1:00 PM - 3:00 PM
[PB03] 保育者効力感と子どもへの関心に及ぼす保育園における体験的実習の影響
Keywords:保育者効力感, 子どもへの関心, 体験的学習
問題・目的
幼稚園教諭や保育士の養成校においては,専門教育への興味関心を高め,幼児教育や保育に対する職業的適性を涵養することを目的として,初年次教育の一環として,幼保育園において体験的な実習を実施する養成校が増えてきた。しかし,体験的実習の効果に関する実証的報告は少ない。龍・河野・小川内(2011)は,体験的実習を通じて保育者効力感が促されることを報告し,体験的実習に関する認知内容を考慮する必要性を示唆した。そこで,本研究は,大学1年次に実施される保育園における体験的実習,実習に関する肯定・否定的認知が保育者効力感と子どもへの関心に及ぼす影響について検討することを目的とした。
方 法
調査対象:4年生大学において保育士資格と幼稚園免許状の取得が可能な専攻1年生。最終的分析対象は,体験的実習に関する事前調査と事後調査いずれにも回答した学生43名(男9名,女34名)。
調査に用いた測定尺度
保育者効力感尺度
三木・桜井(1998)の保育者効力感尺度(例えば,「私は,子どもの能力に応じた課題を出すことができると思う」等)10項目から構成されている。5件法で評定させた。
子どもへの関心尺度
扇原・村井(2012)の子どもへの関心尺度を用いた。好意的注目(例えば「幼児の姿を見かけるとつい目で追ってしまう」等14項目),同情(例えば「元気のない幼児を見ると心配になる」等7項目),好奇心(例えば「テレビに幼児が出てくると興味をもって見る」等6項目),寛容性(例えば「幼児の泣き声を聞くとイライラする(逆転項目)」等3項目)からなる。6件法で回答させた。
透過性調整力尺度
PCエゴグラム(桂・新里・水野,1997)の中で,透過性調整力に関わる項目(例えば「いつまでもくよくよしない」等)10項目を用いた。3件法で回答させた。
実習認知を尋ねる尺度
河野・龍(2016)を一部改変した(例えば「楽しい」「落ち込む」等)13項目。5件法で回答させた。
結 果
(1)体験的実習による変化:体験的実習の影響を分析した結果,事前と比較して事後の方が,保育者効力感,好意的注目,同情の得点が有意に低かった。
(2)保育者効力感,好意的注目及び同情の低下の原因
事後の保育者効力感,好意的注目,同情を目的変数,そして,各々の事前のデータ,実習の否定的認知,肯定的認知,透過性調整力を説明変数として,重回帰分析を実施したところ,以下の結果が得られた。
事後保育者効力感:事前の保育者効力感が低いほど(β=.54,p≺.01),また実習の否定的認知が高まるほど(β=.38,p≺.01),事後保育者効力感が低下した。事後好意的注目:事前の好意的注目が低いほど(β=.61,p≺.01) また有意傾向であるが肯定的な認知が低いほど(β=.24,p≺.10),事後子どもに対する好意的注目が低下した。事後同情:事前の同情が低いほど(β=.71,p≺.01),また実習の否定的認知が高いほど(β=.24,p≺.01),また透過性調整力が低いほど(β=.22,p≺.05),事後子どもに対する同情が低下した。
考 察
乳幼児との接触経験の乏しさによって形成された効力感(夢見る効力感)が,現実的な場面で保育現場を経験することによって,否定的な経験による自信の喪失が生じ,保育者効力感の低下(身の丈効力感)が生じたことが示唆される。正規の実習経験によって,保育者効力感の損失を報告した研究と一致している。さらに子どもへの関心が「好意的注目」「同情」に関して低下したことは,扇原・村井(2012)の報告とは異なる。彼らの報告では,子どもへの関心が,幼児との接触経験によって促されることが示唆される。子どものとの接触経験の質的な違いが反映しているのかもしれない。
幼稚園教諭や保育士の養成校においては,専門教育への興味関心を高め,幼児教育や保育に対する職業的適性を涵養することを目的として,初年次教育の一環として,幼保育園において体験的な実習を実施する養成校が増えてきた。しかし,体験的実習の効果に関する実証的報告は少ない。龍・河野・小川内(2011)は,体験的実習を通じて保育者効力感が促されることを報告し,体験的実習に関する認知内容を考慮する必要性を示唆した。そこで,本研究は,大学1年次に実施される保育園における体験的実習,実習に関する肯定・否定的認知が保育者効力感と子どもへの関心に及ぼす影響について検討することを目的とした。
方 法
調査対象:4年生大学において保育士資格と幼稚園免許状の取得が可能な専攻1年生。最終的分析対象は,体験的実習に関する事前調査と事後調査いずれにも回答した学生43名(男9名,女34名)。
調査に用いた測定尺度
保育者効力感尺度
三木・桜井(1998)の保育者効力感尺度(例えば,「私は,子どもの能力に応じた課題を出すことができると思う」等)10項目から構成されている。5件法で評定させた。
子どもへの関心尺度
扇原・村井(2012)の子どもへの関心尺度を用いた。好意的注目(例えば「幼児の姿を見かけるとつい目で追ってしまう」等14項目),同情(例えば「元気のない幼児を見ると心配になる」等7項目),好奇心(例えば「テレビに幼児が出てくると興味をもって見る」等6項目),寛容性(例えば「幼児の泣き声を聞くとイライラする(逆転項目)」等3項目)からなる。6件法で回答させた。
透過性調整力尺度
PCエゴグラム(桂・新里・水野,1997)の中で,透過性調整力に関わる項目(例えば「いつまでもくよくよしない」等)10項目を用いた。3件法で回答させた。
実習認知を尋ねる尺度
河野・龍(2016)を一部改変した(例えば「楽しい」「落ち込む」等)13項目。5件法で回答させた。
結 果
(1)体験的実習による変化:体験的実習の影響を分析した結果,事前と比較して事後の方が,保育者効力感,好意的注目,同情の得点が有意に低かった。
(2)保育者効力感,好意的注目及び同情の低下の原因
事後の保育者効力感,好意的注目,同情を目的変数,そして,各々の事前のデータ,実習の否定的認知,肯定的認知,透過性調整力を説明変数として,重回帰分析を実施したところ,以下の結果が得られた。
事後保育者効力感:事前の保育者効力感が低いほど(β=.54,p≺.01),また実習の否定的認知が高まるほど(β=.38,p≺.01),事後保育者効力感が低下した。事後好意的注目:事前の好意的注目が低いほど(β=.61,p≺.01) また有意傾向であるが肯定的な認知が低いほど(β=.24,p≺.10),事後子どもに対する好意的注目が低下した。事後同情:事前の同情が低いほど(β=.71,p≺.01),また実習の否定的認知が高いほど(β=.24,p≺.01),また透過性調整力が低いほど(β=.22,p≺.05),事後子どもに対する同情が低下した。
考 察
乳幼児との接触経験の乏しさによって形成された効力感(夢見る効力感)が,現実的な場面で保育現場を経験することによって,否定的な経験による自信の喪失が生じ,保育者効力感の低下(身の丈効力感)が生じたことが示唆される。正規の実習経験によって,保育者効力感の損失を報告した研究と一致している。さらに子どもへの関心が「好意的注目」「同情」に関して低下したことは,扇原・村井(2012)の報告とは異なる。彼らの報告では,子どもへの関心が,幼児との接触経験によって促されることが示唆される。子どものとの接触経験の質的な違いが反映しているのかもしれない。