日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PB(01-83)

ポスター発表 PB(01-83)

2017年10月7日(土) 13:00 〜 15:00 白鳥ホールB (4号館1階)

13:00 〜 15:00

[PB36] JFL環境における日本語学習者の漢字学習への興味

メキシコの学習者を対象に

小林由子1, 佐藤梓2 (1.北海道大学, 2.北海道大学)

キーワード:興味, 漢字, 日本語学習者

メキシコにおける日本語学習者
 JFL(Japanese as Foreign Language)環境とは,日本での英語学習のように,教室外で日本語が使われていない日本語学習環境を指す。国際交流基金(2017)によると,海外における機関での2015年度の日本語学習者数は365万人を越えている。メキシコでは前回調査時の2012年度を約2400人上回る9240人の学習者が学んでおり,そのほとんどが大学か正規の学校教育外の機関に所属している。
 メキシコなど日本との関わりがあまり深くない学習環境では,就職などの利益よりも日本語・日本文化への興味から日本語学習を始める学習者が多い。しかし,興味を持っているにもかかわらず教室を離れると学習が継続せず,初級段階に留まってしまうことが課題となっている(佐藤 2017)。これは,日本の大学での第二外国語学習においても同様であろう。
先行研究と本研究の意義・目的
 田中(2015)は,日本での理科の学習における興味について調査を行った。そして,興味を必要な知識の量により「感情的興味」と「価値的興味」に分類し,「価値的興味」である「思考活性型興味」や「日常関連型興味」は意味理解方略や学習行動に結びつく重要な「深い興味」であることを示した。
 興味は学習内容によって異なることが予想される。特に,興味が主な学習動機となるJFL環境での日本語学習において,学習者がどのような興味を持っているのか,学習段階によりどう異なるかを知ることには教育的意義がある。
 日本語学習には様々な側面があるが,本研究では特に漢字学習に焦点を当てる。なぜなら,日本語の文字体系は他言語と異なっており,文字,特に漢字の複雑さが学習困難の理由となることが多々あるためである。
 そこで,本研究では,JFL環境であるメキシコの日本語学習者が日本語の文字・漢字にどのような興味を持ち,その興味が学習歴によりどのように異なるかを明らかにする。
方   法
対象者:メキシコの大学の初級日本語学習者
    A:学習歴1年未満 24名
    B:学習歴1年〜2年未満 19名
    C:学習歴2〜3年  18名
調査時期:2016年3月
質問項目:「日本語についてどのような項目が興味深いか・好きだと思うか」(自由記述)
分析方法:KJ法(日本語教育を専門とする大学教員1名・大学院生2名の合議による)
結   果
 学習歴により異なる解答傾向が見られた。以下は特徴的な解答例である。
A(学習歴1年未満)
 日本の文字はカタカナもひらがなも美しい
 全く異なる文字体系である
 難しい文字を克服することが好き
B(学習歴1年〜2年未満)
 漢字が表意文字だから
 漢字には関連性がある
 異なる組み合わせで新しい言葉を作り出せる
C(学習歴2年〜3年)
 3つの文字を混ぜて書く書き方が好き
 読み方がたくさんある
 語彙に同音異義語がたくさんある
 漢字を組み合わせると新しい漢字になる
 漢字を使うのが好き
考   察
 学習歴が長くなるにつれ,漢字の具体的な有用性や実際の漢字使用が「興味」となっていくことが伺える。また,学習初期段階から,文字が母語と異なること・難しい文字を克服する困難さなどが興味として挙げられていることにも注目すべきであろう。
 日本語の文字の複雑さは学習困難の要因でもあるため,認知負荷に応じた漢字学習活動設計(小林1998)を行っていくことにより,漢字学習動機の継続が可能であると考えられる。
参考文献
小林由子(1998)「漢字授業における学習活動—認知心理学的モデルによる検討—」『北海道大学留学生センター紀要』2,88-102
国際交流基金(2017)『2015年度海外日本語教育機関調査』http://www.jpf.go.jp/j/project/japanese/survey/result/dl/survey_2015/all.pdf (2017年5月15日最終アクセス)
佐藤梓(2017)「JFL環境における日本語学習者の「興味」:メキシコ人学習者を対象に」『国際広報メディア・観光学ジャーナル』24, 91-108
田中瑛津子(2015)「理科に対する興味の分類:意味理解方略と学習行動との関連に着目して」『教育心理学研究』63, 23-36