日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PC(01-83)

ポスター発表 PC(01-83)

2017年10月7日(土) 15:30 〜 17:30 白鳥ホールB (4号館1階)

15:30 〜 17:30

[PC57] 児童生徒理解のための多次元尺度の開発(1)

項目収集と入力システム

伊藤美奈子1, 森下文2, 金子恵美子3, 向出章子4, 古賀裕美5 (1.奈良女子大学, 2.奈良女子大学, 3.埼玉純真短期大学, 4.奈良女子大学大学院, 5.奈良女子大学)

キーワード:児童生徒理解, 多次元尺度, 入力システム

問題と目的
 不登校やいじめ,虐待や非行など,学校現場で生じる子どもたちの「問題」は幅広い。こうした「問題」を抱える子どもたちに対しては,多様な専門性を持ったスタッフがチームで取り組むことが大切である。しかし,子どもたちのちょっとした変化に気づき,必要な支援につなげるのは,日常的に子どもに接する担任教師の力量にかかっている。その意味からも,担任教師のアセスメント力は,早期発見・早期対応の鍵を握ることとなる。
アセスメントは,従来,担任教師の観察力や直感によるところが大きかった。本研究では,児童生徒理解の補助手段となるアセスメント尺度を作成することを目的とする。現在,教育現場で広く使われているQ-UやASSESSは学校での適応状況を調べるために大いに有効である。一方,子どもたちの心の問題の背景には,家庭の要因やパーソナリティ,自己肯定感や生きる意欲など,多様な要因が絡んでいる。そこで,本研究では,多次元から児童生徒をとらえる尺度項目を収集し,個々のデータを入力すると個票が出力されるシステムの開発を行う。
方   法
調査時期:2016年10~12月。
調査内容:児童・生徒の状態を,学校生活・家庭・個人特性・人間関係という側面から把握できるアセスメント尺度項目の作成にあたっては,学校適応感尺度(ASSESS)(栗原・井上,2010),東京版自尊感情尺度(伊藤・若本,2010),文科省資料,関連した調査研究を参考に,13カテゴリー各5項目ずつ収集した。具体的には,「自己肯定感」(<自己評価・受容><関係の中の自己><自己主張・決定>,「学校適応」(<教師関係><友人関係><学力への自信>),<家庭の居心地><生きる意欲>,<コミュニケーション><レジリエンス>,と「不適応」(<不登校><いじめ><抑うつ>)の13カテゴリー,65項目であった。回答は「あてはまる」から「あてはまらない」までの4件法で実施した。X県教育委員会を通して各校に配布し実施した。その際,「回答は任意」「個人情報は守られる」「中断も可能」等の説明がなされた。
調査対象:X県小学5~6年1,140人,中学1~3年1,847人,高校1~3年5,190人であった。
結   果
 各領域・カテゴリーごとに因子分析を行った結果,それぞれの因子としてのまとまりが確認された。各カテゴリーの信頼性は「自己肯定感」(<自己評価・受容>:α=.857,<関係の中の自己>:α=
.749,<自己主張・決定>:α=.727),「学校適応」(<教師関係>:α=.908,<友人関係>:α=
.871,<学力への自信>:α=.800)。<家庭の居心地>:α=.893,<生きる意欲>:α=.842。<コミュニケーション>:α=.779,<レジリエンス>:α=.818。「不適応」(<不登校>:α=.862,<いじめ>:α=
.873,<抑うつ>:α=.751であり,いずれも十分な値を示した。本尺度の妥当性および発達段階による得点差については,発表(2)(3)において報告する。
 なお,本尺度開発と同時に,入力シートも作成した。このシートはエクセルシートに個々の回答を入力すれば,即座に個票(個人ごとに13得点を換算にグラフとして示される)が取得できるものとなっている。(シートについては当日報告予定)
付   記
 本研究は奈良県教育振興課・教育委員会と奈良女子大学との共同研究の一部である。
参考文献
伊藤美奈子・若本純子(2010).学校現場で求める
自尊感情を測る尺度作成の試み慶應義塾大学
教職課程センター年報,19,71-90.
栗原慎二・井上弥編著(2012).『アセスの使い方・活かし方』ほんの森出版.
河村茂雄 Q-U 楽しい学校生活を送るためのアン
ケート 図書文化.