3:30 PM - 5:30 PM
[PC56] 森田神経質と認知的コーピングが精神的健康に及ぼす影響
Keywords:森田神経質, 反すう, 省察
問題・目的
森田療法とは,神経症における様々な症状を“とらわれ”という認知・行動の悪循環の結果から捉えた(森田,1928)本邦独自の精神療法である。治療の主眼は,現実生活の感情体験を通した神経症的な認知の自覚・修正であり,それによって“とらわれ”の打破を目指すものである。一般的には入院療法が広く知られているが,近年では精神科外来・学生相談のような入院を必要としないケースにも拡充されつつある,有効な介入法である。
ただし,森田療法における治療理論の実証性は,いまだに十分とは言い難い。結果的に不安が増幅される現象としての“とらわれ”は,独特な表現による構成概念の複雑かつ多彩な結びつきから説明されているため,実際にどのような認知的・行動的対処から構成されているのかは不明な点も多い(清水・清水2014)。
そこで本研究は,当該メカニズムを検討するため,森田神経質のうち“強迫的構え”をパーソナリティ要因,日常ストレッサーを環境要因,認知的コーピングを対処要因として,反すう・省察の増減にどう影響するのかを実証的に検討する。
方 法
パネル調査を実施するため,Time1とTime2の2時点(間隔は4週間)おいて質問紙に回答してもらった大学生144名(男64名,女80名,M=19.0歳,SD=1.40歳)を対象とした。
森田神経質尺度:清水・清水(2014)を使用し,2下位尺度あるうちの“強迫的構え”の7項目について5件法で回答を求めた。(以下,Time1のみ)
認知的統制尺度:杉浦・杉浦(2003)による論理的分析,破局的思考の緩和の2下位尺度を使用し,11項目について5件法で回答を求めた。
失敗観尺度:池田・三沢(2012)の5項目5件法。
思考抑制尺度:松本(2008)によるWBSIの邦訳版を使用し,思考や感情を意図的に意識から追い出そうとする程度を6項目,5件法で回答を求めた。
Rumination-Reflection Questionnaire(RRQ):
高野・丹野(2009)によるものを使用し,反すう及び省察の8項目ずつについて5件法で回答を求めた。(Time1とTime2の両時点にて回答)
日常生活ストレッサー尺度:嶋(1999)による大学生の日常において経験しやすい出来事23項目について5件法で回答を求めた。(Time2のみ)
結 果
Time2の反すう,あるいは省察を従属変数とした階層的重回帰分析を行った。まずStep1にてTime1の反すう,あるいは省察を投入し,Step2にて年齢および性別要因を投入した。そして,Step3に強迫的構え(森田神経質),日常生活ストレッサー,様々な認知的コーピング(ex.認知的統制)の主効果項を投入し,Step4に1次の交互作用項,Step5に2次の交互作用項を投入した。
そのうち,2次の交互作用項が有意であったのは,強迫的構え×ストレッサー×失敗観(失敗からの学習可能性)であり,これはTime1からTime2にかけての省察の変化量を予測していた。単純傾斜の検定を行った結果,日常生活ストレッサー低群(-1SD)かつ強迫的構え高群(+1SD)において失敗観が強くなると省察が増加することが示された(t(133)=1.72,β=.38)。そして,日常生活ストレッサー高群(+1SD)かつ強迫的構え低群(-1SD)において,失敗観が強くなると省察が増加することが示された(t(133)=3.26,β=.61)。
考 察
省察は,私的自己意識でありながら,抑うつとは負の関連を持ち,自己に対して冷静さを保ちながら自分自身を分析することができる姿勢である。“とらわれ”とは自らの不安対処に失敗することで不安そのものに呑まれた(不安の増幅現象)状態を指す。そのため,自己を冷静に分析できる省察は,“とらわれ”を打破した状態にかなり近いものだと推測される。
つまり,とらわれの打破を目指す姿勢においては,たとえ強迫的構え(森田神経質)が強くても,物事に取り組む中で失敗することを恐れることなく,積極的に取り組むことができるのであれば,不安に呑まれることは少ないことが示唆される。しかし,これは日常ストレッサーが低い場合に限ったことであり,強いストレッサーに曝された場合においては省察の増幅効果は認められなかった。
森田療法とは,神経症における様々な症状を“とらわれ”という認知・行動の悪循環の結果から捉えた(森田,1928)本邦独自の精神療法である。治療の主眼は,現実生活の感情体験を通した神経症的な認知の自覚・修正であり,それによって“とらわれ”の打破を目指すものである。一般的には入院療法が広く知られているが,近年では精神科外来・学生相談のような入院を必要としないケースにも拡充されつつある,有効な介入法である。
ただし,森田療法における治療理論の実証性は,いまだに十分とは言い難い。結果的に不安が増幅される現象としての“とらわれ”は,独特な表現による構成概念の複雑かつ多彩な結びつきから説明されているため,実際にどのような認知的・行動的対処から構成されているのかは不明な点も多い(清水・清水2014)。
そこで本研究は,当該メカニズムを検討するため,森田神経質のうち“強迫的構え”をパーソナリティ要因,日常ストレッサーを環境要因,認知的コーピングを対処要因として,反すう・省察の増減にどう影響するのかを実証的に検討する。
方 法
パネル調査を実施するため,Time1とTime2の2時点(間隔は4週間)おいて質問紙に回答してもらった大学生144名(男64名,女80名,M=19.0歳,SD=1.40歳)を対象とした。
森田神経質尺度:清水・清水(2014)を使用し,2下位尺度あるうちの“強迫的構え”の7項目について5件法で回答を求めた。(以下,Time1のみ)
認知的統制尺度:杉浦・杉浦(2003)による論理的分析,破局的思考の緩和の2下位尺度を使用し,11項目について5件法で回答を求めた。
失敗観尺度:池田・三沢(2012)の5項目5件法。
思考抑制尺度:松本(2008)によるWBSIの邦訳版を使用し,思考や感情を意図的に意識から追い出そうとする程度を6項目,5件法で回答を求めた。
Rumination-Reflection Questionnaire(RRQ):
高野・丹野(2009)によるものを使用し,反すう及び省察の8項目ずつについて5件法で回答を求めた。(Time1とTime2の両時点にて回答)
日常生活ストレッサー尺度:嶋(1999)による大学生の日常において経験しやすい出来事23項目について5件法で回答を求めた。(Time2のみ)
結 果
Time2の反すう,あるいは省察を従属変数とした階層的重回帰分析を行った。まずStep1にてTime1の反すう,あるいは省察を投入し,Step2にて年齢および性別要因を投入した。そして,Step3に強迫的構え(森田神経質),日常生活ストレッサー,様々な認知的コーピング(ex.認知的統制)の主効果項を投入し,Step4に1次の交互作用項,Step5に2次の交互作用項を投入した。
そのうち,2次の交互作用項が有意であったのは,強迫的構え×ストレッサー×失敗観(失敗からの学習可能性)であり,これはTime1からTime2にかけての省察の変化量を予測していた。単純傾斜の検定を行った結果,日常生活ストレッサー低群(-1SD)かつ強迫的構え高群(+1SD)において失敗観が強くなると省察が増加することが示された(t(133)=1.72,β=.38)。そして,日常生活ストレッサー高群(+1SD)かつ強迫的構え低群(-1SD)において,失敗観が強くなると省察が増加することが示された(t(133)=3.26,β=.61)。
考 察
省察は,私的自己意識でありながら,抑うつとは負の関連を持ち,自己に対して冷静さを保ちながら自分自身を分析することができる姿勢である。“とらわれ”とは自らの不安対処に失敗することで不安そのものに呑まれた(不安の増幅現象)状態を指す。そのため,自己を冷静に分析できる省察は,“とらわれ”を打破した状態にかなり近いものだと推測される。
つまり,とらわれの打破を目指す姿勢においては,たとえ強迫的構え(森田神経質)が強くても,物事に取り組む中で失敗することを恐れることなく,積極的に取り組むことができるのであれば,不安に呑まれることは少ないことが示唆される。しかし,これは日常ストレッサーが低い場合に限ったことであり,強いストレッサーに曝された場合においては省察の増幅効果は認められなかった。