日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PE(01-80)

ポスター発表 PE(01-80)

2017年10月8日(日) 13:30 〜 15:30 白鳥ホールB (4号館1階)

13:30 〜 15:30

[PE21] ソーシャル・キャピタルの視点を取り入れた保育士養成カリキュラム

保育士志望学生が「地域」で「子育て中の保護者」と関わる授業の構築

三國隆子 (東京立正短期大学)

キーワード:保育士養成, ソーシャル・キャピタル, 子育て支援

はじめに
 保育士には地域と連携しながら保護者を支援し,保護者と共に子育てを支えていく役割が求められているものの,保育士養成校のカリキュラムにある保育実習では「子ども」と関わる学びが中心となり,「保護者」支援まで学ぶことは難しいという現実がある。
 保育士の保護者支援について,保育所保育指針「第六章 保護者に対する支援」の中の「1.保育所における保護者に対する支援の基本」において,「(五)子育て等に関する相談や助言に当たっては,保護者の気持ちを受け止め,相互の信頼関係を基本に,保護者一人一人の自己決定を尊重すること。」や「(七)地域の子育て支援に関する資源を積極的に活用するとともに,子育て支援に関する地域の関係機関,団体等との連携及び協力を図ること。」と記載されている。

問題と目的
 保育士には子育て中の保護者の気持ちを受け止め子育てを支える役割が求められ,保育所には子育て支援の拠点としての役割が求められている。
 ソーシャル・キャピタルとは,稲葉洋二によれば「人々が他人に対して抱く『信頼』,それに『情けは人の為ならず』『お互い様』『持ちつ持たれつ』といった言葉に象徴される『互酬性の規範』,人や組織の間の『ネットワーク(絆)』ということになる」(稲葉,2011)という。保育士養成校において,このようなソーシャル・キャピタルの視点を取り入れた,「『地域』で『子育て中の保護者』と関わる授業」を取り入れることによって,保護者の抱えている「問題」や子育てへの「思い」,そのような内実を少しでも理解した上で保育士になることができるのではないだろうか。
 そこで,保護者と実際に関わることによって,子どもを保育所に預けて働く保護者の置かれている現状を「知ること」,地域との関わり方について「学ぶこと」を目的としたカリキュラムを保育士養成校に置き,地域をあげて子育て支援の取り組みを行っている東京都S区にある商店街を舞台に,保育士を目指す専攻科学生と子育て中の保護者が協働し,「保育する立場」と「子どもを託す立場」がお互いを理解し合うことを目指す。そして,保護者や地域との関わりが,学生の保育に対する思いや仕事観,保護者理解,子ども観や子育て観そして保育観,学生自身のワーク・ライフ・バランス観にどのような変化や影響を与えるのかについて明らかにする。
方   法
1)調査対象者
 ①保育士養成校の学生:保育士養成校のT短期大学専攻科の授業において「地域と子育てA」という名称の半期科目を履修した学生18名(うち男子学生2名)。
 ②保護者:育児休暇中の乳幼児の保護者8名
2)調査方法
 乳幼児の子育て中の保護者に対するイメージ,学生自身の子育て観や保育観,ワーク・ライフ・バランス観について質問紙によるアンケート調査を行う。また,保護者から子育ての実際について話を聞き,共に子ども向けイベントを協働し取り組むことによって,保護者理解がどのように進み,子育て観や保育観,ワーク・ライフ・バランス観がどのように変化するのかを自由記述や半構造化面接によって明らかにする。

結   果
 学生が「子どもをもつ保護者」の生活を考える時,その基本となるのは「学生自身の親」であり,本研究で設定した授業を受ける以前は,乳幼児の保護者の生活をイメージする際には自分の親から見聞きした情報を用いていることが分かった。
 本授業で「子育ての実際」について母親たちの生の声を聞くことによって,「子育ては女性がするもの」という考え方から「夫への不満があるとしても,伝えたいことは言い合ったり, 助け合いあっての子育てなんだと思うようになった」など子育て観に変化がみられた。また,「思っていた通り,家事,育児の負担は母親の方が大きい。夫とスケジュールを共有したりコミュニケーションをとることももちろん大事で大切なことだが,シッターや自治体がやってる一時保育など,第三者の手助けもとても大事で,利用することで母親の負担が軽減され子どもとよい気持ちで向き合えるのではないだろうか」といった社会で子育てを支えることの意義についての視点もみられるようになった。