15:30 〜 17:30
[PC28] 授業内容に関する質問・解答作成の効果
大学の講義型授業における取り組み
キーワード:質問・解答作成, 講義型授業, 理解
問題と目的
大学教育の質向上のための取り組みの中では,従来の講義型授業よりも学生主導の問題解決型授業に注目が集まりがちである。しかし,豊かな教養と高い専門知識の獲得を目指す大学教育において,必要な知識を確実に伝達する講義型の授業は不可欠であろう。大学生に講義で伝達された知識を能動的に理解させること,理解するための方略を身に着けさせることは重要な課題である。
学習者が伝えられた知識を能動的に学習する方略の一つに,「自己説明」(Chi, DeLeeuw, Chiu, & LaVancher, 1994)が挙げられる。自己説明とは,「文章等に提示された新しい情報を意味づける試みにおいて,自分自身への説明を行う活動」と定義される(Chi, 2000)。これまでの研究によると,自己説明中に特に自身の理解状態への評価を表す発話や,学習媒体に明示されていない情報を推論する発話を多く産出していた学習者ほど,学習内容への高い理解を示したと言う。
そこで,本研究では,大学の講義型授業においてこうした自己説明を促す方法を提案し,その効果を検討する。具体的には,授業内容に関する質問・解答作成の時間を導入し,授業内容の理解や自己説明方略の使用に及ぼす影響を検討する。
方 法
対象者 1年次春学期開講の「教育心理学」を受講した大学生43名を対象とした。
授業の概要 全15回の授業のうち,1・15回目を除く13回の授業を,講義内容で3つのセッション(2~5回・6~9回・10~14回)に分けた。
各セッションの最終回を除く授業の構成は,以下の通りである。(1)教員が講義を行う,(2)講義内容に関する理解を問う課題(概念や理論について,一般的定義や具体的事例を含めて説明させる課題)に解答させる,(3)講義内容に関する質問を作成させる。(3)に当たっては,(2)で明らかとなった理解状態をもとに,今わからないこと,さらに知りたいことを問う質問の作成を求めた。
各セッションの最終回では,作成された質問の中から解答したい質問を選ばせ,同じ質問を選んだ5~6名グループで解答を作成させた。参考資料として配布されたテキストその他を受講生が調べて解答を作成した。作成後,発表会を行った。
テスト 全15回の授業のうち1・15回目(一部その1週間後の定期試験)の2回にわたって,2種類のテストを行った。1つは講義で扱う内容の理解度を問うテストであった。もう1つは自己説明方略の使用を測定するテストである。授業では扱っていない内容に関する文章を読んで,それを学習する間に考えたことを記入してもらうとともに,文章内容について問う問題への解答を求めた(2問用意し,実施順序について参加者間でカウンターバランスをとった)。
倫理的配慮 東京未来大学研究倫理審査で承認を受けた。講義は教育の一環として行われたが,テストデータの使用については使用内容と協力への自由を説明した上で,同意できるかたずねた。最終的に,授業やテスト内容に関する説明も行った。
結果と考察
研究協力への同意が得られ,2回行われたテストの両方に解答した者を分析対象とした。
講義内容の理解度テスト 講義内容について自由記述で広く問う問題に対して,心理学の概念や理論をその一般的定義や具体的事例を説明しながら用いて解答できているほど高得点となるように得点化した(15点満点)。t検定の結果,2回のテスト成績の平均の差は1%水準で有意であった(Table 1)。
自己説明方略の使用に関するテスト まず,文章内容について問う問題への解答(2点満点)を分析した。t検定の結果,2回のテスト成績の平均の差は10%水準で有意であった(Table 1)。しかし,学習中に考えたことの記入においては,記入量・内容ともに,2回のテストで差は見られなかった。
以上の結果から,大学の講義型授業において,授業内容に関する質問・解答作成の時間を導入することが,受講生の学習内容の理解を促すことが明らかとなった。また,文章を読んで理解する力を育成することも示唆された。しかしながら,授業で促された理解状態の自己評価や疑問点の整理,疑問解消に向けた取り組みといった自己説明方略の自発的使用の増加は直接的には検討・確認されていない。また,他の教授法との比較も今後の課題である。
大学教育の質向上のための取り組みの中では,従来の講義型授業よりも学生主導の問題解決型授業に注目が集まりがちである。しかし,豊かな教養と高い専門知識の獲得を目指す大学教育において,必要な知識を確実に伝達する講義型の授業は不可欠であろう。大学生に講義で伝達された知識を能動的に理解させること,理解するための方略を身に着けさせることは重要な課題である。
学習者が伝えられた知識を能動的に学習する方略の一つに,「自己説明」(Chi, DeLeeuw, Chiu, & LaVancher, 1994)が挙げられる。自己説明とは,「文章等に提示された新しい情報を意味づける試みにおいて,自分自身への説明を行う活動」と定義される(Chi, 2000)。これまでの研究によると,自己説明中に特に自身の理解状態への評価を表す発話や,学習媒体に明示されていない情報を推論する発話を多く産出していた学習者ほど,学習内容への高い理解を示したと言う。
そこで,本研究では,大学の講義型授業においてこうした自己説明を促す方法を提案し,その効果を検討する。具体的には,授業内容に関する質問・解答作成の時間を導入し,授業内容の理解や自己説明方略の使用に及ぼす影響を検討する。
方 法
対象者 1年次春学期開講の「教育心理学」を受講した大学生43名を対象とした。
授業の概要 全15回の授業のうち,1・15回目を除く13回の授業を,講義内容で3つのセッション(2~5回・6~9回・10~14回)に分けた。
各セッションの最終回を除く授業の構成は,以下の通りである。(1)教員が講義を行う,(2)講義内容に関する理解を問う課題(概念や理論について,一般的定義や具体的事例を含めて説明させる課題)に解答させる,(3)講義内容に関する質問を作成させる。(3)に当たっては,(2)で明らかとなった理解状態をもとに,今わからないこと,さらに知りたいことを問う質問の作成を求めた。
各セッションの最終回では,作成された質問の中から解答したい質問を選ばせ,同じ質問を選んだ5~6名グループで解答を作成させた。参考資料として配布されたテキストその他を受講生が調べて解答を作成した。作成後,発表会を行った。
テスト 全15回の授業のうち1・15回目(一部その1週間後の定期試験)の2回にわたって,2種類のテストを行った。1つは講義で扱う内容の理解度を問うテストであった。もう1つは自己説明方略の使用を測定するテストである。授業では扱っていない内容に関する文章を読んで,それを学習する間に考えたことを記入してもらうとともに,文章内容について問う問題への解答を求めた(2問用意し,実施順序について参加者間でカウンターバランスをとった)。
倫理的配慮 東京未来大学研究倫理審査で承認を受けた。講義は教育の一環として行われたが,テストデータの使用については使用内容と協力への自由を説明した上で,同意できるかたずねた。最終的に,授業やテスト内容に関する説明も行った。
結果と考察
研究協力への同意が得られ,2回行われたテストの両方に解答した者を分析対象とした。
講義内容の理解度テスト 講義内容について自由記述で広く問う問題に対して,心理学の概念や理論をその一般的定義や具体的事例を説明しながら用いて解答できているほど高得点となるように得点化した(15点満点)。t検定の結果,2回のテスト成績の平均の差は1%水準で有意であった(Table 1)。
自己説明方略の使用に関するテスト まず,文章内容について問う問題への解答(2点満点)を分析した。t検定の結果,2回のテスト成績の平均の差は10%水準で有意であった(Table 1)。しかし,学習中に考えたことの記入においては,記入量・内容ともに,2回のテストで差は見られなかった。
以上の結果から,大学の講義型授業において,授業内容に関する質問・解答作成の時間を導入することが,受講生の学習内容の理解を促すことが明らかとなった。また,文章を読んで理解する力を育成することも示唆された。しかしながら,授業で促された理解状態の自己評価や疑問点の整理,疑問解消に向けた取り組みといった自己説明方略の自発的使用の増加は直接的には検討・確認されていない。また,他の教授法との比較も今後の課題である。