日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PB(01-83)

ポスター発表 PB(01-83)

2017年10月7日(土) 13:00 〜 15:00 白鳥ホールB (4号館1階)

13:00 〜 15:00

[PB54] 大学生における稼得意識の検討(2)

職業観と平等主義的性役割態度との関連

松並知子1, 上野淳子2 (1.武庫川女子大学, 2.四天王寺大学)

キーワード:ジェンダー, 職業観, 金融経済

目   的
 研究(1)では稼得意識の男女差に着目したが,本研究では職業観と平等主義的性役割態度との関連を検討する。職業観や平等主義的性役割態度は将来のキャリアプラン選択に関連することが,また職業観は自立志向とも相関があることが示唆されているので(松並・荻野,2015;上野,2014),稼得意識とも関連することが予測される。また経済への関心との関連にも焦点を当て,稼得意識を獲得する背景には何があるのかをより詳細に検討することを目的とする。
方   法
 2017年1月,大学生130名(女性92名,男性38名)を対象に質問紙調査を行った。平均年齢は20.26歳であった(SD=0.93)。
稼得の予想 研究(1)と同じ
結婚後の収入割合の希望 研究(1)と同じ
経済への関心 研究(1)と同じ
職業観尺度 加藤ら(2011)による24項目を用いた。「あなたは将来の仕事について,どのように考えていますか」という質問に対し,5件法により評定を求めた。
平等主義的性役割態度スケール短縮版(SESRA-S) 鈴木(1994)による15項目に対し,5件法で回答を求めた。
結   果
 職業観尺度に対し因子分析(最尤法,Promax回転)を実施した結果,23項目2因子を採択した。第1因子は「仕事を通して社会へ貢献する」などの項目から成る“やりがい”,第2因子は「経済的な安定のために働く」などから成る“安定”であった。SESRA-Sは先行研究同様,1因子構造であった。それぞれの男女差を検討したところ,職業観の“やりがい”と“安定”はどちらも女性の得点が高かった(t(124)=2.62, p<.05;t(123)=2.52, p<.05)が,SESRA-Sには有意差は見られなかった(t(127)=1.24, n.s.)。
 パートナーとの収入割合について,「相手の方が多く稼ぐ」「対等に稼ぐ」「自分の方が多く稼ぐ」の3群を男女別に分けた結果,「自分が多く稼ぐ」を選択した女性は1人,「相手が多く稼ぐ」を選択した男性は1人,「対等に稼ぐ」を選択した男性は0人だったので,それら3群を削除した。残りの3群を独立変数に,“やりがい”と“安定”,SESRA-Sを従属変数として,一元配置分散分析を行った結果,SESRA-Sには有意差が見られたが,職業観には有意差は見られなかった(Table1)。多重比較の結果,「対等に稼ぐ」を選択した人が有意にSESRA-S得点が高かった。
 経済・金融問題への興味関心度についてカイ二乗検定を行い男女差を検討したところ,有意な偏りはなかった。そこで男女込みで,興味関心度を高群・低群に分け,稼得の予想記述カテゴリー(研究1参照)ごとの人数の偏りを検討した。その結果,“高収入”と記述した人は有意に興味関心が高く(正確確率検定, p<.01),“低能力”に関する記述をした人は興味関心が低いという有意傾向が見られた(χ2(1)=3.38, p<.10)。
考   察
 女性の方が,将来の職業に対してはやりがいや安定を求める気持ちが強いが,結婚後の収入についてはパートナーに依存する傾向が見られた。またパートナーが多く稼ぐことを望む女性と自分の方が多く稼ぐことを希望する男性は性別役割意識が強い傾向が示された。研究(1)同様,女性は職業への意欲や関心が低いわけではないが,稼得意識は男性よりも低く,その要因として性別役割意識が関連していることが示唆された。また,男性の稼得意識にも性別役割意識が関連している傾向が見られた。
 金融経済への興味や関心との関連では,将来多く稼ぐことができるという自信のある人は経済への関心が高い一方,関心が低い人は「自分は能力が低いから多くは稼げないだろう」と予想していることが示唆された。近年,金融や経済の働きを理解し,それを通じて社会や自身の生活・人生について考え行動できることを目指す金融経済教育の必要性が強調されているが,金融経済への関心や知識は稼得意識と関連していることが示唆された。今後は,金融経済教育やジェンダー教育など,幅広い分野にわたるキャリア教育の実施が必要であると考えられる。