日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PE(01-80)

ポスター発表 PE(01-80)

2017年10月8日(日) 13:30 〜 15:30 白鳥ホールB (4号館1階)

13:30 〜 15:30

[PE43] マルチレベル分析によるアクティブ・ラーニング型授業の効果測定(4)

アサーションスキルおよびグループワーク活動が成績に及ぼす影響

高比良美詠子1, 杉本英晴2, 佐藤友美3 (1.立正大学, 2.駿河台大学, 3.九州工業大学)

キーワード:アクティブ・ラーニング, アサーションスキル, マルチレベル分析

 アクティブ・ラーニングとは,「教員による一方向的な講義形式の教育とは異なり,学修者の能動的な学修への参加を取り入れた教授・学修法の総称」であり(中央教育審議会, 2012),グループワーク等の形態を取ることが多い。そして,このような授業で育成される能力としては,汎用的技能・態度および,それを支える能力が想定されている(溝上, 2014)。そこで,高比良他 (2016)は,大学の専門科目内で行われているグループワーク活動から汎用的能力の1つであるアサーションスキルへの影響を検討した。その結果,発言活動が多い学生ほど自己志向のスキル(自己主張・自己統制)が伸び,協同活動が多い学生ほど他者志向のスキル(他者尊重)が伸びていた。
 しかし,アクティブ・ラーニングが大学の専門科目の中で実施されている以上,汎用的能力への影響に加え,アクティブ・ラーニングの実施が当該科目の成績(専門知識の定着と活用)に及ぼす影響についても併せて検討する必要がある。そこで本稿では,授業内の2種類のグループワーク活動が当該科目の成績に及ぼす影響を,個人レベルと集団レベルの効果を分離できるマルチレベル構造方程式モデリングによって検討する。また,グループメンバーが事前に持っているアサーションスキルの程度が成績に及ぼす影響についても併せて検討する。
方   法
 調査対象者 4年制大学のアクティブ・ラーニング型授業を履修した185名(女性66名,男性119名)。対象となった授業は1年次の必修科目であり,心理尺度の作成,信頼性・妥当性の確認,論文の執筆が授業の到達目標だった。全15回(1回2コマ)のグループワークを,5~8名の固定メンバーから成る30グループ (2014年度14グループ,2015年度16グループ)で行った。
 質問紙 (1)グループワーク活動:Bonwell & Eison (1991) ,関田・安永(2005)等を参考に,グループワーク内で「発言活動」(例,「相手が話していることの要点を的確に理解してその要点に対して発言する」「正解か否かを気にせずに発言する」) や,「協同活動」(例,「グループで責任を持つ」「あらゆる適切な情報や考え方は共有する」)ができたかを測定する11項目を作成・使用。(2)アサーションスキル:金子他(2010)のアサーション行動尺度を使用。(3)成績:専門知識の定着と活用を測るために,個人で執筆した論文の内容および授業参加度を100点満点で評定したものを使用。
 手続き (1)は第2~14回授業終了時に毎回測定,(2)は第1回授業開始前(事前)に測定した。(3)は第1~15回の授業参加度と,第15回授業の1週間後に提出された論文の内容に基づき担当教員が評定した。
結果と考察
 授業内グループワーク活動と事前のアサーションスキルの各因子(自己主張,他者尊重,客観的自己統制,説得交渉)得点が成績に及ぼす影響を検討するために,Figure1の分析モデルを使用した。グループワーク活動得点には13回分の平均値を用い,級内相関係数はそれぞれ.09と.21だった。説明変数は全体平均による中心化を行った。
 集団レベルのパス(a)では,自己主張から有意な効果がみられ,事前のスキル得点が高いグループほど成績がよかった。パス(b)と(c)では,事前の自己主張あるいは他者尊重得点を統制したときに有意な効果がみられ,発言が活発なグループほど成績が悪く,協同が活発なグループほど成績がよかった。このことから,グループ内の発言数が多くても,共有が行われない場合は,グループ全体の成績の向上には繫がりにくいことが示唆された。
 個人レベルのパス(g)については,いずれのスキル得点を統制した場合にも有意な効果がみられ,発言が活発な学生ほど成績がよかった。パス(f) (h)については有意なパスはみられなかった。このことから,個人成績の向上には,グループワークで積極的に発言するなど,コミットメントの高さが関与している可能性が示唆された。
 グループ環境が個人レベルのパスに及ぼす影響を検討したパス(d)( e)では,事前の自己主張あるいは他者尊重得点をモデルに含めたときに有意な効果がみられた。自己主張が成績に及ぼす負の効果(パスf)は,発言が活発なグループと協同が不活発なグループで強まった。一方,他者尊重が成績に及ぼす負の効果(パスf)は,発言が不活発なグループと協同が活発なグループで強まった。以上から,個人の事前スキルによって,学修を促進・抑制するグループ環境が異なることが示唆された。