日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PD(01-83)

ポスター発表 PD(01-83)

2017年10月8日(日) 10:00 〜 12:00 白鳥ホールB (4号館1階)

10:00 〜 12:00

[PD72] 相互応答的な関係・環境を実現する仕組みづくり

ある学級における高学年2年間の観察記録を素材として

東海林麗香1, 小林恵子#2 (1.山梨大学, 2.甲斐市立竜王南小学校)

キーワード:子どもと教師の関係性, 相互応答的関係, フィールドワーク

問題と目的
 本発表は,第一著者が2年間にわたるフィールドワークを行い,小学校教師である第二著者の第5・第6学年の担任としての教育実践について記述・整理し,その成果と意義について検討するものである。
 第一著者の関心は,学校における「その人らしさ」である。教育や指導の場でその人らしくいることを実現しようとすると,特別扱いとされたり,その場の和を乱すものとされたりする。そのような場面に出会うことがこれまでよくあった。学校教育の現場における課題について検討するために,「その人らしさ」「多様性」の実現やその否定,抑圧の場面におけるコミュニケーションのありように焦点を当てて観察やインタビューを行っている。本発表で取り上げるフィールドワークは,そのような関心によって進められた。
 第二著者の実践は,小林(2016)にその一部がまとめられている。これは,本発表で扱うフィールドワークの一年目の実践がまとめられたものであり,高学年における自己効力感の獲得・向上と自律的学習の促進に焦点を当て,学びのプロセスの意識化を促す日々のはたらきかけについて検討がなされた。この論文は児童の学力や動機づけの向上を目指すものであったが,教師-子ども間,子ども間のつながりを深めていくことの大切さについての指摘で結ばれている。具体的には以下のような記述があった。「筆者も一緒に頑張っているということを伝え,教師の気持ちも理解してもらいながらはたらきかけを行ってきた。この『教師も児童と一緒に学び頑張っている』という姿勢が,本研究には欠かせなかったと思われる。教師からの一方通行でなく,教師と児童,児童と児童のつながりを深めていくことの大切さに,筆者は改めて気づかされた。」「『お互いの忙しさや苦労,頑張りを理解し合いながら一緒に学んでいく』というスタンスを持ち,児童とのつながりを深めていくことが,はたらきかけを継続させる鍵となる。」といった記述である。
 これらの記述から,相互応答的な関係づくりおよび,そのような関係が生まれ維持される環境づくりを第二著者の教育実践の柱と捉え, 2年間継続して行った実践の成果と意義についてこのような視点から検討することとした。

方   法
 フィールドワークは第二著者が担任する学級の児童が第5学年から第6学年の2年間,週に1回の頻度で第一著者により行われた。第一著者は他の学級以外でも授業観察をするなど,特に二年目は学校全体に関わることとなったが,給食はこの学級で児童と共に食べることとし,授業だけでなく休み時間も含めた学校生活全般を観察した。第二著者の希望で,第一著者は「第三者的な観察者」として教室にいるのではなく,学習支援をするなど,TTのような役割で子どもと関わりながら観察を続けることとした。関わりながらの観察であるため,手が空いたときなどに気になったことをまとめて記述し,フィールドメモを蓄積していった。

結果と考察
 第二著者が考案・実施したはたらきかけは,「キーワード(クラスワード)を用いて説明や言葉かけを行うこと」「書くことでの振り返り」「学びの顕在化・共有化」の三つを柱とするもので,具体的には「プロセス図」「プロセスシート」「プロセス・クッキー」「学習感想・マイコメントへのコメント」を行った。これらの詳細は発表時に図や例と共に示す。これらのはたらきかけのみならず,授業や生活場面でのことばかけにおいても重視されているのが,「自分(たち)で気づくこと」「自分(たち)で考えること」「自分(たち)で説明すること」,そのために「言語化すること」である。また,自身のよさを自身で見出すことである。子どもは教えられ,理解され,ケアされるだけの存在ではなく,そのようなことをする主体であることが目指される。そのために教師も,自身の考えていること,感じていること,活動の意図などを児童に伝え,それらについてやりとりすることを意識して行うことした。このようなことが,相互応答的な関係・環境を実現する仕組みづくりの核となって,子どもたちが主体となって「自分(たち)で決める」ような活動も可能となっていった。

引用文献
小林恵子(2016)学びにおけるプロセスの意識化を促す日々のはたらきかけ-高学年児童の自己効力感と自律的学習に焦点を当てて- 山梨大学教職大学院教育実践研究報告書,41-48.