10:00 AM - 12:00 PM
[PD73] 通常学級担任の発達障害特性のある子どもに対する困難感と対処方略
Keywords:発達障害, 通常学級担任, 対処方略
問題と目的
特別支援教育の対象は,特別支援学級はもとより通常の学級を含む全ての教育上特別の支援を必要とする児童等である(文部科学省,2007)。対人関係のトラブル,不注意,多動性,読み書き困難等発達障害特性のある子どもは全体の7.7%在籍している(文部科学省,2012)。実際,自閉症スペクトラム(以下;ASD)の子どもの7割以上が通常学級に在籍している(Kimet et al,2011)。発達障害特性のある子どもが学級に複数名在籍する場合,学級崩壊や教師のストレスが増加する可能性もあり(土岐,2010),その対応は我が国における喫緊の課題である(文部科学省,2005)。発達障害を含む障害のある幼児児童生徒に対するガイドラインでも,診断のない可能性の段階から支援していくことが明示されている(文部科学省,2017)。これまで,教師の個別の行動介入に関する事例は蓄積されつつあるが(浦田,2006),発達障害特性を持つ子どもに対する通常学級担任の対応に関する研究は少ない。
そこで本研究では,学級に複数名在籍する発達障害特性を持つ子どもに対し通常学級担任が実際にどのような困難感を抱えながらどのように対応をしているのかを明らかにすることを目的とする。
方 法
調査対象:個別に依頼し同意を得られた通常学級担任10校20名(男性7名,女性13名,平均年齢40.9歳)。1名の教師から2-5名の子どもの事例が語られ,全68事例(ASD22名,ADHD20名,LD14名,SM3名)であった。
調査内容:発達障害特性を持つ子どもに対する困難感と対応について尋ねた。なお,診断を受けていない子どもに関して,教師が特性があると挙げた事例も疑いがあると判断し分析の対象とした。
データ分析:グラウンテッド・セオリー・アローチ(Strauss & Corbin,1998)を援用した。本研究では,発達障害特性をADHD,ASD,LDの特性群に分類して分析を行った。
結果と考察
分析の結果,11のカテゴリ,各サブカテゴリ(ADHD31,ASD32,LD26)が生成された。以下,カテゴリを【】,サブカテゴリを<>,下位項目を『』で表す。
【困難場面】学級での困難場面を特定した2カテ
ゴリである。ADHD特性群では,衝動性により<トラブル場面>が発生し,ASD特性群では,こだわりや他者とのコミュニケーションの難しさ等により生じていた。LD特性群はトラブルの言及はなく,<学習場面>での読み書き,計算の難しさの特徴が表出された。
【特性理解】子どもが持つ特性理解に関して,共通した2カテゴリ(<特性理解><特性による子どもの困難感の推察>)を得た。後者は,子どもの立場に立ち心情を推察し理解していた。
【教師の困難感】通常学級担任が発達障害特性を持つ子どもにおける困難場面に関与して感じる困難感である。<子ども対応の難しさ>は『物理的制約』『一斉指導が入りにくい』『対応がわかならい』からなる。<教師の葛藤>では,個別指導で伸びるが物理的制約があるための教師の揺れが表出された。<保護者の理解が得られない>では,保護者の協力を得るための前段階での困難感が生じていた。
【個別対応】各特性群に応じて,多様な支援がなされていた。ADHD特性群では,<学習・生活指導>に関し,授業中の『個別の声掛け』や『机間巡視中の声かけ』を頻回に行い子どもの注意を授業内容に戻したり,場合によっては『側で個別指導(低学年)』をすることもあった。<トラブル対応>では自尊感情を重視し,厳しい指導ではなく『丁寧な状況説明』がなされていた。その他,【子ども理解】【学級全体での関与】【学校体制での支援】【同僚との連携】【保護者との連携】【医療機関の関与】【現状分析】が導出された。
総合考察
通常学級担任の発達障害特性のある子どもへの対処方略の流れは,【困難場面】の同定,その場面が生じる子どもの【特性理解】により【個別対応】が行われる。それに関連して【教師の困難感】が<子ども対応の難しさ>を中心に生じていた。<保護者の理解が得られない>ことも現状を改善するための1つの障壁となり得る。子どもにとってよいと思う対応がある場合にもそれができないことによる<教師の葛藤>が生じていた。その後,人的資源としての連携と多様な子ども理解により【現状分析】を行いながら対応を模索する流れが示唆された。今後は,より詳細な対応方略の流れを検討する必要があるだろう。
特別支援教育の対象は,特別支援学級はもとより通常の学級を含む全ての教育上特別の支援を必要とする児童等である(文部科学省,2007)。対人関係のトラブル,不注意,多動性,読み書き困難等発達障害特性のある子どもは全体の7.7%在籍している(文部科学省,2012)。実際,自閉症スペクトラム(以下;ASD)の子どもの7割以上が通常学級に在籍している(Kimet et al,2011)。発達障害特性のある子どもが学級に複数名在籍する場合,学級崩壊や教師のストレスが増加する可能性もあり(土岐,2010),その対応は我が国における喫緊の課題である(文部科学省,2005)。発達障害を含む障害のある幼児児童生徒に対するガイドラインでも,診断のない可能性の段階から支援していくことが明示されている(文部科学省,2017)。これまで,教師の個別の行動介入に関する事例は蓄積されつつあるが(浦田,2006),発達障害特性を持つ子どもに対する通常学級担任の対応に関する研究は少ない。
そこで本研究では,学級に複数名在籍する発達障害特性を持つ子どもに対し通常学級担任が実際にどのような困難感を抱えながらどのように対応をしているのかを明らかにすることを目的とする。
方 法
調査対象:個別に依頼し同意を得られた通常学級担任10校20名(男性7名,女性13名,平均年齢40.9歳)。1名の教師から2-5名の子どもの事例が語られ,全68事例(ASD22名,ADHD20名,LD14名,SM3名)であった。
調査内容:発達障害特性を持つ子どもに対する困難感と対応について尋ねた。なお,診断を受けていない子どもに関して,教師が特性があると挙げた事例も疑いがあると判断し分析の対象とした。
データ分析:グラウンテッド・セオリー・アローチ(Strauss & Corbin,1998)を援用した。本研究では,発達障害特性をADHD,ASD,LDの特性群に分類して分析を行った。
結果と考察
分析の結果,11のカテゴリ,各サブカテゴリ(ADHD31,ASD32,LD26)が生成された。以下,カテゴリを【】,サブカテゴリを<>,下位項目を『』で表す。
【困難場面】学級での困難場面を特定した2カテ
ゴリである。ADHD特性群では,衝動性により<トラブル場面>が発生し,ASD特性群では,こだわりや他者とのコミュニケーションの難しさ等により生じていた。LD特性群はトラブルの言及はなく,<学習場面>での読み書き,計算の難しさの特徴が表出された。
【特性理解】子どもが持つ特性理解に関して,共通した2カテゴリ(<特性理解><特性による子どもの困難感の推察>)を得た。後者は,子どもの立場に立ち心情を推察し理解していた。
【教師の困難感】通常学級担任が発達障害特性を持つ子どもにおける困難場面に関与して感じる困難感である。<子ども対応の難しさ>は『物理的制約』『一斉指導が入りにくい』『対応がわかならい』からなる。<教師の葛藤>では,個別指導で伸びるが物理的制約があるための教師の揺れが表出された。<保護者の理解が得られない>では,保護者の協力を得るための前段階での困難感が生じていた。
【個別対応】各特性群に応じて,多様な支援がなされていた。ADHD特性群では,<学習・生活指導>に関し,授業中の『個別の声掛け』や『机間巡視中の声かけ』を頻回に行い子どもの注意を授業内容に戻したり,場合によっては『側で個別指導(低学年)』をすることもあった。<トラブル対応>では自尊感情を重視し,厳しい指導ではなく『丁寧な状況説明』がなされていた。その他,【子ども理解】【学級全体での関与】【学校体制での支援】【同僚との連携】【保護者との連携】【医療機関の関与】【現状分析】が導出された。
総合考察
通常学級担任の発達障害特性のある子どもへの対処方略の流れは,【困難場面】の同定,その場面が生じる子どもの【特性理解】により【個別対応】が行われる。それに関連して【教師の困難感】が<子ども対応の難しさ>を中心に生じていた。<保護者の理解が得られない>ことも現状を改善するための1つの障壁となり得る。子どもにとってよいと思う対応がある場合にもそれができないことによる<教師の葛藤>が生じていた。その後,人的資源としての連携と多様な子ども理解により【現状分析】を行いながら対応を模索する流れが示唆された。今後は,より詳細な対応方略の流れを検討する必要があるだろう。