1:30 PM - 3:30 PM
[PE07] 攻撃行動に対する中学生の道徳的判断
文脈の違いによる判断の差と学年ごとの特徴
Keywords:道徳的判断, 攻撃行動, 社会的領域理論
目 的
Turiel(1983)の社会的領域理論によると,攻撃行動は道徳領域から悪いと判断されるというが,攻撃の文脈等によっては,必ずしも悪いと判断されないことが示されている(Smetana et al.,2003など)。しかし,本邦では中学生の知見が不足している。
そこで,本研究は,中学生に文脈の異なる複数の攻撃場面を提示し,それぞれについてどのような理由から善悪判断がされるかを検討することを目的とする。
方 法
調査協力者 中学生1021名(1年生323名,2年生343名,3年生355名,男子526名,女子491名,性別不明4名)
攻撃場面 動機1:利己的(先生の前で特に真面目に振る舞う被害者が気に入らない),動機2:仕返し(貸していたマンガを被害者になくされた)形態1:関係性攻撃(仲間はずれ),形態2:言語的攻撃(嫌がるあだ名で呼ぶ)を組み合わせて4場面を作成した。
質問項目 攻撃場面の提示(1人2場面),加害者の悪さ(1項目5件法),被害者の悪さ(1項目5件法),加害者を悪いと判断した理由(28項目5件法)
結 果
判断理由尺度の因子分析:いずれの場面でも同様の6因子構造が確認された。道徳領域の「他者の福祉(被害者が悲しむから)」,「不公平性(一方的だから)」,慣習領域の「集団秩序・人間関係(クラスの雰囲気が悪くなるから)」,「被害者の非への帰属(原因は被害者にあるから)」,個人領域の「個人の自由(やるかやらないかは加害者次第だから)」に加え,どの領域にも含まれない「不適切な手段(加害者のやり方では解決しないから)」が抽出された。重回帰分析の結果,「他者の福祉(β=.18,p<.001)」,「不公平性(β=.12,p<.05)」,「不適切な手段(β=.32,p<.05)」は加害者の悪さに正の影響を,「被害者の非への帰属(β=.50,p<.001)」は被害者の悪さに正の影響を示した。
場面の違いによる判断理由の差 加害者・被害者の悪さと判断理由の因子ごとに動機(2)×形態(2)のANOVAを行った。その結果,利己的より仕返しにおいて,また,言語的攻撃より関係性攻撃において,「他者の福祉」,「不公平性」,「不適切な手段」の理由が多く用いられ,加害者がより悪いと判断されていた。
道徳的判断・道徳的感情・加害者の悪さの程度のプロフィール 「他者の福祉」,「不公平性」,「不適切な手段」を道徳的判断の指標として学年ごとにグラフ化した(Figure1)。
考 察
利己的な攻撃では,被害者の心情や,攻撃が一方的であること,方法の誤りを理由として加害者を悪いと判断するが,仕返し場面では,被害者にも落ち度があることを理由に加害行為が許容される傾向が示された。
また,学年ごとに見ると,1年生では明確な判断理由が伴わないステレオタイプ的な善悪判断,2年生ではステレオタイプ的な判断からの脱却と規範の後退,3年生では判断理由を伴った自律的な判断の段階といった発達的な特徴が見出された。
Turiel(1983)の社会的領域理論によると,攻撃行動は道徳領域から悪いと判断されるというが,攻撃の文脈等によっては,必ずしも悪いと判断されないことが示されている(Smetana et al.,2003など)。しかし,本邦では中学生の知見が不足している。
そこで,本研究は,中学生に文脈の異なる複数の攻撃場面を提示し,それぞれについてどのような理由から善悪判断がされるかを検討することを目的とする。
方 法
調査協力者 中学生1021名(1年生323名,2年生343名,3年生355名,男子526名,女子491名,性別不明4名)
攻撃場面 動機1:利己的(先生の前で特に真面目に振る舞う被害者が気に入らない),動機2:仕返し(貸していたマンガを被害者になくされた)形態1:関係性攻撃(仲間はずれ),形態2:言語的攻撃(嫌がるあだ名で呼ぶ)を組み合わせて4場面を作成した。
質問項目 攻撃場面の提示(1人2場面),加害者の悪さ(1項目5件法),被害者の悪さ(1項目5件法),加害者を悪いと判断した理由(28項目5件法)
結 果
判断理由尺度の因子分析:いずれの場面でも同様の6因子構造が確認された。道徳領域の「他者の福祉(被害者が悲しむから)」,「不公平性(一方的だから)」,慣習領域の「集団秩序・人間関係(クラスの雰囲気が悪くなるから)」,「被害者の非への帰属(原因は被害者にあるから)」,個人領域の「個人の自由(やるかやらないかは加害者次第だから)」に加え,どの領域にも含まれない「不適切な手段(加害者のやり方では解決しないから)」が抽出された。重回帰分析の結果,「他者の福祉(β=.18,p<.001)」,「不公平性(β=.12,p<.05)」,「不適切な手段(β=.32,p<.05)」は加害者の悪さに正の影響を,「被害者の非への帰属(β=.50,p<.001)」は被害者の悪さに正の影響を示した。
場面の違いによる判断理由の差 加害者・被害者の悪さと判断理由の因子ごとに動機(2)×形態(2)のANOVAを行った。その結果,利己的より仕返しにおいて,また,言語的攻撃より関係性攻撃において,「他者の福祉」,「不公平性」,「不適切な手段」の理由が多く用いられ,加害者がより悪いと判断されていた。
道徳的判断・道徳的感情・加害者の悪さの程度のプロフィール 「他者の福祉」,「不公平性」,「不適切な手段」を道徳的判断の指標として学年ごとにグラフ化した(Figure1)。
考 察
利己的な攻撃では,被害者の心情や,攻撃が一方的であること,方法の誤りを理由として加害者を悪いと判断するが,仕返し場面では,被害者にも落ち度があることを理由に加害行為が許容される傾向が示された。
また,学年ごとに見ると,1年生では明確な判断理由が伴わないステレオタイプ的な善悪判断,2年生ではステレオタイプ的な判断からの脱却と規範の後退,3年生では判断理由を伴った自律的な判断の段階といった発達的な特徴が見出された。