13:30 〜 15:30
[PE71] 感情への気づきを促す心理教育プログラムの試み
小学生を対象として
キーワード:感情, 児童版, 予防教育
問題と目的
暴力行為の発生件数は,中学校や高校では減少傾向にあるにもかかわらず,小学校だけが前年度より増加傾向にあり,その数も1万を超えていたことが示されている(文部科学省,2015)。現場からも,対人場面における葛藤を適切に処理できない児童の存在を訴える報告が多々寄せられている。ゆえに,小学校における暴力行為の発生を未然に防ぐための介入や施策が強く求められている。この問題の背景には,怒りやストレスを適切にコントロールできない“感情制御の困難さ”が根底にあるとの指摘がある。すなわち,自身の感情がどのような状態にあるのかを十分に理解できないために,怒りに動機づけられて攻撃行動が生起されるという可能性や(Fahy & Eisler, 1993),感情を適切に言語化する力が不十分であるために,攻撃的な言動・行動という形でしか表出できないというプロセス(元永,2015)が存在していると考えられる。こうした現状を踏まえ,これまで様々な予防教育が行われてきているものの,それらの教育には感情への気づきとその表現力を結び付けるためのプログラムは組まれていない。
したがって本研究では,感情への気づきを深める要素を加味した心理教育を導入するとともに,これらの要素と対応する表現力を育成するための教育プログラムを考案し,その効果を検証した。
方 法
対象者:小学5,6年生92名を対象に実施された。平均年齢は10.94歳(SD=0.73)であった。そのうち,授業を受ける群(授業実践群)が76名,受けない群(統制群)が16名であった。
手続き:本プログラムは3段階から成る。具体的には,感情への気づきを深める要素(1感情に伴う身体の変化への注意,2感情のイメージ,3感情の強度への注意)を促しつつ,これらの要素と対応する言語表現を教授した。第1段階の授業1週間前に所定の質問紙(自己洞察・他者の感情理解に関わる項目,身体の変化・比喩表現・程度を表す副詞に関する語彙力の項目)に回答を求めた。第1段階の授業が実施されると,その1ヵ月後に第2段階,2ヵ月後に第3段階が実施された。さらに第3段階から2週間後にも所定の質問紙に回答を求めた。
測定尺度:感情への気づきに関する質問項目として,児童用情動知能尺度(皆川他,2010)の下位尺度である「自己洞察」3項目を使用した。また他者の感情理解を測定する項目として,児童用多次元共感性尺度(長谷川他,2009)を参考に4項目を作成した。さらに,語彙の習得度を測定するために,深谷・金田(2014)を参考に国語を専門とする教員との議論を重ねて,身体の変化・比喩表現・程度を表す副詞に関する語彙テスト全32問を作成した。
結 果
自己洞察を目的変数として,群(授業実践群,統制群)×測定時期(授業前,授業2週間後)の2要因混合計画に基づく分散分析を行った結果,交互作用が有意であることが認められた(F(1,90)=3.93,p<.05)。群ごとに測定時期の単純主効果検定を行ったところ,授業実践群において有意であり(F(1,90)=46.59,p<.01),授業前と比べて授業後(2週間後)に有意に上昇していることが示された。また,他者の感情理解においても同様に分析を行ったところ,交互作用が有意であることが認められた(F(1,90)=5.86,p<.05)。群ごとに測定時期の単純主効果検定を行ったところ,授業実践群において有意であり(F(1,90)=10.75,p<.01),授業前に比べて授業後に得点が有意に上昇していることが示された。
さらに,語彙の習得度に関連する比喩表現においても交互作用が認められた(F(1,90)=35.50,p<.01)。群ごとに測定時期の単純主効果検定を行ったところ,授業実践群において有意であり(F(1,90)=285.81,p<.01),授業前と比べて授業後に有意に上昇していた。なお,身体の変化および程度を表す副詞に関しても同様の結果が認められた。
考察とまとめ
本プログラムを受講した児童は,受講しない児童に比べると,受講2週間後に「自己洞察」および「他者の感情理解」が促進される可能性が明らかとなった。同時に,感情への気づきを表す語彙習得度も高まる可能性が示された。
今後は,本プログラム効果がどの程度持続するかに関しても検討を行う必要がある。また,授業実践者によらず,一定の効果を確保できるか否かについても慎重に検討を進めていく必要がある。
暴力行為の発生件数は,中学校や高校では減少傾向にあるにもかかわらず,小学校だけが前年度より増加傾向にあり,その数も1万を超えていたことが示されている(文部科学省,2015)。現場からも,対人場面における葛藤を適切に処理できない児童の存在を訴える報告が多々寄せられている。ゆえに,小学校における暴力行為の発生を未然に防ぐための介入や施策が強く求められている。この問題の背景には,怒りやストレスを適切にコントロールできない“感情制御の困難さ”が根底にあるとの指摘がある。すなわち,自身の感情がどのような状態にあるのかを十分に理解できないために,怒りに動機づけられて攻撃行動が生起されるという可能性や(Fahy & Eisler, 1993),感情を適切に言語化する力が不十分であるために,攻撃的な言動・行動という形でしか表出できないというプロセス(元永,2015)が存在していると考えられる。こうした現状を踏まえ,これまで様々な予防教育が行われてきているものの,それらの教育には感情への気づきとその表現力を結び付けるためのプログラムは組まれていない。
したがって本研究では,感情への気づきを深める要素を加味した心理教育を導入するとともに,これらの要素と対応する表現力を育成するための教育プログラムを考案し,その効果を検証した。
方 法
対象者:小学5,6年生92名を対象に実施された。平均年齢は10.94歳(SD=0.73)であった。そのうち,授業を受ける群(授業実践群)が76名,受けない群(統制群)が16名であった。
手続き:本プログラムは3段階から成る。具体的には,感情への気づきを深める要素(1感情に伴う身体の変化への注意,2感情のイメージ,3感情の強度への注意)を促しつつ,これらの要素と対応する言語表現を教授した。第1段階の授業1週間前に所定の質問紙(自己洞察・他者の感情理解に関わる項目,身体の変化・比喩表現・程度を表す副詞に関する語彙力の項目)に回答を求めた。第1段階の授業が実施されると,その1ヵ月後に第2段階,2ヵ月後に第3段階が実施された。さらに第3段階から2週間後にも所定の質問紙に回答を求めた。
測定尺度:感情への気づきに関する質問項目として,児童用情動知能尺度(皆川他,2010)の下位尺度である「自己洞察」3項目を使用した。また他者の感情理解を測定する項目として,児童用多次元共感性尺度(長谷川他,2009)を参考に4項目を作成した。さらに,語彙の習得度を測定するために,深谷・金田(2014)を参考に国語を専門とする教員との議論を重ねて,身体の変化・比喩表現・程度を表す副詞に関する語彙テスト全32問を作成した。
結 果
自己洞察を目的変数として,群(授業実践群,統制群)×測定時期(授業前,授業2週間後)の2要因混合計画に基づく分散分析を行った結果,交互作用が有意であることが認められた(F(1,90)=3.93,p<.05)。群ごとに測定時期の単純主効果検定を行ったところ,授業実践群において有意であり(F(1,90)=46.59,p<.01),授業前と比べて授業後(2週間後)に有意に上昇していることが示された。また,他者の感情理解においても同様に分析を行ったところ,交互作用が有意であることが認められた(F(1,90)=5.86,p<.05)。群ごとに測定時期の単純主効果検定を行ったところ,授業実践群において有意であり(F(1,90)=10.75,p<.01),授業前に比べて授業後に得点が有意に上昇していることが示された。
さらに,語彙の習得度に関連する比喩表現においても交互作用が認められた(F(1,90)=35.50,p<.01)。群ごとに測定時期の単純主効果検定を行ったところ,授業実践群において有意であり(F(1,90)=285.81,p<.01),授業前と比べて授業後に有意に上昇していた。なお,身体の変化および程度を表す副詞に関しても同様の結果が認められた。
考察とまとめ
本プログラムを受講した児童は,受講しない児童に比べると,受講2週間後に「自己洞察」および「他者の感情理解」が促進される可能性が明らかとなった。同時に,感情への気づきを表す語彙習得度も高まる可能性が示された。
今後は,本プログラム効果がどの程度持続するかに関しても検討を行う必要がある。また,授業実践者によらず,一定の効果を確保できるか否かについても慎重に検討を進めていく必要がある。