10:00 〜 12:00
[PD25] 転移課題における概念の精緻化とその個人差
情報処理スタイル(合理性-直観性)との交互作用
キーワード:価格決定, 二重過程モデル, 次元的アプローチ
問題と目的
転移は,学習が成立した環境とは異なる環境において,学習行動が再現される現象を指す。転移の成立には,促進要因と抑制要因が存在する。前者に関して,学習事項の構造や性質に関する理解を伴う方が,転移が成立することが示されている (Wertheimer, 1959)。一方,学習者が日常的な体験によって獲得した知識は,適切な学習事項の転移を抑制する場合がある。例えば,麻柄・進藤 (2008) による「山頂のジュース問題」では,山頂で販売されているジュースの価格が通常よりも高い理由を問い,需要による価格決定を回答できるか検討した。その多くは,コストを重視するものであり,基礎的な経済学的事項であっても,過去の経験と競合する課題では,適切な転移が成立しないことが示された。
理解と既有知識の両要因は,どちらも概念の精緻化を伴う。「山頂のジュース問題」において,回答に先立ち経済学的事項の精緻化に働きかける教示を行い,既有知識の影響を上回ることで,需要による価格決定の比重が増加すると予想され,その検討が行われている (麻柄・進藤, 2008)。
さらに,概念の精緻化においては個人差が想定される。本研究では,情報処理様式(合理的処理と直観的処理)の個人差 (Pacini & Epstein, 1999) を探索的に検討する。合理的処理は,概念の精緻化と正の相関を持ち,直観的処理は負の相関を持つと考えらえる。したがって,「山頂のジュース問題」では,高い合理的処理と,低い直観的処理において,概念の精緻化が行われやすく,需要を価格決定因とする回答が多いと予想される。
方 法
対象者と手続き 大学での講義を利用して計3回にわたる調査を行った。3回の調査に回答した73名(男性42名,女性:31名)を分析対象とした。
1回目の調査では,情報処理スタイル尺度(内藤・鈴木・坂元,2004)を用い,合理性12項目,直観性12項目を測定した。2回目では「山頂のジュース問題」への回答を求めた。3つの価格決定因,1)効用,2)需要,3)コストについて,それぞれどれくらい妥当なのかを 0%~100%まで10%きざみで評定した。3回目では価格決定に関する教示(麻柄・進藤, 2008)を行ったのち,山頂のジュース問題への回答を求めた。
結果と考察
教示の効果 2回目と3回目の調査における価格決定に関する判断を比較するため,t検定による平均値の比較を行った。需要に関しては,2回目 (M=71.37,SD=27.10)より3回目 (M=86.44, SD=15.76) が高く(t(71)=4.51, p<.01),コストは2回目(M=83.42,SD=23.41)よりも3回目 (M=70.14, SD=26.80)の方が低かった(t(72)=3.75, p<.01)。この結果から,教示によって,価格決定因として需要を重視する傾向が強まり,コストを重視する傾向が弱まったと考えられる。
情報処理スタイルの影響 教示の効果に関する個人差を検討するため,階層的重回帰分析を行った。基準変数は3回目の価格決定要因3つとし,それぞれ単独に分析した。目的変数は年齢,性別(ステップ1),2回目の価格決定要因(ステップ2),情報処理様式(ステップ3),情報処理様式間の交互作用であった(ステップ4)。コストに関する分析において,ステップ4の交互作用が示された (R2=.06, p<.05)。単純効果分析から,直観性・高群 (+1SD) において合理性の主効果の傾向がみられた (t(66)=-1.86, p<.07)。これらの結果は,直観性が高く,かつ,合理性が高いほど,価格決定におけるコスト要因が重視されないことを示す。
情報処理の2重過程モデルでは,カテゴリカルな観点から,合理的処理と直観的処理は対照的・独立的に位置づけされてきた(Chaiken & Trope, 1999)。しかし,本研究の結果は,両処理様式が概念の精緻化において協働的に作用する可能性を示唆するものである。両処理様式に共通する次元の解明が望まれる (e.g., Spunt, 2015) 。
転移は,学習が成立した環境とは異なる環境において,学習行動が再現される現象を指す。転移の成立には,促進要因と抑制要因が存在する。前者に関して,学習事項の構造や性質に関する理解を伴う方が,転移が成立することが示されている (Wertheimer, 1959)。一方,学習者が日常的な体験によって獲得した知識は,適切な学習事項の転移を抑制する場合がある。例えば,麻柄・進藤 (2008) による「山頂のジュース問題」では,山頂で販売されているジュースの価格が通常よりも高い理由を問い,需要による価格決定を回答できるか検討した。その多くは,コストを重視するものであり,基礎的な経済学的事項であっても,過去の経験と競合する課題では,適切な転移が成立しないことが示された。
理解と既有知識の両要因は,どちらも概念の精緻化を伴う。「山頂のジュース問題」において,回答に先立ち経済学的事項の精緻化に働きかける教示を行い,既有知識の影響を上回ることで,需要による価格決定の比重が増加すると予想され,その検討が行われている (麻柄・進藤, 2008)。
さらに,概念の精緻化においては個人差が想定される。本研究では,情報処理様式(合理的処理と直観的処理)の個人差 (Pacini & Epstein, 1999) を探索的に検討する。合理的処理は,概念の精緻化と正の相関を持ち,直観的処理は負の相関を持つと考えらえる。したがって,「山頂のジュース問題」では,高い合理的処理と,低い直観的処理において,概念の精緻化が行われやすく,需要を価格決定因とする回答が多いと予想される。
方 法
対象者と手続き 大学での講義を利用して計3回にわたる調査を行った。3回の調査に回答した73名(男性42名,女性:31名)を分析対象とした。
1回目の調査では,情報処理スタイル尺度(内藤・鈴木・坂元,2004)を用い,合理性12項目,直観性12項目を測定した。2回目では「山頂のジュース問題」への回答を求めた。3つの価格決定因,1)効用,2)需要,3)コストについて,それぞれどれくらい妥当なのかを 0%~100%まで10%きざみで評定した。3回目では価格決定に関する教示(麻柄・進藤, 2008)を行ったのち,山頂のジュース問題への回答を求めた。
結果と考察
教示の効果 2回目と3回目の調査における価格決定に関する判断を比較するため,t検定による平均値の比較を行った。需要に関しては,2回目 (M=71.37,SD=27.10)より3回目 (M=86.44, SD=15.76) が高く(t(71)=4.51, p<.01),コストは2回目(M=83.42,SD=23.41)よりも3回目 (M=70.14, SD=26.80)の方が低かった(t(72)=3.75, p<.01)。この結果から,教示によって,価格決定因として需要を重視する傾向が強まり,コストを重視する傾向が弱まったと考えられる。
情報処理スタイルの影響 教示の効果に関する個人差を検討するため,階層的重回帰分析を行った。基準変数は3回目の価格決定要因3つとし,それぞれ単独に分析した。目的変数は年齢,性別(ステップ1),2回目の価格決定要因(ステップ2),情報処理様式(ステップ3),情報処理様式間の交互作用であった(ステップ4)。コストに関する分析において,ステップ4の交互作用が示された (R2=.06, p<.05)。単純効果分析から,直観性・高群 (+1SD) において合理性の主効果の傾向がみられた (t(66)=-1.86, p<.07)。これらの結果は,直観性が高く,かつ,合理性が高いほど,価格決定におけるコスト要因が重視されないことを示す。
情報処理の2重過程モデルでは,カテゴリカルな観点から,合理的処理と直観的処理は対照的・独立的に位置づけされてきた(Chaiken & Trope, 1999)。しかし,本研究の結果は,両処理様式が概念の精緻化において協働的に作用する可能性を示唆するものである。両処理様式に共通する次元の解明が望まれる (e.g., Spunt, 2015) 。