The 59th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

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ポスター発表 PC(01-83)

ポスター発表 PC(01-83)

Sat. Oct 7, 2017 3:30 PM - 5:30 PM 白鳥ホールB (4号館1階)

3:30 PM - 5:30 PM

[PC69] 教師の認知と生徒のいじめ経験との関連

教師の効力感と学級風土を指標とした検討

西野泰代 (広島修道大学)

Keywords:いじめ, 教師の効力感, 学級風土

問題と目的
 「深刻ないじめは,どの学校にも,どのクラスにも,どの子どもにも起こりうる」ことが示され(国立政策研究所,2016),子どもたちの健全な発達を阻害する「いじめ」という現象を低減することは,社会において喫緊の課題となっている。
 いじめの問題に関して,これまでは,いじめの加害者と被害者に注目が集まっていたが,最近では,「加害行動を助長するような観衆,無関心を装う傍観者,被害者を助けようとする仲裁者といった様々な役割を担う者たちの存在が重要な意味を持つ」という視点に立った研究が増え,傍観者の存在がいじめの重篤化と関わることが明らかになってきた(森田, 2010など)。一方で,「いじめ」という現象は,友人,家族,教師など様々な社会的環境と個人との相互作用の結果として起こるのではないかと考えられ,実証データに基づいた研究も行われてきた(Espelage & Swearer, 2010)。
 これらのことから,いじめを抑止するためには,いじめを見て見ぬふりをする傍観者を減らし,いじめ被害者を助けようとする仲裁者を増やすことが肝要であり,また,様々な視点から「いじめ」という現象をとらえる必要性があることが推測される。そこで,本研究は,いじめ低減に寄与する知見の提供を目指し,教師と生徒,双方から収集したデータを用いて,いじめ場面での経験について,教師の効力感と学級風土を指標とした検討をおこなうことを目的とする。
方   法
 使用尺度 ①いじめ経験:岡安・高山(2000)を参考に被害,傍観,仲裁について各3項目4件法 ②教師の効力感:河本・河野(2003)から4項目5件法 ③学級風土:伊藤・松井(2001)から「規律正しさ」4項目5件法(①,③は生徒による評定)    
 調査対象 中学1年生から3年生とその担任教師を対象に,持ち帰りによる回答での調査を実施。今回の分析対象は14学級に在籍する生徒343名(女子49.4%)とその担任教師。
結果と考察
 基礎統計量 尺度について因子分析を行った結果,それぞれ1因子構造であることが確認された。また,尺度の信頼性について,生徒評定によるいじめ場面での経験:被害(α=.66),傍観(α=.68),仲裁(α=.83)および学級風土(α=.81),教師評定による効力感(α=.83)が得られ,被害と傍観についてはやや低いものの,それぞれある程度十分な内的整合性が確認された。次に,いじめ場面での経験について,性差を確認したところ,女子が男子より有意に被害得点が高いことが示されたので(t(338)=2.08,p<.05),これ以降の分析を男女別に行うこととした。
 いじめ経験と生徒の認知する学級風土 生徒の認知による学級風土尺度の平均値(3.11)から,生徒を高低2群(H/L)に分け,男女別にいじめ経験を従属変数とするt検定を行った結果,男子では被害(t(168)=3.07,p<.01),女子では傍観(t(165)=2.43,p<.05)について有意な差が確認され,学級風土を高く評価する群は,男子で被害得点が低く,女子で傍観得点が低いことが示された。
 いじめ経験と教師の効力感 担任教師の効力感尺度平均値(3.37)から,上記と同様に生徒を分け,男女別にいじめ経験を従属変数とするt検定を行った。その結果,男子で被害(t(170)=2.76,p<.01),女子で傍観(t(167)=2.24,p<.05)について,それぞれ有意な差が確認され,担任教師の効力感が高い群が,有意に男子で被害得点が低く,女子で傍観得点が高いことが示された。
 いじめの経験を予測する要因 上記の群分けを用いて生徒を4群(HH/HL/LH/LL)に分け,男女別にいじめ経験を従属変数とする分散分析を行った。結果をTable 1に示す。男子では学級風土と教師の効力感の得点がともに低い群が傍観と被害の得点が有意に高く,女子では学級風土得点が低く,教師の効力感得点の高い群が有意に傍観と被害の得点が高いことが明らかになった。
総合考察
 本研究の結果から,複数の評定を組みあわせることで,子どもたちのいじめ経験の状況をより詳細に把握することができる可能性と,男女によりいじめ経験を予測する要因に違いがあり,教師による指導において性差を考慮した対応が必要な可能性がそれぞれ明らかになったと言えよう。
本研究はJSPS科研費26380913の助成を受けた。