日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PB(01-83)

ポスター発表 PB(01-83)

2017年10月7日(土) 13:00 〜 15:00 白鳥ホールB (4号館1階)

13:00 〜 15:00

[PB43] ライティングの反転授業が文章産出困難感に与える影響

椿本弥生1, 冨永敦子2 (1.公立はこだて未来大学, 2.公立はこだて未来大学)

キーワード:反転授業, アカデミック・ライティング, 初年次教育

背景と目的
 初年次教育の一環として,大学におけるアカデミック・ライティング授業が広く行われるようになってきた。対象の公立大学情報系学部の1年生必修授業(半期15回)では,ライティングの知識と技能を効率的・効果的に習得させるために,マップ,アウトラインマップ,詳細化アウトラインからなるアウトラインツールを導入し,これらを利用した学術的文章の作成方法をeラーニング(以下,eL)で教授している。この授業は,授業時間を演習にあて,授業外の時間をeLでの基礎知識・技術の習得にあてる反転授業形式で実施している。冨永ら(2015)は,アウトラインツールの使用が文章産出困難感(岸ら,2012)に与える影響を検証した。その結果,レポート全体の一貫性や内容の伝わりやすさへの意識が高まる,書く内容を思いつき整理できるようになるという効果が示された。このように,対象の授業ではアウトラインツールの効果を検討してきた。しかしながら,eLを活用した反転授業が書き手にもたらす効果は未検証である。本研究では,岸ら(2012)の文章産出困難感尺度(以下,困難感)を用い,反転授業が書き手の文章産出困難感に与える効果を検証する。
方   法
 初回授業(pre)と最終授業後(post)で困難感(7段階リッカートスケール)に回答させた。また,対象とする反転授業で利用しているeラーニングと困難感との関連を調べるために,eラーニング指向性尺度(5段階リッカートスケール,以下,eL指向性)(冨永ら,2011)をpostのみで回答させた。これら全てに回答した208名を分析対象とした。
結果と考察
信頼性分析Cronbachのα係数によって,使用した尺度の信頼性を確認した。その結果,困難感(全体構成:α=.85,表現選択:α=.83,読み手意識:α=.78,アイディア:α=.92,推敲:α=.89)とeL指向性(α=.81)の両尺度ともに十分な内的整合性が得られた。
二要因分散分析eL指向性の平均値(3.47)を用いて,調査協力者を指向性高群と低群に分けた。eL指向性を被験者間要因,preおよびpostの困難感を被験者内要因として,二要因分散分析を行った。その結果,全体構成,表現選択,読み手意識では,困難感の主効果が有意であった(F(1,206)=56.73, p=.00:F(1,206)=9.81, p=.00:F(1,206)=6.89, p=.00)。いずれもpreよりもpostのほうが高かった。アイディアでは,eL指向性と困難感のいずれも有意な主効果はみられなかった。推敲では,eL指向性と困難感の交互作用が有意であった(F(1,206)=8.39, p=.00)。また,困難感の主効果もみられた(F(1,206)=4.59, p=.03)。交互作用について単純主効果の検定を行った(Bonferroniの方法)。その結果,eL指向性の低群において困難感の単純主効果が有意であった(F(1,206)=11.19, p=.00)。これについても,preよりもpostのほうが高かった。
 アイディア以外の因子では,反転授業前よりも後のほうが困難感が減じていることが示された。これは,各因子に関連するWhat(知識)とHow(技術)についてのeLコンテンツを書き手が活用できたことを示していると推測される。eLを苦手だと感じている書き手は,反転授業のもう一つの側面である対面での多くの演習によって,推敲の力を向上させることができたと思われる。アイディア生成・整理については,他の因子と同様にeLと対面演習で指導がなされる。しかし一方で,それらをふまえた書き手自身による文献の検索と読解による積極的関与も,アイディア生成のためには重要となる。このような活動の特徴から,今回は効果を確認しきれなかったと考える。
引用文献
岸学・梶井芳明・飯島里美(2012)文章産出困難 感尺度の作成とその妥当性の検討.東京学芸大学紀要 総合教育科学系, 63(1), 159-169
冨永敦子・向後千春・石川奈保子(2011)eラーニング指向性尺度およびブレンド型指向性尺度の検討.日本教育工学会研究報告集, 11(3), 91-98
冨永敦子・大塚裕子・椿本弥生(2015)アウトラインツールが大学生の文章産出困難感に与える影響. 日本教育心理学会第57会総会発表論文集, 226
付   記
本研究は,科学研究費補助金(25282060,25540060)の支援を受けた。