10:00 〜 12:00
[PD75] 小学校における協同学習が児童の学習観と学習意欲に及ぼす影響
キーワード:協同学習, 学習意欲, 協同作業認識
問 題
学習者の能動的な学習への参加を取り入れた学習として注目されるアクティブ・ラーニングの実現のために,教育現場において大きな役割を期待されているのが協同学習である(安永,2015)。
協同学習の有効性は数多く示されているが,その一つに学習意欲の向上が挙げられる(例えば真田・浅川,2014)。協同学習が学習意欲を向上させる理論的背景の1つに,Deci & Ryanらが提唱してきた自己決定理論がある。協同学習の導入により被受容感が高まり,関係性への欲求が充足されるほど学習に対する価値が内在化され,学習意欲が向上されるという仮説が成り立つ。
長濱・安永(2008)は,大学生に対する調査で協同作業を肯定的に捉える学生ほど,学習意欲が高いことを明らかにしている。また,協同活動を取り入れた授業の実施によって,協同作業に対する認識が肯定的に変化することを示している(長濱・安永,2010)。これらの先行研究から,学習者は協同学習をすすめる際に,受容的な学習環境のなかで協同の良さを体感し,仲間との協同に対する肯定的な認識が形成され,学習意欲が高まることが考えられる。そこで本研究では,小学校における協同学習の導入が児童の学習観と学習意欲に及ぼす影響について検討する。
方 法
対象 A県内の公立小学校における4年生3クラスに在籍する児童105名(男子49名,女子56名)。Aクラスでは,Johnson, Johnson & Holubec(1994)のCooperative Learningの以下の5条件を協同学習の基本として授業内で満たすように授業プログラムを設計し,導入した。5条件とは(1)促進的相互依存関係,(2)対面的な相互作用,(3)個人の責任,(4)対人技能の適切な奨励・訓練・使用,(5)グループ改善手続きである。Aクラスの授業は,第一筆者が担任として担当した。B,Cクラスでは,従来の一斉指導中心の授業を実施した。
調査時期 201x年11月上旬から12月上旬。
調査内容 ①学習意欲尺度(真田・浅川・佐々木・貴村,2014)②被受容感尺度(鈴木・小川,2007)③協同作業認識尺度(長濱・安永・関田・甲原,2009)を小学生用に改変して使用した。
結果と考察
はじめに協同作業認識尺度の下位尺度得点,学習意欲尺度総得点,被受容感得点に対して,2(群:協同学習実施群・従来の一斉学習実施群)×2(時期:前・後)の分散分析を行った。その結果,協同効用因子では、群と時期の交互作用が認められた(F(1,103)=11.35,p<.001)。単純主効果の検定を行ったところ,協同学習実施群は有意に得点が高まり(F(1,103)=6.97,p<.05),一斉学習実施群は有意に得点が低まっていることが示された(F(1,103)=4.41,p<.05)。個人志向因子では、有意な変化は認められなかった。学習意欲においても交互作用が認められた(F(1,103)=5.96,p<.05)。単純主効果の検定を行ったところ,協同学習実施群の得点の上昇に有意傾向が認められた(F(1,103)=3.54,p<.10)。被受容感においても,交互作用が認められたため(F(1,103)=6.43,p<.05),単純主効果の検定を行ったところ,協同学習実施群にのみ,有意な変化が認められ(F(1,103)=7.12,p<.01),事後に得点が高まっていた。
次に協同学習実施群の協同作業認識尺度・学習意欲尺度・被受容感尺度の全体得点と下位尺度得点を算出し,事前事後の点数の差を求め,それぞれの差の相関を求めた。その結果,協同効用と被受容感,学習意欲尺度の下位尺度である学習効力感と授業に対する自我関与の得点差が有意な相関を示していた(Table1)。
本研究では,協同学習で協同作業に対する認識,被受容感,学習意欲が高まることが示された。また,これらの因子の協同学習導入前後の得点差は互いに相関していた。これらのことから,協同学習の枠組みの中で,受容的な環境が構築され,仲間との協同の良さを体感しながら学習に取り組むことで、学習意欲が高まったということが考えられる。本研究から,協同学習によって被受容感,そして協同作業に対する肯定的な認識が高まり,学習意欲が高まる可能性が示唆された。
本研究は,科学研究費補助金(奨励研究 課題番号:16H00040 研究課題名:「小学校における協同学習が学習意欲に及ぼす影響に関する実証的研究」を一部用いて行われた。
学習者の能動的な学習への参加を取り入れた学習として注目されるアクティブ・ラーニングの実現のために,教育現場において大きな役割を期待されているのが協同学習である(安永,2015)。
協同学習の有効性は数多く示されているが,その一つに学習意欲の向上が挙げられる(例えば真田・浅川,2014)。協同学習が学習意欲を向上させる理論的背景の1つに,Deci & Ryanらが提唱してきた自己決定理論がある。協同学習の導入により被受容感が高まり,関係性への欲求が充足されるほど学習に対する価値が内在化され,学習意欲が向上されるという仮説が成り立つ。
長濱・安永(2008)は,大学生に対する調査で協同作業を肯定的に捉える学生ほど,学習意欲が高いことを明らかにしている。また,協同活動を取り入れた授業の実施によって,協同作業に対する認識が肯定的に変化することを示している(長濱・安永,2010)。これらの先行研究から,学習者は協同学習をすすめる際に,受容的な学習環境のなかで協同の良さを体感し,仲間との協同に対する肯定的な認識が形成され,学習意欲が高まることが考えられる。そこで本研究では,小学校における協同学習の導入が児童の学習観と学習意欲に及ぼす影響について検討する。
方 法
対象 A県内の公立小学校における4年生3クラスに在籍する児童105名(男子49名,女子56名)。Aクラスでは,Johnson, Johnson & Holubec(1994)のCooperative Learningの以下の5条件を協同学習の基本として授業内で満たすように授業プログラムを設計し,導入した。5条件とは(1)促進的相互依存関係,(2)対面的な相互作用,(3)個人の責任,(4)対人技能の適切な奨励・訓練・使用,(5)グループ改善手続きである。Aクラスの授業は,第一筆者が担任として担当した。B,Cクラスでは,従来の一斉指導中心の授業を実施した。
調査時期 201x年11月上旬から12月上旬。
調査内容 ①学習意欲尺度(真田・浅川・佐々木・貴村,2014)②被受容感尺度(鈴木・小川,2007)③協同作業認識尺度(長濱・安永・関田・甲原,2009)を小学生用に改変して使用した。
結果と考察
はじめに協同作業認識尺度の下位尺度得点,学習意欲尺度総得点,被受容感得点に対して,2(群:協同学習実施群・従来の一斉学習実施群)×2(時期:前・後)の分散分析を行った。その結果,協同効用因子では、群と時期の交互作用が認められた(F(1,103)=11.35,p<.001)。単純主効果の検定を行ったところ,協同学習実施群は有意に得点が高まり(F(1,103)=6.97,p<.05),一斉学習実施群は有意に得点が低まっていることが示された(F(1,103)=4.41,p<.05)。個人志向因子では、有意な変化は認められなかった。学習意欲においても交互作用が認められた(F(1,103)=5.96,p<.05)。単純主効果の検定を行ったところ,協同学習実施群の得点の上昇に有意傾向が認められた(F(1,103)=3.54,p<.10)。被受容感においても,交互作用が認められたため(F(1,103)=6.43,p<.05),単純主効果の検定を行ったところ,協同学習実施群にのみ,有意な変化が認められ(F(1,103)=7.12,p<.01),事後に得点が高まっていた。
次に協同学習実施群の協同作業認識尺度・学習意欲尺度・被受容感尺度の全体得点と下位尺度得点を算出し,事前事後の点数の差を求め,それぞれの差の相関を求めた。その結果,協同効用と被受容感,学習意欲尺度の下位尺度である学習効力感と授業に対する自我関与の得点差が有意な相関を示していた(Table1)。
本研究では,協同学習で協同作業に対する認識,被受容感,学習意欲が高まることが示された。また,これらの因子の協同学習導入前後の得点差は互いに相関していた。これらのことから,協同学習の枠組みの中で,受容的な環境が構築され,仲間との協同の良さを体感しながら学習に取り組むことで、学習意欲が高まったということが考えられる。本研究から,協同学習によって被受容感,そして協同作業に対する肯定的な認識が高まり,学習意欲が高まる可能性が示唆された。
本研究は,科学研究費補助金(奨励研究 課題番号:16H00040 研究課題名:「小学校における協同学習が学習意欲に及ぼす影響に関する実証的研究」を一部用いて行われた。