1:00 PM - 3:00 PM
[PB64] 知的障害児の行動調整能力の向上に向けた教員への支援
Keywords:特別支援教育, 知的障害, 行動調整能力
研究の目的
筆者は,過去に知的障害のある生徒への特別支援教育に携わる教員を対象として,対応に苦慮している点について質問紙調査を行った。それにより,生徒の抱える言語理解と表現における困難が,周囲への加害など行動調整の課題に関連していることが示唆された(村上,2015)。よって,生徒の行動調整能力の向上に向けた支援により生徒及び教員の苦悩も緩和されると考える。本報告の目的は,教員支援の経過から知的障害児事例への行動調整能力の向上に向けた支援方法について検討することである。支援経過を通して,行動調整能力の向上に肯定的に作用した支援方法に関して意味付けを行うことにより有効な支援方法を提起することを志向したい。なお,報告内容は,趣旨に影響しない範囲で事実を一部改変している。
方 法
本研究の対象となる教員支援は,訪問型の巡回相談のかたちをとりX年6月から(X+1)年3月までの間に計6回実施された。教員が所属するのは近畿地方の公立支援学校である。対象生徒は知的障害のある中学3年の生徒である。生徒の実態は子どもの行動チェックリスト(CBCL)をもとに事前と最終時点で評価された。事前のCBCLの結果,下位項目のうち攻撃的行動に加えて社会性の問題も臨床域の値であった。筆者は,本研究に特化した個別の指導計画策定や支援方法に関して助言と提案を行った。中間時点以降では,支援の振り返り・評価に関して教員との間で意見を交換し,特に心理的援助の側面から助言を行った。期間を通して教員からの聞き取りを重視した。
経 過
行動調整に焦点を当てた個別の指導計画の当初の目標は,①ストレスマネジメントの方法を身につけること,②自分の言葉で自分に言い聞かせることの2つであった。全期間を通して生徒が積極的に取り組んだのは,①に関する身体の弛緩方法の練習である。②の自己に向けた外言による行動調整の面では,大きな変化は見られなかった。
終盤の協議において,他害場面の状況に関する精査がなされた。その結果,他害の後の相手の反応が生徒にとってある種の心理的な報酬をもたらしていると考えるに至った。この点を踏まえ②の方針を変換し,適切な方法で心理的報酬が得られるよう生徒の言語能力や認知レベルに応じた相互交流の活動を提案した。カードを用いたコミュニケーションに関する支援に加えて,「自立活動」の時間に生徒と教員とが交互に役割を代わる順番交代制活動が導入された。興味のある物の写真を生徒と教員とが交互に貼る活動やゲーム形式の活動などである。支援期間終盤の3ヵ月間に,単位時間当たりの他害の頻度は最終的に1/5に減少した。最終時点のCBCLで,「社会性の問題」の値は減少した。
考 察
本事例において行動調整能力の向上をねらいとする支援の核となるのは,社会性の問題へのアプローチであると考える。教員との情緒的な交流を促進する相互的な活動が生徒と教員との信頼関係の深化に作用したといえよう。Figure1に示すように,教員との関係を基盤にして生徒の内面に満足感や自己肯定感,さらに有能感といった肯定的な感情が蓄積され,心理的な安定が獲得されるに至ったと推察される。そのため,不適切な行動により心理的報酬を得ていた時期の行動パターンが変化したと考えられる。
筆者は,過去に知的障害のある生徒への特別支援教育に携わる教員を対象として,対応に苦慮している点について質問紙調査を行った。それにより,生徒の抱える言語理解と表現における困難が,周囲への加害など行動調整の課題に関連していることが示唆された(村上,2015)。よって,生徒の行動調整能力の向上に向けた支援により生徒及び教員の苦悩も緩和されると考える。本報告の目的は,教員支援の経過から知的障害児事例への行動調整能力の向上に向けた支援方法について検討することである。支援経過を通して,行動調整能力の向上に肯定的に作用した支援方法に関して意味付けを行うことにより有効な支援方法を提起することを志向したい。なお,報告内容は,趣旨に影響しない範囲で事実を一部改変している。
方 法
本研究の対象となる教員支援は,訪問型の巡回相談のかたちをとりX年6月から(X+1)年3月までの間に計6回実施された。教員が所属するのは近畿地方の公立支援学校である。対象生徒は知的障害のある中学3年の生徒である。生徒の実態は子どもの行動チェックリスト(CBCL)をもとに事前と最終時点で評価された。事前のCBCLの結果,下位項目のうち攻撃的行動に加えて社会性の問題も臨床域の値であった。筆者は,本研究に特化した個別の指導計画策定や支援方法に関して助言と提案を行った。中間時点以降では,支援の振り返り・評価に関して教員との間で意見を交換し,特に心理的援助の側面から助言を行った。期間を通して教員からの聞き取りを重視した。
経 過
行動調整に焦点を当てた個別の指導計画の当初の目標は,①ストレスマネジメントの方法を身につけること,②自分の言葉で自分に言い聞かせることの2つであった。全期間を通して生徒が積極的に取り組んだのは,①に関する身体の弛緩方法の練習である。②の自己に向けた外言による行動調整の面では,大きな変化は見られなかった。
終盤の協議において,他害場面の状況に関する精査がなされた。その結果,他害の後の相手の反応が生徒にとってある種の心理的な報酬をもたらしていると考えるに至った。この点を踏まえ②の方針を変換し,適切な方法で心理的報酬が得られるよう生徒の言語能力や認知レベルに応じた相互交流の活動を提案した。カードを用いたコミュニケーションに関する支援に加えて,「自立活動」の時間に生徒と教員とが交互に役割を代わる順番交代制活動が導入された。興味のある物の写真を生徒と教員とが交互に貼る活動やゲーム形式の活動などである。支援期間終盤の3ヵ月間に,単位時間当たりの他害の頻度は最終的に1/5に減少した。最終時点のCBCLで,「社会性の問題」の値は減少した。
考 察
本事例において行動調整能力の向上をねらいとする支援の核となるのは,社会性の問題へのアプローチであると考える。教員との情緒的な交流を促進する相互的な活動が生徒と教員との信頼関係の深化に作用したといえよう。Figure1に示すように,教員との関係を基盤にして生徒の内面に満足感や自己肯定感,さらに有能感といった肯定的な感情が蓄積され,心理的な安定が獲得されるに至ったと推察される。そのため,不適切な行動により心理的報酬を得ていた時期の行動パターンが変化したと考えられる。