点を算出し,観察での母親のオノマトペ,幼児語,接尾辞の発話単位タイプ数とトークン数の相関を各月齢ごとに算出した。9ヶ月は接尾辞発話単位トークンと言語獲得援助尺度との有意な相関があり,12ヶ月,18ヶ月は接尾辞発話単位タイプ,トークンとも育児語働きかけ尺度との有意な相関があった。オノマトペや幼児語形と母親の言語観とは相関がなかった。また,母親の育児語使用とことばの重視点についての2尺度との相関はなかった。
結 論
子どもへのことばかけで育児語使用が重要だと考える母親は意識的に接尾辞(さん・ちゃん・くん)をつけて(例:くまさん,パンダさん,うさぎちゃん,パンダくん),子どもに話しかけていた。幼児語やオノマトペ使用には母親の言語発達観は反映されていなかった。
付 記
本研究の分析は科学研究費JSPS15K04098,平成28年度公益財団法人前川財団の助成をうけた。ご協力いただきました方々に感謝いたします。
養育者が乳幼児に話しかける時に使用する言葉(Child Directed Speech(CDS);育児語)は,大人同士が話す言葉とは異なり,音声面,語彙面,文法面,語用面で独特な言葉かけである。日本の養育者はCDSを頻繁に使い,また,長い期間,CDSを使用しているとの報告もある(Fernald & Morikawa, 1993)。本研究では言葉の発達やことばかけについての母親の言語発達観が育児語使用にどのようにあらわれているかを明らかにする。
方 法
対象:質問紙は9ヶ月42名,12ヶ月36名,18ヶ月61名,33ヶ月63名,計202名(18ヶ月の一部と33ヶ月は観察児の追跡データを含む)。観察は9ヶ月28名,12ヶ月27名,18ヶ月26名。
手続:一定のままごと遊具での自由な5分間の母子遊び場面を録画した。質問紙調査は事前に記入し,観察時に持参してもらった。追跡データは郵送により回収した。
分析:1.母子遊び場面の育児語:母子の発話のトランスクリプションを作成し,CHILDESのJCHAT方式と本研究目的にそった様式で入力し,以下の育児語測度のタイプ数とトークン数をclanにより算出した。(1)幼児語motherese:JMOR(宮田,2002)に従い,名詞形(例:マンマ),動作名詞形(例:ナイナイ),形容詞・形容名詞形(例:アチチ),communicator(例:イナイナイバー),(2)オノマトペ:語基だけ,語基反復withオノマトペ標識(促音,撥音,長音,り,複合),語基反復2以上語基withオノマトペ標識,(3)接尾辞(さん,ちゃん,くん)がついた語。(1)(2)(3)の各測度について,母親の発話数で除した発話単位タイプ数と発話単位トークン数を用いた。
2.母親の言語発達観の質問紙:(1)保育所保育指針(厚生労働省,2008)第3章の「エ言葉」「(イ)内容」に掲載されている12項目,評定は「非常に重視している」から「全く重視していない」の7段階,(2)村瀬(2009)が作成した親のことばかけの信念についての質問項目7項目に3項目を追加した10項目。評定は「非常にそう思う」から「全くそう思わない」の7段階。
結 果
1.育児語の年齢推移(ここではタイプの結果だけ記載):9,12,18ヶ月の発話単位オノマトペ,幼児語,接尾辞の発話単位タイプ頻度について年齢を個人間要因,育児語の種類を個人内要因として繰り返し要因のある分散分析をした結果,種類F(2, 162) = 111.648, p<.001,年齢F(2,81) = 3.197, p<.046, 種類×年齢 F(4,162) = 1.666, ns であった。発話単位タイプ頻度はオノマトペ > 幼児語 > 接尾辞の順でそれぞれの間に5%水準で有意な差があった。年齢は9ヶ月が18ヶ月に比べ有意に高かった。
2.(1)子どものことばに対する重視点項目の因子分析:12項目について 200名のデータから相関行列を算出し,最尤法,プロマックス回転で因子分析し,2因子を抽出した。第一因子は「あなたの応答的な関わりや話しかけにより,子どもが自ら言葉を使おうとする」「あなたと一緒にごっこ遊びなどをする中で,言葉のやり取りを楽しむ」「あなたや友達の言葉や話に興味や関心を持ち,親しみを持って聞いたり,話したりする」など5項目に負荷し,「ことばでの表現重視」因子と命名した。第二因子は,「生活の中で言葉の楽しさや美しさに気付く」「いろいろな体験を通じてイメージや言葉を豊かにする」「日常生活の中で,文字などで伝える楽しさを味わう」など6項目に負荷が高く,「言葉の豊かさ・楽しさ重視」因子と命名した。
(2)ことばかけについての項目の因子分析: 202名のデータから相関行列を算出し,共通性が0.10以下の1項目を削除し,9項目について最尤法,プロマックス回転で因子分析した結果,2因子を抽出した。第一因子は「『これ何?』などの質問をして,ことばをひきだすようにするのがよいと思う」「『りんご』,『ボール』などの物の名前を覚えることは重要だと思う」「子どもがまねしやすいように話しかけるのがよいと思う」「まわりのものに親しみがもてるように話しかけるのがよいと思う」など6項目に負荷が高く,「言語獲得援助因子」と名付けた。第二因子は「『わんわん』,『ねんね』,『ないない』など育児語をつかって話しかけるのが子どもがことばを覚えるのによいと思う」,「大人とあまり区別せずに,同じように話しかけるのがよいと思う」(負の負荷:逆転項目)の2項目に負荷し,「育児語働きかけ因子」と命名した。
3.母親の育児語使用と言語観:母親の言語発達観で抽出された「ことばでの表現重視」「言葉の豊かさ・楽しさ重視」「言語獲得援助」「育児語働きかけ」の因子を4尺度とし評定平均点を算出し,観察での母親のオノマトペ,幼児語,接尾辞の発話単位タイプ数とトークン数の相関を各月齢ごとに算出した。9ヶ月は接尾辞発話単位トークンと言語獲得援助尺度との有意な相関があり,12ヶ月,18ヶ月は接尾辞発話単位タイプ,トークンとも育児語働きかけ尺度との有意な相関があった。オノマトペや幼児語形と母親の言語観とは相関がなかった。また,母親の育児語使用とことばの重視点についての2尺度との相関はなかった。
結 論
子どもへのことばかけで育児語使用が重要だと考える母親は意識的に接尾辞(さん・ちゃん・くん)をつけて(例:くまさん,パンダさん,うさぎちゃん,パンダくん),子どもに話しかけていた。幼児語やオノマトペ使用には母親の言語発達観は反映されていなかった。
付 記
本研究の分析は科学研究費JSPS15K04098,平成28年度公益財団法人前川財団の助成をうけた。ご協力いただきました方々に感謝いたします。