15:30 〜 17:30
[PC82] ボーイスカウトにおけるキャンプの教育効果について
キーワード:ボーイスカウト, キャンプ, 教育効果
問題と目的
体験活動の重要性が指摘され,その実践のために,多様な教育の場での体験活動が望まれている。体験活動の実践について,学校教育であるフォーマル教育,家庭教育であるインフォーマル教育,そして,地域における組織化された教育であるノンフォーマル教育の3つの教育の内,ノンフォーマル教育における長い歴史と大きな実績と今後への可能性を有するボーイスカウト教育ではあるが,わが国におけるボーイスカウトの教育効果に関する実証的研究は,ボーイスカウトの長期野営における体験活動の影響に関するもの(中野・島貫,2012,中野・齋藤,2014),および,短期のキャンプ訓練における体験活動の影響に関するもの(田中,2016)があるのみで,90余年の歴史を持つ日本のボーイスカウト教育に関する教育効果についての実証的研究は,未だほとんど手が着けられていない。
本研究では,スカウト教育の効果測定の可能性を確認することを主眼とし,調査対象者と調査範囲を地区レベルから複数の県レベル(九州,関西,関東の隊を想定)に広げ,調査対象を通常の隊を対象とし,体験活動として,隊の年間活動のメインイベントである夏季キャンプについて,そのキャンプの前後に調査を実施し,キャンプの教育効果を明らかにすることを目的としている。
方 法
調査対象:12都県のボーイスカウト124名(男子:101名,女子:23名)。
調査方法:4泊5日前後でおこなわれるキャンプの参加前(事前調査:2016年6~7月)と参加後(事後調査:2016年8~9月)の質問紙調査による教育効果の測定を実施。
調査内容:(1)「生きる力」:「IKR評定用紙(簡易版)」(独立行政法人国立青少年教育振興機構,2010)28項目(心理的社会的能力:14項目,徳育的能力:8項目,身体的能力:6項目)(2)リーダーシップ測定尺度(国立妙高青少年自然の家,2011)20項目(課題達成機能:12項目,集団維持機能:8項目)(3)自尊感情尺度(福岡県青少年アンビシャス運動推進室,2010)10項目(4)フェイス項目
倫理審査:本研究は,大妻女子大学生命科学研究倫理委員会の審査による承認を得ている。
結 果
(1)生きる力:キャンプ参加により「生きる力」は有意に向上していた(前116.0(SD=20.1):後119.2(SD=21.4);t(85)=2.48,p<.05)。上位指標の「心理的社会的能力」も有意に向上していた(前57.2(SD=11.2):後59.5(SD=11.5);t(89)=3.08,
p<.001)。下位指標の「積極性:“自分からすすんでなんでもやる”“前向きに物事を考えられる”」も有意に向上していた(前7.9(SD=2.0):後8.4(SD=2.1);t(104)=2.78,p<.01)。「視野・判断:“先を見通して,自分で計画が立てられる”“自分で問題点や課題を見つけることができる”」も有意に向上していた(前7.6(SD=2.0):後8.2(SD=2.0);t(103)=3.37,p<.001)。
(2)リーダー・シップ:キャンプ参加により「リーダーシップ」は有意に向上していた(前83.4(SD=14.9):後86.7(SD=14.8);t(92)=3.03,
p<.001)。上位指標の「課題達成機能」も有意に向上していた(前49.1(SD=8.9):後50.7(SD=9.0);t(100)=2.27,p<.05)。下位指標の「計画・判断:“先のことを考えて行動することができる”」や「省察・アクション:“内容を考えて話すことができる”」から構成される中位指標の「計画的に考え行動する力」が有意に向上していた(前15.7(SD=3.4):後16.6(SD=3.5);t(104)=2.84,p<.01)。もう一つの上位指標の「集団維持機能」も有意に向上していた(前33.8(SD=7.2):後35.2(SD=6.6);t(98)=2.89,p<.01)。
(3)自尊心:キャンプ参加により「自尊心」は有意に向上していた(前(32.5(SD=8.2):後34.0(SD=8.4);t(95)=2.95,p<.001)。
考 察
結果から,ボーイスカウトにおけるキャンプに参加することにより,「生きる力」,「心理的社会的能力」が向上する。すなわち,自ら前向きに物事を考える「積極性」が高まり,先を見通す「視野」や問題点や課題を「判断」し,計画を立てることができるようになる。また,「リーダーシップ」の2つの機能である「課題達成機能」,すなわち,計画的に考え行動する能力が高まり,また,「集団維持機能」,すなわち,集団内の人間関係をよくしようとする能力が高まる。さらに,「自尊心」の向上に繋がる教育効果があることが明らかになった。
本研究は大妻女子大学戦略的個人研究費(S2829:H28年度,S2934:H29年度)の助成を受けた。
体験活動の重要性が指摘され,その実践のために,多様な教育の場での体験活動が望まれている。体験活動の実践について,学校教育であるフォーマル教育,家庭教育であるインフォーマル教育,そして,地域における組織化された教育であるノンフォーマル教育の3つの教育の内,ノンフォーマル教育における長い歴史と大きな実績と今後への可能性を有するボーイスカウト教育ではあるが,わが国におけるボーイスカウトの教育効果に関する実証的研究は,ボーイスカウトの長期野営における体験活動の影響に関するもの(中野・島貫,2012,中野・齋藤,2014),および,短期のキャンプ訓練における体験活動の影響に関するもの(田中,2016)があるのみで,90余年の歴史を持つ日本のボーイスカウト教育に関する教育効果についての実証的研究は,未だほとんど手が着けられていない。
本研究では,スカウト教育の効果測定の可能性を確認することを主眼とし,調査対象者と調査範囲を地区レベルから複数の県レベル(九州,関西,関東の隊を想定)に広げ,調査対象を通常の隊を対象とし,体験活動として,隊の年間活動のメインイベントである夏季キャンプについて,そのキャンプの前後に調査を実施し,キャンプの教育効果を明らかにすることを目的としている。
方 法
調査対象:12都県のボーイスカウト124名(男子:101名,女子:23名)。
調査方法:4泊5日前後でおこなわれるキャンプの参加前(事前調査:2016年6~7月)と参加後(事後調査:2016年8~9月)の質問紙調査による教育効果の測定を実施。
調査内容:(1)「生きる力」:「IKR評定用紙(簡易版)」(独立行政法人国立青少年教育振興機構,2010)28項目(心理的社会的能力:14項目,徳育的能力:8項目,身体的能力:6項目)(2)リーダーシップ測定尺度(国立妙高青少年自然の家,2011)20項目(課題達成機能:12項目,集団維持機能:8項目)(3)自尊感情尺度(福岡県青少年アンビシャス運動推進室,2010)10項目(4)フェイス項目
倫理審査:本研究は,大妻女子大学生命科学研究倫理委員会の審査による承認を得ている。
結 果
(1)生きる力:キャンプ参加により「生きる力」は有意に向上していた(前116.0(SD=20.1):後119.2(SD=21.4);t(85)=2.48,p<.05)。上位指標の「心理的社会的能力」も有意に向上していた(前57.2(SD=11.2):後59.5(SD=11.5);t(89)=3.08,
p<.001)。下位指標の「積極性:“自分からすすんでなんでもやる”“前向きに物事を考えられる”」も有意に向上していた(前7.9(SD=2.0):後8.4(SD=2.1);t(104)=2.78,p<.01)。「視野・判断:“先を見通して,自分で計画が立てられる”“自分で問題点や課題を見つけることができる”」も有意に向上していた(前7.6(SD=2.0):後8.2(SD=2.0);t(103)=3.37,p<.001)。
(2)リーダー・シップ:キャンプ参加により「リーダーシップ」は有意に向上していた(前83.4(SD=14.9):後86.7(SD=14.8);t(92)=3.03,
p<.001)。上位指標の「課題達成機能」も有意に向上していた(前49.1(SD=8.9):後50.7(SD=9.0);t(100)=2.27,p<.05)。下位指標の「計画・判断:“先のことを考えて行動することができる”」や「省察・アクション:“内容を考えて話すことができる”」から構成される中位指標の「計画的に考え行動する力」が有意に向上していた(前15.7(SD=3.4):後16.6(SD=3.5);t(104)=2.84,p<.01)。もう一つの上位指標の「集団維持機能」も有意に向上していた(前33.8(SD=7.2):後35.2(SD=6.6);t(98)=2.89,p<.01)。
(3)自尊心:キャンプ参加により「自尊心」は有意に向上していた(前(32.5(SD=8.2):後34.0(SD=8.4);t(95)=2.95,p<.001)。
考 察
結果から,ボーイスカウトにおけるキャンプに参加することにより,「生きる力」,「心理的社会的能力」が向上する。すなわち,自ら前向きに物事を考える「積極性」が高まり,先を見通す「視野」や問題点や課題を「判断」し,計画を立てることができるようになる。また,「リーダーシップ」の2つの機能である「課題達成機能」,すなわち,計画的に考え行動する能力が高まり,また,「集団維持機能」,すなわち,集団内の人間関係をよくしようとする能力が高まる。さらに,「自尊心」の向上に繋がる教育効果があることが明らかになった。
本研究は大妻女子大学戦略的個人研究費(S2829:H28年度,S2934:H29年度)の助成を受けた。