日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PE(01-80)

ポスター発表 PE(01-80)

2017年10月8日(日) 13:30 〜 15:30 白鳥ホールB (4号館1階)

13:30 〜 15:30

[PE11] 親子の時間的展望はどの程度類似するのか

中学生とその親を対象とした横断的検討

石井僚1, 村山航2, 福住紀明3, 石川信一4, 村上達也5, 大谷和大6, 榊美知子7, 鈴木高志8, 田中あゆみ9 (1.同志社大学, 2.University of Reading, 3.高知工科大学, 4.同志社大学, 5.高知工科大学, 6.北海道大学大学院, 7.University of Reading, 8.高知工科大学, 9.同志社大学)

キーワード:時間的展望

問題と目的
 時間的展望は,学業成績を含む個人の行動等に広く影響を及ぼすものとされ (Phalet et al., 2004; Zimbardo & Boyd, 1999),楽観性や自尊感情 (Worrell & Mello, 2009),抑うつ (van Beek et al., 2011),年齢 (Zimbardo & Boyd, 1999) など,多くの関連要因が明らかにされてきた。
 一方,時間的展望の形成には,社会化過程やモデリング,文化といった環境の影響が大きいとされる (Seginer, 2003)。実際,時間的展望と社会経済的地位との関連も示されている (Guthrie et al., 2009; Mello & Swanson, 2007)。そして中学生のキャリア発達に対する親の影響 (Keller & Whiston, 2008) が示される等,形成期にある青年の時間的展望には,親の影響力が大きいことが予想される。
 本研究では,中学生とその親の時間的展望がどの程度類似しているかについて検討を行う。その際,中学生の時間的展望との関連が予想される中学生自身の年齢や性別,親の抑うつや自尊感情,社会経済的地位の影響を統制して検討を行う。
方   法
対象者と手続き
 中学生 (男性95名,女性105名) とその親 (母親161名,父親39名) の200組を対象とした。郵送法による質問紙調査を調査会社に委託して行った。
質問紙
 時間的展望 邦訳版ATI-TF (Mello et al., 2007) を用いて,各時間について考える頻度を測定した(未来頻度,現在頻度,過去頻度の3項目5件法)。
 抑うつ 邦訳版Kessler 10 (藤本, 2014) を用いた(10項目5件法)。
 自尊感情 Rosenbergの自尊感情尺度の邦訳版 (山本他, 1982) を用いた(10項目7件法)。
 社会経済的地位 回答者の性別,両親の年齢,学歴,世帯年収を測定した。
結   果
 子どもの各時間的展望をそれぞれ従属変数,子どもの年齢と性別,両親の年齢と学歴,世帯年収,回答した親の性別,抑うつ,自尊感情をStep 1,Step 2で親の各時間的展望を独立変数とした階層的重回帰分析を行った。その結果,Step 2において,子どもの未来頻度については,子どもの年齢 (β = .198),回答した親の性別 (.411),親の未来頻度 (.216) が,子どもの現在頻度については,子どもの年齢 (.262) と性別 (.287),母親の学歴 (.149),親の現在頻度 (.183) が,子どもの過去頻度については,子どもの性別 (.408),父親の学歴 (.093),親の抑うつ (.323),親の未来頻度 (.180) が有意または有意傾向であった。
考   察
 階層的重回帰分析の結果,各変数を統制した上でも,中学生の未来を考える頻度と親の未来を考える頻度には正の関連が示された。また有意傾向ではあるが,現在を考える頻度も同様の関連の傾向が示された。時間的展望の形成には環境の影響が大きく (Seginer, 2003),未来や現在について考える親をモデリングし,そのような親に養育されて社会化していくことで,親子間で類似した時間的展望が形成されたと考えられる。
 一方,過去を考える頻度は,親の未来を考える頻度との関連が有意傾向であった。青年が未来を見通す際には過去を回想するとされる (白井, 2010)。未来を考える頻度の親子間の関連も見出されているため,親の未来を考える頻度は中学生の未来と過去を考える頻度の両方と正の関連がみられたと考えられる。一方,親の抑うつとの関連も見出されているため,今後は各時間を考える頻度が持つ機能について検討することが課題である。
(本研究はJSPS科研費 JP16H06406の助成を受けた。