13:00 〜 15:00
[PB80] 大学における初年次合宿研修に従事した上級生の態度構造について
2015年度帝京大学教育学部初等教育学科初等教育コースの場合
キーワード:初年次教育, 合宿研修, 上級生メンター
目 的
我が国の大学における初年次教育では,上級生を初年次生の教育資源として活用する大学がある。帝京大学教育学部初等教育学科初等教育コース(以下,初等)でも,2013年以降から初年次合宿を上級生に運営させ,初年次生の教育資源として上級生を活用している。初年次教育に上級生を利用する意義について,若林・山村ら(2015)は初年次合宿での上級生の活躍は初年次生の意欲向上のために欠かせず,同時に上級生が活動する意義を明確にすることは,初等の初年次合宿が発展するために必要な課題だと言及した。しかし,上級生に焦点を置いた報告は少ない。そこで,本研究では上級生が合宿運営の経験を回顧的に振り返る中で,合宿運営へ示した態度を検討し,活動をどのように意義付けることができるかを検討する。
方 法
合宿研修運営の内容 合宿研修は2015年5月23日~24日で山梨県西湖近くのホテルで実施された。上級生は2014年1月から合宿研修の運営準備をはじめ,当日はパネルディスカッションやアイスブレイク,スタンプラリーと昼食作りの企画運営を行った。
調査対象者 1人目は合宿運営委員会で副委員長を務めた大学2年生の男子学生(以後A)である。2人目は合宿運営委員会で委員長を務めた,大学2年生の男子学生(以後B)である。
調査日時とインタビュー方法 調査は2015年度7月中旬に実施した。調査はPAC分析調査を用いて行った。PAC分析は,教示するテーマに関する自由連想,連想項目間の類似度評定,類似度距離行列によるクラスター分析,調査対象者によるクラスター構造の解釈の報告を通じて,個人ごとの態度構造を分析する方法である(内藤,1997)。
結果と考察
AとBに共通して現れたのは「達成感」という想起項目であった。Aは第2クラスターで「達成感」について次のような解釈をした。『合宿を通して事務仕事を多く行いました。だから自分としての終了時の達成感,全体を通して終わったという達成感は,事務仕事を通してというのがあったので。自分にとっては裏方で事務仕事をするのが自分の役割とイメージしていて,それが終わったときの達成感に結び付くんだと思います』。つまりAは自分の仕事として役割を担っていたことを全うできたときに,合宿終了時の達成感に結びつくとした。Aの成功経験は,合宿運営という活動の事実上の成果によって得られたものだといえよう。
続いてBは第4クラスターで「達成感」について次のような解釈をした。『先生から小学校の先生みたいだったとおほめの言葉をもらって,成長したなって感じたり,俺やってきて良かったなって,自分でやるって決めてよかったなっていう風に思いました』。つまりBは,自身が何をしたかということよりも,教員から承認されたことによって合宿に対する成功経験を得るのであろう。さらに,Bは「小学校の先生みたい」という教員の言葉を「おほめの言葉」として受け入れている。小学校教諭を志すBは,この言葉によって小学校教諭という職業アイデンティティを獲得したことが言えるのではないだろうか。
文 献
若林彰・山村豊・赤石保・中島繁雄・成家篤史 2015 平成 26 年度帝京大学初等教育学科初等教育コース 新入生合宿研修の報告と分析 帝京大学教職センター紀要 第2号
内藤哲雄1997 PAC分析実施法入門:「個」を科学する新技法への招待ナカニシヤ出版
我が国の大学における初年次教育では,上級生を初年次生の教育資源として活用する大学がある。帝京大学教育学部初等教育学科初等教育コース(以下,初等)でも,2013年以降から初年次合宿を上級生に運営させ,初年次生の教育資源として上級生を活用している。初年次教育に上級生を利用する意義について,若林・山村ら(2015)は初年次合宿での上級生の活躍は初年次生の意欲向上のために欠かせず,同時に上級生が活動する意義を明確にすることは,初等の初年次合宿が発展するために必要な課題だと言及した。しかし,上級生に焦点を置いた報告は少ない。そこで,本研究では上級生が合宿運営の経験を回顧的に振り返る中で,合宿運営へ示した態度を検討し,活動をどのように意義付けることができるかを検討する。
方 法
合宿研修運営の内容 合宿研修は2015年5月23日~24日で山梨県西湖近くのホテルで実施された。上級生は2014年1月から合宿研修の運営準備をはじめ,当日はパネルディスカッションやアイスブレイク,スタンプラリーと昼食作りの企画運営を行った。
調査対象者 1人目は合宿運営委員会で副委員長を務めた大学2年生の男子学生(以後A)である。2人目は合宿運営委員会で委員長を務めた,大学2年生の男子学生(以後B)である。
調査日時とインタビュー方法 調査は2015年度7月中旬に実施した。調査はPAC分析調査を用いて行った。PAC分析は,教示するテーマに関する自由連想,連想項目間の類似度評定,類似度距離行列によるクラスター分析,調査対象者によるクラスター構造の解釈の報告を通じて,個人ごとの態度構造を分析する方法である(内藤,1997)。
結果と考察
AとBに共通して現れたのは「達成感」という想起項目であった。Aは第2クラスターで「達成感」について次のような解釈をした。『合宿を通して事務仕事を多く行いました。だから自分としての終了時の達成感,全体を通して終わったという達成感は,事務仕事を通してというのがあったので。自分にとっては裏方で事務仕事をするのが自分の役割とイメージしていて,それが終わったときの達成感に結び付くんだと思います』。つまりAは自分の仕事として役割を担っていたことを全うできたときに,合宿終了時の達成感に結びつくとした。Aの成功経験は,合宿運営という活動の事実上の成果によって得られたものだといえよう。
続いてBは第4クラスターで「達成感」について次のような解釈をした。『先生から小学校の先生みたいだったとおほめの言葉をもらって,成長したなって感じたり,俺やってきて良かったなって,自分でやるって決めてよかったなっていう風に思いました』。つまりBは,自身が何をしたかということよりも,教員から承認されたことによって合宿に対する成功経験を得るのであろう。さらに,Bは「小学校の先生みたい」という教員の言葉を「おほめの言葉」として受け入れている。小学校教諭を志すBは,この言葉によって小学校教諭という職業アイデンティティを獲得したことが言えるのではないだろうか。
文 献
若林彰・山村豊・赤石保・中島繁雄・成家篤史 2015 平成 26 年度帝京大学初等教育学科初等教育コース 新入生合宿研修の報告と分析 帝京大学教職センター紀要 第2号
内藤哲雄1997 PAC分析実施法入門:「個」を科学する新技法への招待ナカニシヤ出版