13:00 〜 15:00
[PB44] 不適切な読解表象はいかに形成されるか(1)
説明的文章に関する大学生の「まとめ」の分析
キーワード:読解表象, 説明的文章, 大学生
問題と目的
文章の読解表象を作りあげる際,もとの文章はどのように利用されているのだろうか。舛田(2016)は,大学生読者11名への面接調査を通じて,文章各部への注目と,文章全体への理解をそれぞれ把握し,読解表象がどのように形成されていくのか検討した。その結果,読者は当該の文章を理解する上で重要な部分とそれ以外の部分の区別は概ね理解していた。しかし,まとめにみる全体の読解表象は,重要な部分だけではなく,個人的に注目した部分をも取り入れて作られていた。この結果は,舛田(2011)での「自分の意見を興味深い形で提示するのが良い結論だ」との学生の認識とも通底するため興味深い。しかしこれは少人数から得られた結果であり,再現性に疑問が残る。そこで本研究では舛田(2016)と同じ文章を用いて,より多くの読者からデータを得,同様の結果が得られるか検討する事を目的とする。
方 法
1)材料文 材料文の題材は,舛田(2016)で用いたものと同じ,電車内の携帯電話の使用に関する解説記事(朝日新聞2008年2月6日付,1198字)で,現状とは異なる部分等を修正・編集した1074字を利用した。この文章の構成は,(1)「電車内等では心臓ペースメーカー(PM)に配慮し,携帯電話の電源を切るよう言われるが,携帯の電波は本当に危険なのか」との問いの提示。(2)「PM利用者友の会は携帯の電波は影響しないとしている」事に加え,PM患者自身も携帯電話を使用している事等の紹介。(3)PMと携帯との安全距離22㎝(2008年当時)と,その算出根拠等,また携帯及びPMの現機種ではほとんど影響がない事の明示。(4)「他の家電品などに携帯よりもPMに悪影響なものがある」として終わるものである。文章の主旨としては,「携帯の電波はPMに取って危険ではない,なぜならPM患者も携帯を使っているし,携帯とPMの間の安全距離やその根拠が示されている」と捉えるのが妥当であると考えられる。
2)質問紙の構成 1.重要個所と気になる箇所の把握 文章を(1)・(2)と(3)・(4)の2つに分け,それぞれにおいて,この文章を理解する上で重要だと感じる箇所と,個人的に気になる箇所を区別して抽出させた。2. 文章全体の読解表象の把握 「文章が全体として説明・解説・知らせようとしている事」を自由に記述させた。
3)研究参加者と実施の手続き 研究参加者は文系の私立大学生96名で,2017年1月に実施した。上述の質問紙を自分のペースで読み進め,回答してもらった。
結果と考察
記載漏れがあったものを除き,86名が分析の対象となった。研究者2名が独立に読解表象を,適切(内容の過不足ないまとめ),許容(不十分な点はあるが大きな逸脱はないまとめ),不適切(内容を逸脱したまとめ)の3分類で判断した後,不一致の部分は合議によって調整した(一致率89.5%)。適切と判断されたのは17名(19.8%),許容は9名(10.5%),不適切は60名(69.8%)であった。次いで,学習者のまとめが本文をどのように利用しているかを検討した。その結果,自身で抽出した重要個所・自身で抽出した気になる箇所・抽出されていない本文中の個所・学習者の解釈の4つが同定され,これらの組み合わせで14種類が見いだされた。この4つを適切・許容・不適切の各学習者がどの程度利用しているか,延べ人数で見た(表1)。適切では重要・本文が多く,気になる・解釈が少ないのに対し,不適切では解釈・気になる・本文が多く,重要が少ない。許容は重要・本文が気になる・解釈に比べて多い傾向にあるが,適切ほど明確な違いはない。
続いて,主旨を表現していて,全体的なまとめを作るためには利用することが必要な文(主旨文)を,研究者2名の合議により7文本文中から抽出し,適切・許容・不適切の各学習者によってそれらが重要箇所として抽出されているか検討した(表2)。適切で重要個所としての抽出数がやや多く,許容でやや少ない傾向にあるが,明確な差異は認められない。
以上2つの結果から,本研究の学習者は,主旨文を同定し,抽出することはある程度できているのかもしれない。しかし,特に不適切において,それを自身のまとめに利用せず,自分自身の解釈や気になる箇所を利用したまとめを作っていることがわかる。逆に適切においては,重要箇所・本文中から抽出した箇所,すなわち文章中に見つかる客観的な部分に限定して利用し,気になる箇所・解釈といった,自分の主観的な思考に頼らない傾向があるのかもしれない。これらについては,(2)において詳細に検討する。
文章の読解表象を作りあげる際,もとの文章はどのように利用されているのだろうか。舛田(2016)は,大学生読者11名への面接調査を通じて,文章各部への注目と,文章全体への理解をそれぞれ把握し,読解表象がどのように形成されていくのか検討した。その結果,読者は当該の文章を理解する上で重要な部分とそれ以外の部分の区別は概ね理解していた。しかし,まとめにみる全体の読解表象は,重要な部分だけではなく,個人的に注目した部分をも取り入れて作られていた。この結果は,舛田(2011)での「自分の意見を興味深い形で提示するのが良い結論だ」との学生の認識とも通底するため興味深い。しかしこれは少人数から得られた結果であり,再現性に疑問が残る。そこで本研究では舛田(2016)と同じ文章を用いて,より多くの読者からデータを得,同様の結果が得られるか検討する事を目的とする。
方 法
1)材料文 材料文の題材は,舛田(2016)で用いたものと同じ,電車内の携帯電話の使用に関する解説記事(朝日新聞2008年2月6日付,1198字)で,現状とは異なる部分等を修正・編集した1074字を利用した。この文章の構成は,(1)「電車内等では心臓ペースメーカー(PM)に配慮し,携帯電話の電源を切るよう言われるが,携帯の電波は本当に危険なのか」との問いの提示。(2)「PM利用者友の会は携帯の電波は影響しないとしている」事に加え,PM患者自身も携帯電話を使用している事等の紹介。(3)PMと携帯との安全距離22㎝(2008年当時)と,その算出根拠等,また携帯及びPMの現機種ではほとんど影響がない事の明示。(4)「他の家電品などに携帯よりもPMに悪影響なものがある」として終わるものである。文章の主旨としては,「携帯の電波はPMに取って危険ではない,なぜならPM患者も携帯を使っているし,携帯とPMの間の安全距離やその根拠が示されている」と捉えるのが妥当であると考えられる。
2)質問紙の構成 1.重要個所と気になる箇所の把握 文章を(1)・(2)と(3)・(4)の2つに分け,それぞれにおいて,この文章を理解する上で重要だと感じる箇所と,個人的に気になる箇所を区別して抽出させた。2. 文章全体の読解表象の把握 「文章が全体として説明・解説・知らせようとしている事」を自由に記述させた。
3)研究参加者と実施の手続き 研究参加者は文系の私立大学生96名で,2017年1月に実施した。上述の質問紙を自分のペースで読み進め,回答してもらった。
結果と考察
記載漏れがあったものを除き,86名が分析の対象となった。研究者2名が独立に読解表象を,適切(内容の過不足ないまとめ),許容(不十分な点はあるが大きな逸脱はないまとめ),不適切(内容を逸脱したまとめ)の3分類で判断した後,不一致の部分は合議によって調整した(一致率89.5%)。適切と判断されたのは17名(19.8%),許容は9名(10.5%),不適切は60名(69.8%)であった。次いで,学習者のまとめが本文をどのように利用しているかを検討した。その結果,自身で抽出した重要個所・自身で抽出した気になる箇所・抽出されていない本文中の個所・学習者の解釈の4つが同定され,これらの組み合わせで14種類が見いだされた。この4つを適切・許容・不適切の各学習者がどの程度利用しているか,延べ人数で見た(表1)。適切では重要・本文が多く,気になる・解釈が少ないのに対し,不適切では解釈・気になる・本文が多く,重要が少ない。許容は重要・本文が気になる・解釈に比べて多い傾向にあるが,適切ほど明確な違いはない。
続いて,主旨を表現していて,全体的なまとめを作るためには利用することが必要な文(主旨文)を,研究者2名の合議により7文本文中から抽出し,適切・許容・不適切の各学習者によってそれらが重要箇所として抽出されているか検討した(表2)。適切で重要個所としての抽出数がやや多く,許容でやや少ない傾向にあるが,明確な差異は認められない。
以上2つの結果から,本研究の学習者は,主旨文を同定し,抽出することはある程度できているのかもしれない。しかし,特に不適切において,それを自身のまとめに利用せず,自分自身の解釈や気になる箇所を利用したまとめを作っていることがわかる。逆に適切においては,重要箇所・本文中から抽出した箇所,すなわち文章中に見つかる客観的な部分に限定して利用し,気になる箇所・解釈といった,自分の主観的な思考に頼らない傾向があるのかもしれない。これらについては,(2)において詳細に検討する。