日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PC(01-83)

ポスター発表 PC(01-83)

2017年10月7日(土) 15:30 〜 17:30 白鳥ホールB (4号館1階)

15:30 〜 17:30

[PC26] 対話型授業における学習者の理解度と学習態度の変容の検討

辻義人 (公立はこだて未来大学)

キーワード:対話型授業, 知識獲得, 自学自習

研究の目的
 大学教育の質保証の観点に基づき,生涯にわたって学び続ける力,また,主体的に考える力に対する注目が高まっている。この能力の育成に関して,獲得した知識のアウトプットや活用を意図した教育実践が行われている。その一例として,アクティブラーニング(以下,AL)が挙げられる。ALとは「教員による一方向的な講義学習の方法とは異なり,学修者の能動的な学修への参加を取り入れた教授・学習法の総称」である(中央教育審議会, 2012)。ALの教育効果に関して,溝上(2011)は,新たな知識や技能の獲得について言及している。また,道田(2011)は,学生同士の協働的な学びを通した批判的思考力の獲得について述べている。辻(2015)は,ALを一つの教育手法と捉え,教育目的との整合性を保つ必要性を指摘した。
 本研究では,同一科目を,従来の講義クラスと,ALクラスの両形式において開講した場合における教育効果の比較を行う。その観点として,授業理解度(知識の獲得,知識の活用)と,自学自習状況に注目する。また,両クラスの受講を通した学習態度の変容について検討する。このことにより,従来の講義形式とAL形式の特徴に関する知見が得られることが期待される。
方   法
 被験者は国立A大学における選択科目「心理学II」の履修者307名であった。履修に際して,従来の講義クラスと,ALクラスを選択させ,抽選でクラス配属を行った。対象科目は全15回であった。講義クラスでは,主に教員が授業内容を解説した。一方,ALクラスでは,事前に予習課題を課した。学習者は予習を行った上で授業に臨み,授業では主にアウトプット(議論と発表)を行った。どちらのクラスも,授業内容は同一であった。分析に際して,全講義に参加した学生のみを対象とした(講義クラス167名,ALクラス38名)。
 調査項目として,期末テスト得点と,自学自習に要した時間,本科目に対する学習態度(5件法,12項目)を設定した。期末テストは,知識の獲得(穴埋め問題)と知識の応用(論述問題)を実施した(各15点満点)。自学自習に要した時間は,毎回のシャトルペーパーを用いて調査した。本科目に対する学習態度は,授業に対する関心や楽しさ,自学自習の意欲など,学習活動全般に関する調査項目から構成される調査項目であった(5件法,12項目)。
結果と考察
(1)両形式における期末テストと学習時間
 講義クラスとALクラスにおいて,期末テスト得点と自学自習(分)の比較を行った。その結果,知識の獲得において,講義クラスの成績が高かった(p<.05)。一方,知識の応用において,ALクラスの成績が高かった(p<.01)(Fig.1)。また,自学自習の時間は,ALクラスが長かった(p<.01)。アウトプットを重視した授業では,自習に基づいた知識応用の成績が高い結果が示された。
(2)両形式における学習態度の変容
 学習態度の変容に注目し,一要因のみ対応のある二要因分散分析を実施した。開講直後と終了時の授業態度について,以下の変容が示された。
[評定値の向上が見られた項目]授業が楽しみ,授業が役立つ,受講の雰囲気をよくする,十分な理解
[評定値の低下が見られた項目]授業関連書籍の読解,時間外学習(講義クラスのみ低下)
 アウトプットを重視した授業では,学習者の自学自習の促進が期待される。しかし,本調査の結果では学習者の自学自習が促進されなかった。これは,ALにおいて学習者が受動的となる点に関する指摘(松下,2015)と一致する。
結   論
・授業における理解内容のアウトプットを通して,知識活用や,学習態度の積極化が期待される。
・ALクラスにおいて自学自習時間が長かった一方,自ら理解を深め,自発的な学びを行う意欲については,両クラスともに促進が見られなかった。