日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PE(01-80)

ポスター発表 PE(01-80)

2017年10月8日(日) 13:30 〜 15:30 白鳥ホールB (4号館1階)

13:30 〜 15:30

[PE25] 学習モデルと課題の種類が学習成果に与える効果

植原俊晴 (宝塚市立御殿山中学校)

キーワード:操作的思考課題, 演繹と帰納, 中学校理科

問題と目的
 植原・川上(2017)は,小・中学校における科学教育の授業が,①獲得させたい科学的知識に関わる事例を実験や観察をしたり,資料を利用したりすることで収集する,②収集した事例から一般法則を導き出し教示するという帰納的過程(以下,「帰納的学習モデル」と記す)でデザインされている傾向があり,科学的に探究する能力を育成する観点から,その問題点を指摘している。その上で,演繹的過程を重要視した,①一般法則を教示する,②当該の法則が正しいとすれば,それに関わる事象の結果がどうなるかを予想させる,③予想され得る結果を確かめさせる段階で構成した知識検証学習モデル(LVKモデル)を提案している。本研究では,このモデルと帰納的学習モデルにそれぞれ操作的思考課題(植原, 2016)と再生課題を組み込んだ授業を行い,その学習成果を知識の直接的適用,操作的適用,制御的適用(工藤, 2008)の観点から検討することを目的とする。
方   法
 分析対象者は中学1年生146名である。事前調査(約15分),授業(約50分)を2単位時間,事後調査(約15分)のセッションを実施した。事前調査の構成は問題1(知識の直接的適用)と問題2(知識の操作的適用)であり,事後調査の構成は事前調査の問題に,問題3(知識の制御的適用)を加えたものであった。また,授業は学習モデル(2)×課題の種類(2)の4群に分けて行った。
結果と考察
 問題1と2について,それぞれ学習モデル(2)×課題の種類(2)×テスト時期(2)の分散分析を行った。その結果,問題1では,テスト時期の主効果のみが認められ,事後テストの得点が高かった(F(1, 142)=102.52, p<.01)。このことより,いずれの授業にも,知識の直接的適用を促す効果があると言える(Figure1参照)。問題2では,二次の交互作用が有意であったので(F(1, 142)=9.11, p<.01),事前テストと事後テストごとに,学習モデル(2)×課題の種類(2)の分散分析を行ったところ,事後テストにおいて,交互作用が有意だった(F(1, 142)=12.27, p<.01)。単純主効果の検定を行ったところ,操作的思考課題では帰納的学習モデルよりLVKモデルの方で(F(1, 142)=6.86, p<.01),再生課題ではLVKモデルより帰納的学習モデルの方で得点が高かった(F(1, 142)=5.45, p<.05)。また,LVKモデルにおいてのみ課題間で有意差が見られ(F(1, 142)=18.12, p<.01),再生課題より操作的思考課題の得点が高かった。つまり,操作的思考課題を導入したLVKモデルに基づいて行われた授業に知識の操作的適用を促進する効果があると言える(Figure2参照)。問題3について,学習モデル(2)×課題の種類(2)の分散分析を行ったところ,課題の種類の主効果のみが認められ(F(1, 142)=15.29, p<.01),事後テストの得点が高かった。したがって,操作的思考課題を導入した授業に知識の制御的適用を促す効果があると言える(Figure3参照)。
成果と課題
 本研究により,以下の知見が得られた。第1に,学習モデルによらずすべての授業に,知識の直接的適用を促す効果があると示唆された。第2に,学習活動に操作的思考課題を組み込んだLVKモデルに基づく授業に,知識の操作的適用や制御的適用を促進する効果があると示唆された。しかし,上記の授業であっても,知識の操作的適用や制御的適用を高める効果は限定的であった。このことから,科学的知識の操作に関する各種条件を引き続き検討する必要性がある。