日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PD(01-83)

ポスター発表 PD(01-83)

2017年10月8日(日) 10:00 〜 12:00 白鳥ホールB (4号館1階)

10:00 〜 12:00

[PD76] 大学生を対象としたレジリエンス教育の検討

美術専攻学生対象のレジリエンス・プログラム実践から

小林美佐子 (早稲田大学大学院)

キーワード:レジリエンス, 教育, 実践

目   的
 大学生の心の健康の問題は,休学や退学等にかかわる重要な課題である。大学生のストレスは,学業・人間関係・バイト・就職活動など多岐にわたる。さらに学問の専攻によっても異なるストレスがある。美術専攻の学生は,いかに個性を発揮するか,自らの中から創造性を生み出していくかを強いられる環境にあり(関口,2012),悲観的で,心配性,抑うつ性,主観性,攻撃性が高い傾向がある(高橋,1973,1982)という指摘がある。また,芸術系の学部は,発達障害学生の在籍率が高いという報告もある(高橋,2016)。
 大学生が予防教育としてレジリエンス(ストレスフルな出来事や,状況の中でも潰れることなく適応し,また,精神的な傷つきから立ち直ることのできる個人の力(平野,2015))について学ぶことは,心の健康のため,また,今後社会で多様なストレスに立ち向かうためにきわめて有用である。
 そこで本研究では美術専攻の学生に予防的なレジリエンス教育を行い,プログラム前後の心理資源とレジリエンスの関係を調査する。そしてレジリエンス教育の効果を検討することを目的とした。
方   法
1.実施時期と対象者と手続き 2016年10月に関西地方の芸術系大学で学ぶ美術専攻の学生51名を対象に実施した。有効回答は44名であった。
2.レジリエンス・プログラム内容 90分×2回で行った。プログラムは,「SPARKレジリエンス・プログラム」(Boniwell&Ryan,2009)をもとに,(1)感情・行動:レジリエンスの概念と感情,マインドフルネス・呼吸法,(2)認知:物事のとらえ方と変容,という内容で実践した。
3.質問紙 二次元レジリエンス要因尺度(平野,2010),自尊感情尺度(山本他,1982),特性的自己効力感尺度(成田他,1995),3次元モデルに基づく対処方略尺度(神村他,1995)を実施した。プログラムの前と終了後に質問紙に回答を求めた。回答は任意であることを質問紙に添え,無記名とした。事前と事後の回答が同一調査者であることを確認するため,携帯番号4桁を登録番号とした。フェイスシートで年齢,性別,主観的なメンタルの強度,プログラムについての感想に回答を求めた。
結   果
 プログラム受講後はレジリエンスの「資質的要因」(t(43)=3.96,p<.01),「自尊感情」(t(43)=3.54,p<.01),「自己効力感」(t(43)=3.72,p<.01)が有意に向上した。「レジリエンス得点」は,プログラム前後の「自尊感情」高低群と関連が見られた(F(1,42)=5.03,p<.05)。事前と事後の「レジリエンス得点」の伸び率は,「レジリエンス」(t(42)=2.38,p<.05),「自尊感情」(t(42)=2.12,p<.05),「自己効力感」(t(42)=2.46,p<.05)で,それぞれ低群が有意に高かった。主観的メンタル強度の,強弱群の比較では,「レジリエンス得点」(t(42)=4.12,p<.01)と,「資質的要因」(t(42)=4.45,p<.01)は,メンタル強群が有意に高かった。また「レジリエンス得点」の高い学生はコーピングの得点が高かった(t(42)=2.62,p<.05)。
考   察
 プログラム終了後,参加者全体のレジリエンスの資質的要因,自尊感情,自己効力感が向上した。もともと心理資源として持っているレジリエンス,自尊感情,自己効力感が低い学生の方がレジリエンスの伸び率が高かった。したがって,本プログラムは特にレジリエンスの低い学生に効果があることが示された。また,主観的なメンタルの強弱は,資質的な要因が影響して自覚していることがうかがえた。レジリエンスの高い学生はコーピングを多く利用していた。感想には「就活が不安だが,何とかなりそうだ」「自分に自信が持てるようになった」などがあった。予防的なレジリエンス教育は,美術専攻の大学生およびレジリエンスの低い学生に,特に有効である可能性が示唆された。