1:30 PM - 3:30 PM
[PE33] 大勢の人の前で話すことへの意識調査
大学の新入生と上級生の比較を通して
Keywords:スピーチ, 初年次教育
問題と目的
大勢の人前で話すことへの苦手・得意意識に影響を与える要因について調査を行った。また,大学新入生と上級生との違いについても検討した。
方 法
調査対象者 環太平洋大学の新入生294名,上級生(2~4年生)149名が調査に協力した。
質問紙 質問項目は吉澤(2014)を基に,内容構成能力と他者への意識に関するものを計11項目用意した。はじめに「あなたは,大勢の人の前で話をすることになりました。その時のあなた自身に一番近いのはどれですか。」と教示した。そして,それぞれの質問項目について,「0:全くそう思わない」から「5:非常にそう思う」の6件法で回答を求めた。
さらに,人前で話すことに対する意識(苦手・得意意識)を測定した。「あなたは大勢の人の前で話をするのがどれくらい得意,あるいは苦手ですか? 他の人と比較をするのではなく,あなた自身の率直な気持ちを答えてください。」と教示し,「0:とても苦手」から「5:とても得意」の6件法で回答を求めた。
手続き 2017年4月上旬に講義の一部で実施した。調査者より調査の趣旨を説明し,調査協力に承諾する者のみ,質問紙へ回答するように依頼した。回答時間は約5分であった。
結果と考察
信頼性が著しく疑われるものや途中で回答が途切れているデータを分析対象から除外した。分析対象は新入生が287名(男性192名,女性94名,無回答1名,平均18.05歳,SD 0.28),上級生が134名(男性86名,女性46名,無回答2名,平均19.25歳,SD 0.54)であった。
因子分析 本調査にて作成した尺度の因子構造について調べるため,最尤法(プロマックス回転)による探索的因子分析を行った。固有値の推移から3因子(第1因子4.24,第2因子が1.61,第3因子が1.34)を採用した。負荷量の高い項目の内容を考慮し,「因子1:内容構成力への自信のなさ(α=.82)」,「因子2:行為への嫌悪(.77)」,「因子3:他者への意識の高さ(.89)」と命名した。
重回帰分析 因子分析によって得られた下位尺度ごとに,項目の平均値を算出して得点とした。ダミー変数として,性別(0:女性,1:男性)と学年(0:新入生,1:上級生)を用いた。Step1に性別と学年を説明変数として投入した後,Step2に各下位尺度を投入した。そして,苦手・得意意識を目的変数とする階層的重回帰分析を行った。その結果,Step1からStep2への変化量が有意であった(Table 1)。性別や学年は苦手・得意意識に影響を与えないことが示唆された。また,内容構成力への自信のなさや大勢の前で話すことへの嫌悪が強いほど,人前で話すことを苦手であると感じている一方,他者への意識が高いほど人前で話すことが得意だと感じていることがわかった。
学年による比較 新入生と上級生との間で,スピーチへの意識が異なるのかについて検討を行った。この際,性別が無回答であったデータを分析対象から除外した。因子1~因子3と苦手・得意意識の得点に対して,学年(新入生,上級生)と性別(男性,女性)の2要因分散分析を行った結果,苦手・得意意識と因子1の交互作用が有意であった。他の2因子は交互作用,主効果ともに有意ではなかった。その後の検定の結果,上級生の女性は新入生の女性や上級生の男性よりも,人前で話すことへの苦手意識が強く,内容構成力への自信のなさを特に強く感じていることがわかった。
調査対象の大学では,初年次教育の一環として全1年生が参加するスピーチコンテストを年に数回行うなど,同級生の良い発表を見聞きする機会が多くあった。そのため,特に女性は自分と優れた同級生とを比較し,かえってネガティブな意識を強めている可能性がある。この点についてはさらに検討が必要であろう。また,本調査では学年間の比較をおこなったが,1年間の取り組みの中での意識の変化についても検討すべきであろう。
文 献
吉澤英里 (2014). 青山学院大学教育人間科学部紀要, 5, 139-147.
大勢の人前で話すことへの苦手・得意意識に影響を与える要因について調査を行った。また,大学新入生と上級生との違いについても検討した。
方 法
調査対象者 環太平洋大学の新入生294名,上級生(2~4年生)149名が調査に協力した。
質問紙 質問項目は吉澤(2014)を基に,内容構成能力と他者への意識に関するものを計11項目用意した。はじめに「あなたは,大勢の人の前で話をすることになりました。その時のあなた自身に一番近いのはどれですか。」と教示した。そして,それぞれの質問項目について,「0:全くそう思わない」から「5:非常にそう思う」の6件法で回答を求めた。
さらに,人前で話すことに対する意識(苦手・得意意識)を測定した。「あなたは大勢の人の前で話をするのがどれくらい得意,あるいは苦手ですか? 他の人と比較をするのではなく,あなた自身の率直な気持ちを答えてください。」と教示し,「0:とても苦手」から「5:とても得意」の6件法で回答を求めた。
手続き 2017年4月上旬に講義の一部で実施した。調査者より調査の趣旨を説明し,調査協力に承諾する者のみ,質問紙へ回答するように依頼した。回答時間は約5分であった。
結果と考察
信頼性が著しく疑われるものや途中で回答が途切れているデータを分析対象から除外した。分析対象は新入生が287名(男性192名,女性94名,無回答1名,平均18.05歳,SD 0.28),上級生が134名(男性86名,女性46名,無回答2名,平均19.25歳,SD 0.54)であった。
因子分析 本調査にて作成した尺度の因子構造について調べるため,最尤法(プロマックス回転)による探索的因子分析を行った。固有値の推移から3因子(第1因子4.24,第2因子が1.61,第3因子が1.34)を採用した。負荷量の高い項目の内容を考慮し,「因子1:内容構成力への自信のなさ(α=.82)」,「因子2:行為への嫌悪(.77)」,「因子3:他者への意識の高さ(.89)」と命名した。
重回帰分析 因子分析によって得られた下位尺度ごとに,項目の平均値を算出して得点とした。ダミー変数として,性別(0:女性,1:男性)と学年(0:新入生,1:上級生)を用いた。Step1に性別と学年を説明変数として投入した後,Step2に各下位尺度を投入した。そして,苦手・得意意識を目的変数とする階層的重回帰分析を行った。その結果,Step1からStep2への変化量が有意であった(Table 1)。性別や学年は苦手・得意意識に影響を与えないことが示唆された。また,内容構成力への自信のなさや大勢の前で話すことへの嫌悪が強いほど,人前で話すことを苦手であると感じている一方,他者への意識が高いほど人前で話すことが得意だと感じていることがわかった。
学年による比較 新入生と上級生との間で,スピーチへの意識が異なるのかについて検討を行った。この際,性別が無回答であったデータを分析対象から除外した。因子1~因子3と苦手・得意意識の得点に対して,学年(新入生,上級生)と性別(男性,女性)の2要因分散分析を行った結果,苦手・得意意識と因子1の交互作用が有意であった。他の2因子は交互作用,主効果ともに有意ではなかった。その後の検定の結果,上級生の女性は新入生の女性や上級生の男性よりも,人前で話すことへの苦手意識が強く,内容構成力への自信のなさを特に強く感じていることがわかった。
調査対象の大学では,初年次教育の一環として全1年生が参加するスピーチコンテストを年に数回行うなど,同級生の良い発表を見聞きする機会が多くあった。そのため,特に女性は自分と優れた同級生とを比較し,かえってネガティブな意識を強めている可能性がある。この点についてはさらに検討が必要であろう。また,本調査では学年間の比較をおこなったが,1年間の取り組みの中での意識の変化についても検討すべきであろう。
文 献
吉澤英里 (2014). 青山学院大学教育人間科学部紀要, 5, 139-147.