10:00 〜 12:00
[PD04] 円の一筆描きにみられる描線動作の文化的特徴
日・中・台・独の大学生を対象として
キーワード:描線動作, 比較文化
問題と目的
円を一筆描きさせると,文化により,その描き方が異なることが知られている。Taguchi(2010)はドイツ語圏と日本の大学生を対象に円などの図形の一筆描き課題を実施し,描き始めの位置や描く方向を検討した。その結果,日本の大学生は円を左下から時計回りに描く反応が多かったのに対し,ドイツ語圏の大学生では円を左上から反時計回りに描く反応が多かった。こうした文化差はアラビア語圏とフランス語圏の児童を対象とした研究においても示されている(Fagard & Dahmen, 2003)。このように,先行研究の結果からすると,図形の描き方にみられる文化差には,それぞれの文化圏で使用している文字の書字様式が影響していると考えられる。
日本は中国や台湾と同じ漢字圏であり,これらの地域では部分的に同一の文字体系を使用している。先行研究の知見からすると,漢字という同一の文字体系を使用する文化圏においては,図形の描き方にも共通の特徴がみられると予想される。そこで,本研究では日本,中国,台湾の大学生を対象として図形の一筆描き課題を実施し,描き始めの位置や描く方向を比較する。さらに,先行研究で示したドイツ語圏の大学生の描画結果と比較し,漢字圏の大学生にみられる図形の描き方の特徴を明らかにしていくことを目的とした。
方 法
被験者:日本人大学生31名,中国人大学生32名,台湾人大学生32名,ドイツ語圏大学生20名であり,どの被験者も右手書字者であった。
手続き:実験は個別法であった。各被験者には円などの図形が点線で描かれた実験用紙を配布し,その図形を鉛筆で一筆描きするよう教示した。実験者は記録用紙に各被験者の描線動作(描き始めの位置や描く方向)を記録した。描線動作のうち描き始めの位置については,時計の文字盤を基にして12分類した。また,描く方向については時計回りと反時計回りに2分類した。
結 果
各被験者の描き始めの位置および描く方向を分類し,反応頻度を示したのがTable1である。Table1をもとに,各地域で反応頻度に偏りがみられるかを検討するためχ2検定をおこなった。その結果,日本,中国,ドイツ語圏では有意な結果が得られた(日本χ2(3)=13.24,p<.01;中国χ2(4)=9.51,p<.05;ドイツ語圏χ2(3)=12.59,p<.01)。
日本の大学生の結果をみると,円の左下(時計の文字盤6~7時)から描く反応が多かった。また,描き始めの位置を11~12時にとる反応が全体の半数にのぼった(合計14名)。ただし,そこから時計回りに描く反応と反時計回り描く反応とにわかれることも示唆された。
中国の大学生では,円の左側(8~9時)から時計回りに描く反応がやや多かった(7名)。また,描き始めの位置を11~12時にとる反応も多いが(合計で18名),日本の大学生と同様に,そこから時計回りに描く反応と反時計回り描く反応とにわかれることが示唆された。
台湾の大学生では,反応頻度に有意差はみられなかった。ただし,Table1をみると円の左下(6~7時)から時計回りに描く反応がやや多いことがわかる。また,日本や中国の大学生と同じように,描き始めの位置を11~12時にとる反応が多く(合計21名),そこから時計回りに描く反応と反時計回り描く反応とにわかれることが示唆された。
ドイツ語圏の大学生では,描き始めの位置を円の左上(11~12時)にとる反応が多く(合計16名),そこから反時計回りに描く反応が多いことが示された(合計14名)。ドイツ語圏の大学生では,時計回りに描く反応はあまりみられなかった。
考 察
漢字圏の大学生では円を左下もしくは左側から時計回りに描く傾向がみられ,また円の上側(11~12時)から描き始めるときには,時計回りに描く反応と反時計回りに描く反応にわかれることが示された。漢字圏における円の描画にはこうした共通の特性がみられることが示唆された。いっぽう,ドイツ語圏大学生では円の上側(11~12時)から描き始め,反時計回りに描いていくことが明らかになった。このように,各言語の文字表記の違いが図形の描き方に影響を与えていると考えられた。
円を一筆描きさせると,文化により,その描き方が異なることが知られている。Taguchi(2010)はドイツ語圏と日本の大学生を対象に円などの図形の一筆描き課題を実施し,描き始めの位置や描く方向を検討した。その結果,日本の大学生は円を左下から時計回りに描く反応が多かったのに対し,ドイツ語圏の大学生では円を左上から反時計回りに描く反応が多かった。こうした文化差はアラビア語圏とフランス語圏の児童を対象とした研究においても示されている(Fagard & Dahmen, 2003)。このように,先行研究の結果からすると,図形の描き方にみられる文化差には,それぞれの文化圏で使用している文字の書字様式が影響していると考えられる。
日本は中国や台湾と同じ漢字圏であり,これらの地域では部分的に同一の文字体系を使用している。先行研究の知見からすると,漢字という同一の文字体系を使用する文化圏においては,図形の描き方にも共通の特徴がみられると予想される。そこで,本研究では日本,中国,台湾の大学生を対象として図形の一筆描き課題を実施し,描き始めの位置や描く方向を比較する。さらに,先行研究で示したドイツ語圏の大学生の描画結果と比較し,漢字圏の大学生にみられる図形の描き方の特徴を明らかにしていくことを目的とした。
方 法
被験者:日本人大学生31名,中国人大学生32名,台湾人大学生32名,ドイツ語圏大学生20名であり,どの被験者も右手書字者であった。
手続き:実験は個別法であった。各被験者には円などの図形が点線で描かれた実験用紙を配布し,その図形を鉛筆で一筆描きするよう教示した。実験者は記録用紙に各被験者の描線動作(描き始めの位置や描く方向)を記録した。描線動作のうち描き始めの位置については,時計の文字盤を基にして12分類した。また,描く方向については時計回りと反時計回りに2分類した。
結 果
各被験者の描き始めの位置および描く方向を分類し,反応頻度を示したのがTable1である。Table1をもとに,各地域で反応頻度に偏りがみられるかを検討するためχ2検定をおこなった。その結果,日本,中国,ドイツ語圏では有意な結果が得られた(日本χ2(3)=13.24,p<.01;中国χ2(4)=9.51,p<.05;ドイツ語圏χ2(3)=12.59,p<.01)。
日本の大学生の結果をみると,円の左下(時計の文字盤6~7時)から描く反応が多かった。また,描き始めの位置を11~12時にとる反応が全体の半数にのぼった(合計14名)。ただし,そこから時計回りに描く反応と反時計回り描く反応とにわかれることも示唆された。
中国の大学生では,円の左側(8~9時)から時計回りに描く反応がやや多かった(7名)。また,描き始めの位置を11~12時にとる反応も多いが(合計で18名),日本の大学生と同様に,そこから時計回りに描く反応と反時計回り描く反応とにわかれることが示唆された。
台湾の大学生では,反応頻度に有意差はみられなかった。ただし,Table1をみると円の左下(6~7時)から時計回りに描く反応がやや多いことがわかる。また,日本や中国の大学生と同じように,描き始めの位置を11~12時にとる反応が多く(合計21名),そこから時計回りに描く反応と反時計回り描く反応とにわかれることが示唆された。
ドイツ語圏の大学生では,描き始めの位置を円の左上(11~12時)にとる反応が多く(合計16名),そこから反時計回りに描く反応が多いことが示された(合計14名)。ドイツ語圏の大学生では,時計回りに描く反応はあまりみられなかった。
考 察
漢字圏の大学生では円を左下もしくは左側から時計回りに描く傾向がみられ,また円の上側(11~12時)から描き始めるときには,時計回りに描く反応と反時計回りに描く反応にわかれることが示された。漢字圏における円の描画にはこうした共通の特性がみられることが示唆された。いっぽう,ドイツ語圏大学生では円の上側(11~12時)から描き始め,反時計回りに描いていくことが明らかになった。このように,各言語の文字表記の違いが図形の描き方に影響を与えていると考えられた。