The 59th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

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ポスター発表 PC(01-83)

ポスター発表 PC(01-83)

Sat. Oct 7, 2017 3:30 PM - 5:30 PM 白鳥ホールB (4号館1階)

3:30 PM - 5:30 PM

[PC20] 児童養護施設における個別学習支援プログラムの効果検証

児童および大学生の変化の関連

赤澤淳子1, 桂田恵美子2, 谷向みつえ3 (1.福山大学, 2.関西学院大学, 3.関西福祉科学大学)

Keywords:児童養護施設, 個別学習支援プログラム

目   的
 児童養護施設入所児童においては,18歳以降施設を出て自立せねばならず,心理的ケアとともに教育面のサポートや学力の保障は重要な課題である。そのため大学生による学習支援ボランティアを導入している児童養護施設もあり,施設児童や支援者である学生への有用性が明らかにされている(e.g.桑原・田中・中村・江田,2009;細見・新崎,2012)。しかし,客観的な指標を用いた児童や大学生を対象とした効果検証は少なく,双方における変容の関係性についての検討はみられない。そこで,本研究では,我々が考案した大学生による児童養護施設入所児童に対する個別学習支援プログラムにおける児童と大学生の変化の関係について検討することを第1の目的とした。また,児童の虐待の有無による大学生の変容の差異について検討することを第2の目的とした。
方   法
対象者:(1)A県,B県にある児童養護施設の小学校3年生から6年生の児童25名。(2)A県,B県,C県の3つの大学の大学生計24名(男性6名,女性19名)と大学院生1名(女性1名)のべ25名。
調査内容:(1)児童については,桜井(1992)による児童用コンピテンス尺度の下位尺度である「学習コンピテンス」の10項目,桜井・高野(1985)による内発的・外発的動機付け尺度の下位尺度である「学校の楽しさ」の肯定的項目5項目,およびRosenberg(1989)の自尊感情尺度を邦訳した近藤(2010)による10項目を用いた。上記の3尺度は各々1因子構造であった。また,虐待経験の有無についても施設職員に尋ねた(2)大学生については,鎌田・宇恵・辰本・小林(2003)の福祉職適性尺度72項目,成田・下仲(1995)の特性的自己効力感尺度23項目,筆者らが作成した対人援助効力感尺度15項目,および妹尾・高木(2003)の援助成果尺度11項目を使用した。福祉適性尺度は6因子(愛他性・親和性・行動力・向上心・情緒安定・責任感),特性的自己効力感は2因子(社会効力感・一般効力感),対人効力感は4因子(子ども受容・子ども統制・対大人対応・自主性),援助成果は3因子(愛他精神の高揚・人間関係の広がり・人生への意欲喚起)から成る。
手続き:(1)児童については,虐待の有無以外の項目は学習支援担当の大学生が支援前と支援後に個別に実施した。(2)大学生については,援助成果以外については,支援前,支援中期,支援後の3回調査票にて尋ねた。援助成果については中期と支援後に回答を求めた。
倫理的配慮:本研究は仁愛大学倫理検討委員会において審査を受け承認された。
結   果
 児童の学習コンピテンス,学校の楽しさ,および自尊心について支援後の数値から支援前の数値を差し引いた。同様に,大学生においても各尺度の下位尺度における支援後の数値から支援前の数値を差し引き,双方の相関係数を算出した。その結果,有意な相関はみられなかったが,児童の「学校の楽しさ」と大学生の福祉適性尺度における「愛他性」「親和性」「行動力」「情緒安定」,対人援助効力感尺度の「子ども統制」,援助成果尺度の「人生への意欲喚起」との相関に傾向差が示された(r=-.439,r=-.473,r=-.454,r=-.432,r=.466,r=-.491;p<.10)。
 次に,大学生における各変数について児童の虐待の有無(2)と大学生の調査時期(3)における2要因の分散分析を実施した。その結果,「愛他性」「親和性」「社会効力感」「愛他精神の高揚」「人間関係の広がり」において時期の主効果が有意であった(F(2,46)=3.91,p<.05;F(2,46)=3.58,p<.05; F(2,46)=7.61,p<.01; F(1,22)=4.41,p<.05; F(1,22)=20.27,p<.001)。下位検定(Bonferroni)の結果,「親和性」と「社会効力感」については中間より支援後が有意に高くなっていた(p<.05)。また,「行動力」と「人間関係の広がり」には有意な交互作用が示された(F(2,46)=5.02,p<.05; F(1,22)=5.48,p<.05)。下位検定の結果,「行動力」では,虐待無し群において支援前より支援後が高い傾向が示された(p<.10)。「人間関係の広がり」では,虐待の有無にかかわらず,支援後は中間より高くなっていた(虐待無しp<.01;虐待有りp<.05)。
考   察
 児童と大学生に関する変数間の関係をみると,大学生の福祉適性・社会効力感・援助成果が高まるほど,児童の学校の楽しさは低下する傾向にあることが明らかとなった。支援中期から支援後にかけて大学生の親和性や社会効力感が高まっていることを考えると,本プログラムによる大学生への効果は示されているといえる。しかし,児童にとって大学生との学習は,学力向上に直結しにくかったため,学校の楽しさにプラスの影響をもたらさなかったものと推測される。また,虐待を経験していない児童を担当した大学生において行動力が高まる傾向が示された。被虐待児童を担当した大学生においては,しばしば対応に困る場面も報告されることがあった。そのような影響が背景にあるのかもしれない。今後は支援後のインタビュー調査結果における大学生と児童との関連についても詳細に検討したい。
※本研究はJSPS科研費JP25590179の助成を得て行われた。