The 59th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

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ポスター発表 PB(01-83)

ポスター発表 PB(01-83)

Sat. Oct 7, 2017 1:00 PM - 3:00 PM 白鳥ホールB (4号館1階)

1:00 PM - 3:00 PM

[PB60] 保育者の共感性と共感疲労経験および精神的健康との関連

木野和代1, 内田千春2 (1.宮城学院女子大学, 2.東洋大学)

Keywords:多次元共感性, 共感疲労, 保育士

問題と目的
 共感性は,保育者に欠かせない資質の一つとして重要視されている(秋政他,2009など)。しかし,多様化する保育現場では共感しすぎることが,共感疲労に結びつくことも考えられる。また,他者のことを思っての行動がネガティブな結果を招く可能性もある。
 そこで木野他(2011など)は,保育者志望の学生を対象に共感疲労に陥りにくい共感性のあり方を明らかにし,保育者の精神的健康を維持し長期的な職場貢献を可能にするような対応策を検討・提案することを目指してきた。これまで,保育者養成課程在籍学生を対象とした調査から,共感性の下位側面である被影響性および自己指向的反応が共感疲労と関わることなどが示唆されている。ただし,この共感疲労は仮想場面での反応傾向であった。そこで本研究では,現職保育者の共感性と共感疲労経験および精神的健康状態との関連を検討する。
方   法
調査対象者 M県内の保育園(所)19園に依頼し,18園から協力を得て368部の調査票を配布した。回答者数は335名であったが,回答不備や保育者以外による6名分の回答は分析対象外とした(女308名,男21名;20~65歳;保育歴0.33~38.67年;正規254名,非正規63名;クラス担任212名,主任・副主任21名,園長・副園長10名)。
調査内容 【1】WHO-5 精神健康状態表(1998年版):最近1か月の状態に変更。5項目・6件法(0-5の配点)。【2】多次元共感性尺度10項目版(木野・鈴木,2016):5つの下位側面について各2項目,5件法。【3】共感満足/共感疲労:藤岡(2012)による援助者のための自己テストを保育者版に修正し,人生における満足感(A4)を除き,最終的に22項目を採用。最近1か月の状態について6件法(0-5の配点)。【4】その他:職務状況や保育者にとって理想の共感性についてたずねた。
結果と考察
各下位尺度得点の算出 精神的健康状態表および多次元共感性尺度については,原典通りの構成で評定値の合計得点を求めた。また,共感満足・共感疲労の各下位尺度得点については,原典の項目構成に従って評定平均とした。
精神的健康および共感満足・共感疲労に関連する側面 精神的健康と共感満足・共感疲労との関連,および,これらと共感性等の関連を検討するために相関分析をおこなった(Table 1)。
 分析の結果,精神的健康状況は,共感満足の各側面と正の,共感疲労の各側面と負の関連が見られた。また,これらと他の個人変数との関連を見ると,年齢・保育者歴は,精神的健康と関連しないが,援助者の資質としての満足(A3)と正の関連が見られた。
 共感性との関連については,ORとPT,すなわち他者指向的側面が,共感満足における仕事仲間(A1)や援助対象者(A2)といった職場の人間関係への満足感と正の関連を,共感疲労における援助者との関わりから受ける否定的感情(C2)やつらい体験の想起回避(C3)と負の関連を,そして精神的健康状態とは正の関連を示した。共感性の他者指向的側面が,職場において良い関係を取り持ち,共感疲労を避け,精神的健康にも寄与する可能性が示唆された。
 養成課程の学生を対象とした仮想場面の研究で共感疲労との関連が指摘されてきたSRとSEについて見ると,SRとC2,SEとC3の間に正の関連が,SEについては精神的健康と負の関連が見られた。これらの側面は,実際の職務上でも課題となる可能性が確認された。
※本研究は,JSPS科研費(課題番号:JP26380943)の助成を受けた。