13:30 〜 15:30
[PE66] 発達障害児のニーズに適した学習のつまずきチェックリストの構成の検討
キーワード:発達障害, 学習のつまずき, チェックリスト
はじめに
発達障害のある子どもは,読解や作文の課題で著しい困難を示すことがある。つまずきの背景には,しばしば単語の認識や書字のような学習の基礎となる力の未習得が影響している。ところが,単語の認識や書字は比較的良好にもかかわらず,読解や作文の課題でつまずいてしまう子どももいる。他方,既存の学習アセスメント―特に簡易なチェックリスト―では,読解や作文のような課題を分けずに「読む」や「書く」の領域を全体として評価するものが少なくない。このようなチェックリストでは,アンバランスさが顕著な場合,読解や作文等のニーズが見落とされてしまう可能性がある。そこで,本研究では,このことを確かめるために,文部科学省(2012)「通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査」の6領域(「読む」「書く」「聞く」「話す」「計算」「推論」)と,海津(2007)の「学習領域スキル別つまずきリスト」のうち「文章の内容を理解する」の項目と,「文章を書く」の項目をそれぞれ「読解」,「作文」の領域として,各指標の違いを明らかにし,発達障害のある子どものニーズにより適した学習のつまずきチェックリストの構成について検討を行った。
方 法
1)調査対象 小学校の通常の学級担任321名(通常群),発達障害・情緒障害対象通級の担当教員132名(通級群)。2)手続き 某自治体の発達障害・情緒障害対象通級のあるすべての小・中学校に調査を依頼した(回収率約72%)。なお,調査は事前に個人情報の保護など倫理面の配慮に関して所属機関倫理委員会の審査を受けた。
結果・考察
まず通常群と通級群で別々に各指標間の相関を検討した。両群とも各指標間に有意な中程度以上の相関があったが,通級群の相関がより弱いことがわかった。
次に「読む」と「読解」,「書く」と「作文」,「計算」と「推論」の3つの基礎と応用のペアで,その側面の差がより大きい児童の割合(1.5SD以上)を算出した。通常群では,いずれのペアでも1%未満の児童しか基準に該当しなかったが,通級群は4.7-9.0%が該当した。中でも応用面のつまずきが相対的に大きい場合が多く,ASD群(12.5-16.7%)でその傾向が強いことがわかった。
最後に通級群の下位群別に標準得点(平均50,1SD 10)の平均値を比較した。ADHDやLD群は,いずれの得点も60点以上で,全体的につまずきが大きい一方でASD群では,「読む」などの基礎面は通常群と差がなく,「読解」などの応用面は,他群と同じく高い得点を示した(基礎vs 応用 p < .05)。
以上より,発達障害のある児童について次の3つのことが示唆された:(a)他児童と同様,学習の各側面は相互につながりがあり,基礎は応用の側面に影響を及ぼしている,(b)学習の基礎と応用の間に顕著な差が認められるケースが多く,特にASDでその傾向が強い,(c)学習のアンバランスさは,基礎の一側面だけの評価では十分に把握できない可能性がある。
文部科学省(2012)のような簡易なチェックリストは,学校現場で活用しやすく,子どものニーズを一度に素早く把握できるというメリットがある。しかし,そうしたアセスメントは,学習の基礎と応用の側面の違い―発達障害のある子どもが示すアンバランスさ―を的確に把握できない可能性があることに留意する必要があると考えられる。
本研究はJSPS科研費 課題番号26381351の助成を受けて実施した。
発達障害のある子どもは,読解や作文の課題で著しい困難を示すことがある。つまずきの背景には,しばしば単語の認識や書字のような学習の基礎となる力の未習得が影響している。ところが,単語の認識や書字は比較的良好にもかかわらず,読解や作文の課題でつまずいてしまう子どももいる。他方,既存の学習アセスメント―特に簡易なチェックリスト―では,読解や作文のような課題を分けずに「読む」や「書く」の領域を全体として評価するものが少なくない。このようなチェックリストでは,アンバランスさが顕著な場合,読解や作文等のニーズが見落とされてしまう可能性がある。そこで,本研究では,このことを確かめるために,文部科学省(2012)「通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査」の6領域(「読む」「書く」「聞く」「話す」「計算」「推論」)と,海津(2007)の「学習領域スキル別つまずきリスト」のうち「文章の内容を理解する」の項目と,「文章を書く」の項目をそれぞれ「読解」,「作文」の領域として,各指標の違いを明らかにし,発達障害のある子どものニーズにより適した学習のつまずきチェックリストの構成について検討を行った。
方 法
1)調査対象 小学校の通常の学級担任321名(通常群),発達障害・情緒障害対象通級の担当教員132名(通級群)。2)手続き 某自治体の発達障害・情緒障害対象通級のあるすべての小・中学校に調査を依頼した(回収率約72%)。なお,調査は事前に個人情報の保護など倫理面の配慮に関して所属機関倫理委員会の審査を受けた。
結果・考察
まず通常群と通級群で別々に各指標間の相関を検討した。両群とも各指標間に有意な中程度以上の相関があったが,通級群の相関がより弱いことがわかった。
次に「読む」と「読解」,「書く」と「作文」,「計算」と「推論」の3つの基礎と応用のペアで,その側面の差がより大きい児童の割合(1.5SD以上)を算出した。通常群では,いずれのペアでも1%未満の児童しか基準に該当しなかったが,通級群は4.7-9.0%が該当した。中でも応用面のつまずきが相対的に大きい場合が多く,ASD群(12.5-16.7%)でその傾向が強いことがわかった。
最後に通級群の下位群別に標準得点(平均50,1SD 10)の平均値を比較した。ADHDやLD群は,いずれの得点も60点以上で,全体的につまずきが大きい一方でASD群では,「読む」などの基礎面は通常群と差がなく,「読解」などの応用面は,他群と同じく高い得点を示した(基礎vs 応用 p < .05)。
以上より,発達障害のある児童について次の3つのことが示唆された:(a)他児童と同様,学習の各側面は相互につながりがあり,基礎は応用の側面に影響を及ぼしている,(b)学習の基礎と応用の間に顕著な差が認められるケースが多く,特にASDでその傾向が強い,(c)学習のアンバランスさは,基礎の一側面だけの評価では十分に把握できない可能性がある。
文部科学省(2012)のような簡易なチェックリストは,学校現場で活用しやすく,子どものニーズを一度に素早く把握できるというメリットがある。しかし,そうしたアセスメントは,学習の基礎と応用の側面の違い―発達障害のある子どもが示すアンバランスさ―を的確に把握できない可能性があることに留意する必要があると考えられる。
本研究はJSPS科研費 課題番号26381351の助成を受けて実施した。