13:00 〜 15:00
[PB13] 児童館での学生のボランティア活動が幼児の遊びや母子関係に与える影響について
キーワード:青年のボランティア活動, 幼児の発達, 母子関係
はじめに
近年,子どもの遊び場所であった空き地や路地,森や林は,安全面から懸念されており,代わりに地域の児童館が注目されている。子どもたちは館内で,職員に見守られながら遊ぶので,親にとっても安心できる場所であり,また館内のルールを守るという約束を守れば,比較的自由に遊ぶことができるので,様々な遊びが展開され,子どもの発達を促す場でもあると言える(児童健全育成推進財団,2014)。子どもたちは,職員にアイディアを出してもらったり,自らが遊びを作り出したり工夫したりしながら遊ぶ。また子どもたちは,同年齢で親密に遊んだり,年長が年少の子どもの面倒を見ながら遊んだり,時には同年齢や異年齢が一つの大きな集団となって,ダイナミックに遊ぶこともある(諏訪部・新谷,2017)。
さて今日の児童館では,乳幼児期の子育て支援にも重点が置かれ,0歳児や1-2歳児と母親のためのイベントが週1回から月2回のペースで開催され,親子体操や手遊び,紙芝居や工作など,親子が一緒になって楽しむことができる場となっている。また幼児の親子は,午前中からお弁当を持参して来館することもあり,午後には学校を終えた小学生も来館するので,乳幼児とその親,小中学生(時には高校生)が,児童館で様々な遊びを展開する場でもある。
筆者のゼミ生たち(3,4年生)は,これまで約10年間,大学周辺の児童館に出向きボランティア活動を行ってきた。学生たちは,来館する幼児の親子や児童を出迎え,子どもたちの遊びを補助し,イベントを手伝って,子どもたちとの交流を楽しんできた。そのようなこれまでの活動の中で,学生が子どもの発達や母子関係に影響を与えていると思われる事例や,学生が,母子との関わりから学んだと思われる事例が積み重なってきており,本研究では,その事例をいくつか紹介しながら,青年・幼児・親の間でどのよう相互作用があり,お互いの発達に影響を与えているか,また青年が,幼児とその親にどのような支援をすることができるかを考えていきたい。
学生の児童館での取り組み(事例)
(事例1:母子交流を促す子どもとの遊び) 母親は,子どもに絵本を読み聞かせることに関心がないようだった。そこで学生が何度か,子どもと一緒に絵本を読んで楽しんだ。子どもと学生は,幾度も二人で笑い合い,母親はそれを見て,「お姉さんに遊んでもらってよかったね。」と声をかけ,次第に自分も子どもと絵本を読むようになった。
(事例2:母親から学ぶ) ある幼児が,母親と来館するとすぐに,学生に向かって「カエルさん」と大きな声で訴えた。学生は何のことかわからなかったが,子どもはまた繰り返した。母親が「雨だったので,新しいレインコートを着てきたんですよ。ほら,ここにアップリケのカエル。」と解釈した。そのことで学生は,子どもの嬉しい気持ちの表現を理解することができた。
(事例3:子どもの自尊心を支える) 幼児の遊びで人気の乗用玩具の取り合いが起こった。2歳では順番を理解することには個人差がある。母親らが声をかけているところに学生も間に入り,泣いている子に「どうしても乗りたかったんだよね。○○ちゃんが一回りするまで一緒に待とうか。」と提案した。その子どもは学生と一緒に順番を待つことができ,順番が回って自分に車が来ると,嬉しそうにこぎ出した。
(事例4:子どもの内情を受け止める) ある幼児は,遠くから学生が他の子どもと遊ぶ様子を眺めていたが,遊びに誘っても近づいてこなかった。しかし遊びが終わるとさっとやってきて手をつなぎ,楽しくおしゃべりを始めた。学生は,一緒に来館し,最近生まれた妹をお世話する母親の様子を見ながら,甘えたいのかなと思い,しばらく2人きりでじっくりと遊んだ。
(事例5:母子のいさかいの緩衝として) 帰り際の幼児は,まだ遊びたい気持ちと疲れた気持ちが入り混じり,帰りを促しても納得せず,時として母子のいさかいに発展することがある。その時学生も一緒に立会い,「今度また遊ぼうね。」とゆびきりをすると,子どもは,次回も学生と遊べる約束ができたことが嬉しく納得した。母親も「ほら,お兄さんにお礼を言いなさい。」と言って子どもにお辞儀をさせ,楽しそうに帰っていった。
まとめと考察
自分の気持ちを素直に伝えられる人を親以外に作ることにより,子どもの空間は,「安心できる」場所になる。学生の児童館でのボランティア活動は,学生が幼児にも母親にも共感できる間の世代として,親子関係をつなぐ役割を担っていることが示された。また学生にとっても,言葉が未発達な幼児と関わることで,人の個人差について考えたり,他者の気持ちを推し量るスキルを磨くことができ,青年期の発達課題達成につながると考えることができた。更に幼児の母親にとっても,青年に子育ての様子を示してみせたり解釈したりすることは,中年期の発達課題である「次世代の育成」の役割を果たす機会となると考えられた。
近年,子どもの遊び場所であった空き地や路地,森や林は,安全面から懸念されており,代わりに地域の児童館が注目されている。子どもたちは館内で,職員に見守られながら遊ぶので,親にとっても安心できる場所であり,また館内のルールを守るという約束を守れば,比較的自由に遊ぶことができるので,様々な遊びが展開され,子どもの発達を促す場でもあると言える(児童健全育成推進財団,2014)。子どもたちは,職員にアイディアを出してもらったり,自らが遊びを作り出したり工夫したりしながら遊ぶ。また子どもたちは,同年齢で親密に遊んだり,年長が年少の子どもの面倒を見ながら遊んだり,時には同年齢や異年齢が一つの大きな集団となって,ダイナミックに遊ぶこともある(諏訪部・新谷,2017)。
さて今日の児童館では,乳幼児期の子育て支援にも重点が置かれ,0歳児や1-2歳児と母親のためのイベントが週1回から月2回のペースで開催され,親子体操や手遊び,紙芝居や工作など,親子が一緒になって楽しむことができる場となっている。また幼児の親子は,午前中からお弁当を持参して来館することもあり,午後には学校を終えた小学生も来館するので,乳幼児とその親,小中学生(時には高校生)が,児童館で様々な遊びを展開する場でもある。
筆者のゼミ生たち(3,4年生)は,これまで約10年間,大学周辺の児童館に出向きボランティア活動を行ってきた。学生たちは,来館する幼児の親子や児童を出迎え,子どもたちの遊びを補助し,イベントを手伝って,子どもたちとの交流を楽しんできた。そのようなこれまでの活動の中で,学生が子どもの発達や母子関係に影響を与えていると思われる事例や,学生が,母子との関わりから学んだと思われる事例が積み重なってきており,本研究では,その事例をいくつか紹介しながら,青年・幼児・親の間でどのよう相互作用があり,お互いの発達に影響を与えているか,また青年が,幼児とその親にどのような支援をすることができるかを考えていきたい。
学生の児童館での取り組み(事例)
(事例1:母子交流を促す子どもとの遊び) 母親は,子どもに絵本を読み聞かせることに関心がないようだった。そこで学生が何度か,子どもと一緒に絵本を読んで楽しんだ。子どもと学生は,幾度も二人で笑い合い,母親はそれを見て,「お姉さんに遊んでもらってよかったね。」と声をかけ,次第に自分も子どもと絵本を読むようになった。
(事例2:母親から学ぶ) ある幼児が,母親と来館するとすぐに,学生に向かって「カエルさん」と大きな声で訴えた。学生は何のことかわからなかったが,子どもはまた繰り返した。母親が「雨だったので,新しいレインコートを着てきたんですよ。ほら,ここにアップリケのカエル。」と解釈した。そのことで学生は,子どもの嬉しい気持ちの表現を理解することができた。
(事例3:子どもの自尊心を支える) 幼児の遊びで人気の乗用玩具の取り合いが起こった。2歳では順番を理解することには個人差がある。母親らが声をかけているところに学生も間に入り,泣いている子に「どうしても乗りたかったんだよね。○○ちゃんが一回りするまで一緒に待とうか。」と提案した。その子どもは学生と一緒に順番を待つことができ,順番が回って自分に車が来ると,嬉しそうにこぎ出した。
(事例4:子どもの内情を受け止める) ある幼児は,遠くから学生が他の子どもと遊ぶ様子を眺めていたが,遊びに誘っても近づいてこなかった。しかし遊びが終わるとさっとやってきて手をつなぎ,楽しくおしゃべりを始めた。学生は,一緒に来館し,最近生まれた妹をお世話する母親の様子を見ながら,甘えたいのかなと思い,しばらく2人きりでじっくりと遊んだ。
(事例5:母子のいさかいの緩衝として) 帰り際の幼児は,まだ遊びたい気持ちと疲れた気持ちが入り混じり,帰りを促しても納得せず,時として母子のいさかいに発展することがある。その時学生も一緒に立会い,「今度また遊ぼうね。」とゆびきりをすると,子どもは,次回も学生と遊べる約束ができたことが嬉しく納得した。母親も「ほら,お兄さんにお礼を言いなさい。」と言って子どもにお辞儀をさせ,楽しそうに帰っていった。
まとめと考察
自分の気持ちを素直に伝えられる人を親以外に作ることにより,子どもの空間は,「安心できる」場所になる。学生の児童館でのボランティア活動は,学生が幼児にも母親にも共感できる間の世代として,親子関係をつなぐ役割を担っていることが示された。また学生にとっても,言葉が未発達な幼児と関わることで,人の個人差について考えたり,他者の気持ちを推し量るスキルを磨くことができ,青年期の発達課題達成につながると考えることができた。更に幼児の母親にとっても,青年に子育ての様子を示してみせたり解釈したりすることは,中年期の発達課題である「次世代の育成」の役割を果たす機会となると考えられた。