日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PB(01-83)

ポスター発表 PB(01-83)

2017年10月7日(土) 13:00 〜 15:00 白鳥ホールB (4号館1階)

13:00 〜 15:00

[PB23] 大学院生の研究に対する態度構造を探る

学部新卒院生のPAC分析を通して

石橋玲子 (NPO日本語教育研究所)

キーワード:大学院生, 研究に対する態度, PAC分析

研究の背景と目的
 日本語教育において大学院生が研究の困難さを訴えるが,研究に対してどのような意識や態度を抱いているかはあまり明らかにされていない。本研究では,学部新卒大学院生を対象に研究に対する態度や認識の構造の分析を試み,院生の研究支援への方策を探ることを目的とする。
研究の方法
対象者:日本語学科学部新卒の女子大学院生2名(AとB)。日本語教育の経験はない。調査方法:研究に対する態度構造探索のためにPAC分析(内藤2002)を行った。PAC分析のデンデログラムのクラスター(CL)に基づいてインタビューを実施し,研究に対する態度や認識の構造を探った。実施時期:大学院2年修了前。
結果と考察
院生Aの結果:デンドログラムから3つのCLとした。CL1は,自分の研究の意義,研究をどう生かすか,先行研究の重要性,研究発表会,新しいことをする,多角的な分析から考察,多くの論文を読む,研究会で新しい視点を見つけるの連想項目で,インタビューでの語りから「研究に対する基本的態度」と命名した。CL2は,引用の注意,初めて読む人にも伝わる,内省力,正確な論文,分析力から「論文執筆での留意」とした。CL3は,わかりやすい教示文,アンケートの作成に注意する,調査協力者の確保で「実際の調査での留意」とした。この3つのクラスターの関連は要素的に大きいCL1 の中に論文執筆,調査のCL2,CL3を含むと語っている。研究におけるプロセスの観点からは道に例えており,CL1の広い道からCL2,CL3は狭くなっており,常に広いCL1とCL2,CL3間は行ったり来たりしながら自分の研究の意義と生かし方に関連させバランスをとるように心がけていると語っている。院生Aは,研究テーマが修士課程入学時と変えているが,研究過程を国内外の学会やシンポジウムで発表し,他の研究者の指摘を自分の研究の意義と関連付け取り入れることにより,ぶれることなく研究者として成長している態度が読み取れる。常に広い視野から自分の研究をみる態度が,先行研究の読みや研究会などで見出した新しい視点を自分の研究の中に生かそうとする意識を醸成させ,それが調査や論文執筆の緻密さにつながったことで,研究者として成長したことを認識している。
院生Bの結果:デンドログラムから3つのCLに分かれているとした。CL1は人間関係,信頼関係,物事を客観的に見る,積極性,謙虚さ,行動力,意見を受けいれるで,インタビューによる院生Bの解釈から「研究に対する姿勢」と命名した。CL2は,正確性,思考力,文章力で「修士論文執筆について」でまとまっていると語っている。CL3は,伝達力,調査,難しいでまとまっており,「実際の調査」と命名した。院生Bは,研究課題上,国内外での調査協力者が必要であったこと,修士課程では社会人の先輩院生にアドバイスを受けることも多かったことなどから,研究には信頼のおける人間関係の構築が重要であり,また,年齢,経験の不足から謙虚に他人の意見を受け入れることの重要さを認識している。CL1,CL2,CL3を通じて研究に対する難しさを語っていたが,修士論文を書き上げたことによる満足度は高く,人間としての自己成長感を強く認識している。
考察:院生Aと院生Bの研究に対する連想項目は異なるが,態度構造に見られるクラスターはほぼ同じであった。学部新卒の院生の場合,ゼミや授業で年齢や経験による知識不足を感じることが多いが,謙虚に他人の意見に耳を傾け客観的に新しい知見を取り入れることや,研究会への参加や研究発表をすることで研究の視野を広げることが研究者としての自己成長につながることが示唆された。学術論文執筆経験のない院生が大学院在籍2年間で研究をまとめ修士論文を執筆するのは大きなストレスを伴うものであるが,執筆後の自己成長感は大きく,磯野他(2012)の指摘する大学教育成果としての「学生自己成長感」として捉えることができる。今後は大学院生の研究におけるプロセスの中で自己成長感がどのように醸成されるのか,研究の成果との関連からもとらえ,大学院生の研究支援に生かす方策の検討が望まれる。また,異なる対象者,実施時期での検討も必要であろう。
引用文献
磯野誠・飛永佳代(2012).大学教育成果としての学生自己成長感 九共大紀要,2(2),25-38.
内藤哲雄(2002).PAC分析実践法入門(改訂版)ナカニシヤ出版