The 59th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

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ポスター発表 PE(01-80)

ポスター発表 PE(01-80)

Sun. Oct 8, 2017 1:30 PM - 3:30 PM 白鳥ホールB (4号館1階)

1:30 PM - 3:30 PM

[PE75] 子どもは校内の好きな場所にどのような価値を見出しているか?

小学1年生対象の質問紙調査の試み

杉本貴代1, 秋田喜代美2, 辻谷真知子3, 宮田まり子#4 (1.愛知大学, 2.東京大学, 3.東京大学大学院, 4.白梅学園大学)

Keywords:課題価値測定尺度, 小学生, 好きな場所

問題と目的
 子どもは学校での遊びや学びをどのように捉えているだろうか。学業(課題)に対する生徒の価値づけの質的側面の測定を目的として開発された「課題価値測定尺度(伊田, 2001・2011)」を幼児の遊び観研究に応用した調査から,幼児も保育施設内の好きな遊び場での好きな活動に対して独自に価値づけをしており,子どもの主体的な学びにつながることが指摘されている(Sugimoto et al.,2017)。また,同尺度を活用した質問紙調査(5件法に改変)から,小学3~6年生(約4,200名)の遊びに対する課題価値評価傾向における学年差や男女差が指摘されている(Sugimoto et al., 2015)。しかしながら,低学年児童については報告されていない。そこで本予備調査では,小学1年生が校内のどのような場所を好み,そこでの活動にどのような価値を見出しているか検討した。
方   法
 本研究は小学1年生(31名,うち女子15名)を対象とすることから,乳幼児研究で広く用いられるモザイク・アプローチ(Clark & Moss, 2001; 宮本他, 2017)を参考に,質問紙法(自由記述形式)と写真投影法を採用した。調査は,2017年3月に東京都内の小学校1校1クラスの協力を得て実施された。児童は,校内の好きな場所に関する質問紙(場所・理由・活動内容)に回答した後,各自が回答した場所をデジタル・カメラで撮影した(各15分)。
結   果
 単純集計の結果,小学1年生31名が好きな場所は合計28箇所,一人あたり平均8.2箇所(SD: 1.79, 範囲:3-11)であった (Table 1)。
〔分析1〕記述回答を定量化するために形態素解析をした結果,体育館,図書室,音楽室,校舎の屋上,プールにおいて「いっぱい/たくさん」「色々な」「できる」といった表現が多く抽出された(28箇所中41-71トークン)ことから,豊富な選択肢があり自由な場所が好まれることが示唆された。
〔分析2〕 課題価値測定尺度の5つの課題価値概念(興味価値,私的獲得価値,公的獲得価値,実践的利用価値,制度的利用価値)を二値化して,子どもの価値づけを分類・得点化した。結果,子どもは全員好きな場所における好きな活動に興味価値,私的獲得価値,公的獲得価値のいずれかを付与していた。そこで課題得点を従属変数とし,課題価値(3)×性別(2)の2要因分散分析を行なった。結果,課題価値と性別の主効果がそれぞれ有意であったが[F(2,28)=72.378, p=.001,η2=.838);F(1,29)=4.343,p=.046,η2=.130)],交互作用は見られず(p=.389),男女間で3つの課題価値の得点パターンに差はなかった(女子>男子; 興味>私的獲得≒公的獲得)。3つの課題価値得点は女子が男子よりも高く,私的獲得価値において平均値差が有意となった(Figure 1)。場所ごとの価値づけのパターンについては,男女差が顕著であったのは,プール,鉄棒等の比較的個人の自由が認められる場所で,男子は遊びの要素(興味価値)や集団内の競争の要素(公的獲得価値)を,女子はスキル向上等(私的獲得価値)を評価するためと考えられる(Table 1)。また,個々の事例として,A児は授業で使う英語ルームについて「お話を読むから楽しい」と回答した。同児は図書室も「読書が面白いから」好きだと回答しており,読書への興味価値が英語ルームで英語の話を聴くことへの興味価値に発展(転移)した可能性が考えられる。
結   論
 本研究は少数調査であり一般化は難しいが,小1児童は校内の好きな空間に興味価値だけでなく私的獲得価値や公的獲得価値も見出すことや,個人差が顕著となる場所もあることが分かった。今後は,学校生活における個人の価値づけの変容とその影響を発達の連続性や教育的配慮との関連から詳細に検討していく必要がある。
付   記
 本研究は東京大学大学院教育学研究科附属発達保育実践政策学センターのSEEDS研究プロジェクトの一環である。同プロジェクト・メンバーの石田佳織氏と宮本雄太氏には,本研究に関して貴重な助言をいただいた。御礼申し上げる。