1:00 PM - 3:00 PM
[PB34] Kit-Build概念マップとScratch-Build概念マップからみた授業内容の能動的受容とレポート評価との関連
Keywords:概念マップ, 能動的受容
目 的
宇井他(2017)は,貧困をテーマとしたアカデミックな授業,貧困支援者による授業,フィールドワークから成る大学のオムニバス授業におけるKit-Build概念マップ(KB;Hirashima et al., 2015)とレポート内容の関連を検討した。KBでは,授業者が作成した授業内容の要点を概念マップの形式で表した要点マップの概念とリンク(KB概念・リンク)を,授業後に学習者に断片化した上で提供し,概念マップの再構成を求める。学習者が再構成したマップが要点マップと一致しているほど,学習者が授業内容を受容したと判定される。宇井他(2017)が各授業後に課されたレポート内容を分析した結果,レポート内容にKB概念・リンクを用いない学習者もいたことから,必ずしも授業内容が受容されていないことが示された。
しかし,授業内容を踏まえながら思考していくことは重要である(市川,2012など)。そこで本研究では,学習者に対して,授業内容と自分の知識とを関連づけながら,貧困への自分の理解を自由に概念マップ(Scratch-Build概念マップ;SB)を描くことを求め,授業内容の能動的な受容を促し,KB,SBの観点から学習者の授業内容の受容の程度を測定し,レポート評価との関連を検討した。
方 法
分析対象者:2015年実施授業の受講生18名。
調査手続き:宗教学,社会学,支援者A,フィールドワーク,支援者B,法学,倫理学,行政職員の順に授業が実施された。KBは,宗教学,社会学,法学,倫理学の授業の実施後にそれぞれ作成された。SBはそれぞれ,提供されたKB概念・リンクと,授業内容に関して学習者が自由に作成した概念・リンクを用いて,アカデミックな授業と貧困支援者やフィールドワークにおける授業内容とを関連づける概念マップが作成された(Table 1)。各授業後には1000字程度のレポートが課された。
分析項目:KBは一致率を算出した。SBは概念マップに描かれた命題を抽出した。レポート課題は授業担当者による評価(15点満点)を用いた。なおKB,SB,レポートを研究に使用すること,また研究結果は授業の成績に影響しないことを授業の初回に学習者に伝え,了承を得ている。
結果と考察
SBの命題の分類 SBの命題に用いられている2つの概念が,(1)2つとも学習者が独自作成,(2)1つは独自作成,1つはKBに由来,(3)2つとも同一のKBに由来,(4)2つが異なるKBに由来,また,(5)SBの命題がKBの命題と完全一致,の5種のカテゴリーに分類し,学習者別に各割合を算出した。
KB,SB,レポートの関係 KBとSBの相互関係を検討するために,KBの一致率,SBの各カテゴリーの割合に対して,主成分分析を行った。次に,第1,第2主成分得点とレポート評価との相関を算出し,主成分負荷量と相関とを2次元図に同時にプロットした(Figure 1)。
宗教学と社会学のレポート評価は,KBの一致率と,KBと同一命題を作成したことを示すSBの(5)と同方向の第1主成分の正の方向に布置された。また,法学と倫理学のレポート評価は,学習者独自の概念やリンクを用いつつもKB概念も用いたことを示すSBの(2)や(3)と同方向の第2主成分の正の方向に布置された。以上より,授業内容を受容している学習者ほど,レポートの評価が高かったことが示唆された。
ただし,本研究は実践研究のために調査対象者の人数も少なく,主成分得点とレポート評価との相関は有意ではなかったという問題点がある。今後も同様の授業において,データを蓄積していく必要がある。
謝 辞
JSPS科研費 JP 25350295の助成を受けた。
宇井他(2017)は,貧困をテーマとしたアカデミックな授業,貧困支援者による授業,フィールドワークから成る大学のオムニバス授業におけるKit-Build概念マップ(KB;Hirashima et al., 2015)とレポート内容の関連を検討した。KBでは,授業者が作成した授業内容の要点を概念マップの形式で表した要点マップの概念とリンク(KB概念・リンク)を,授業後に学習者に断片化した上で提供し,概念マップの再構成を求める。学習者が再構成したマップが要点マップと一致しているほど,学習者が授業内容を受容したと判定される。宇井他(2017)が各授業後に課されたレポート内容を分析した結果,レポート内容にKB概念・リンクを用いない学習者もいたことから,必ずしも授業内容が受容されていないことが示された。
しかし,授業内容を踏まえながら思考していくことは重要である(市川,2012など)。そこで本研究では,学習者に対して,授業内容と自分の知識とを関連づけながら,貧困への自分の理解を自由に概念マップ(Scratch-Build概念マップ;SB)を描くことを求め,授業内容の能動的な受容を促し,KB,SBの観点から学習者の授業内容の受容の程度を測定し,レポート評価との関連を検討した。
方 法
分析対象者:2015年実施授業の受講生18名。
調査手続き:宗教学,社会学,支援者A,フィールドワーク,支援者B,法学,倫理学,行政職員の順に授業が実施された。KBは,宗教学,社会学,法学,倫理学の授業の実施後にそれぞれ作成された。SBはそれぞれ,提供されたKB概念・リンクと,授業内容に関して学習者が自由に作成した概念・リンクを用いて,アカデミックな授業と貧困支援者やフィールドワークにおける授業内容とを関連づける概念マップが作成された(Table 1)。各授業後には1000字程度のレポートが課された。
分析項目:KBは一致率を算出した。SBは概念マップに描かれた命題を抽出した。レポート課題は授業担当者による評価(15点満点)を用いた。なおKB,SB,レポートを研究に使用すること,また研究結果は授業の成績に影響しないことを授業の初回に学習者に伝え,了承を得ている。
結果と考察
SBの命題の分類 SBの命題に用いられている2つの概念が,(1)2つとも学習者が独自作成,(2)1つは独自作成,1つはKBに由来,(3)2つとも同一のKBに由来,(4)2つが異なるKBに由来,また,(5)SBの命題がKBの命題と完全一致,の5種のカテゴリーに分類し,学習者別に各割合を算出した。
KB,SB,レポートの関係 KBとSBの相互関係を検討するために,KBの一致率,SBの各カテゴリーの割合に対して,主成分分析を行った。次に,第1,第2主成分得点とレポート評価との相関を算出し,主成分負荷量と相関とを2次元図に同時にプロットした(Figure 1)。
宗教学と社会学のレポート評価は,KBの一致率と,KBと同一命題を作成したことを示すSBの(5)と同方向の第1主成分の正の方向に布置された。また,法学と倫理学のレポート評価は,学習者独自の概念やリンクを用いつつもKB概念も用いたことを示すSBの(2)や(3)と同方向の第2主成分の正の方向に布置された。以上より,授業内容を受容している学習者ほど,レポートの評価が高かったことが示唆された。
ただし,本研究は実践研究のために調査対象者の人数も少なく,主成分得点とレポート評価との相関は有意ではなかったという問題点がある。今後も同様の授業において,データを蓄積していく必要がある。
謝 辞
JSPS科研費 JP 25350295の助成を受けた。