1:30 PM - 3:30 PM
[PE76] 小学校におけるソーシャルスキル教育を中心とした心理教育の縦断実践研究(8)
小学校でSSEを受けた児童の中学校入学後における学校適応状況の検討
Keywords:小中連携, ソーシャルスキル教育, 縦断研究
問題と目的
文部科学省(2015)の調査はいじめや不登校といった問題が中学校で顕在化することを明らかにしている。国立教育政策研究所(2014)はこの問題について,小中連携の重要性と小学校から予防教育に取り組む必要性を唱えている。筆者らはH26,27年の2年間にわたり,公立小学校1校(以下,A小)において,ソーシャルスキル教育を中心技法とする〝こころの教育〟を実践した。その目的は,児童のソーシャルスキルの獲得と自己肯定感や学校適応感などの肯定的感情を育成し,中1ギャップの予防につなげることである。具体的内容は,H26年度の1学期にあいさつ,聴き方&話し方,感謝の3つのソーシャルスキルを取り上げ,2学期以降は感情スキルを取り上げた。本研究の理論的背景は学校適応アセスメントのための三水準モデル(大対・大竹・松見, 2007)である。
本研究の目的は,A小においてSSEに参加した子どもが,同地区の公立B中学校(以下,B中)へ進学後において,他小学校出身の子どもと比較して,学校生活における適応状況が望ましい状況にあるのかを検証することである。
方 法
対象生徒:B中のH27年度の入学者とH28年度の入学者であった。
H27年度の入学者:在籍数は98名であり,A小出身者10名を実験群,他小出身者88名を統制群とした。翌年,彼らが2年生に進級した時点の在籍数は101名であり,A小出身者10名,他小学校出身者91名であった。彼らはH26年度の1年間,A小にてSSEに参加していた。
H28年度の入学者:入学時の在籍数は95名であり,A小出身者10名を実験群,他小出身者85名を統制群とした。彼らはH26,27年の2年間,A小にてSSEに参加していた。
調査の時期と方法:H27年7月(第1回),H28年3月(第2回)と10月(第3回)の計3回アンケート調査を行った。調査はクラス毎に行われた。担任教師が回答方法を教示し,配布と回収を行った。
調査項目:SSEの目標スキルであるあいさつスキル,聴き方・話し方スキル,感謝スキルを測定する尺度(筆者らが作成),嶋田(1996)の児童用ソーシャルスキル尺度の攻撃性,向社会性,引っ込み思案の3つの因子,桜井(1992)の児童用コンピテンス尺度の学習,運動,社会,自己価値の4つの因子,藤枝・相川(2014)の児童用ソーシャルサポート尺度,A小の校長が指定した自己肯定感を測定する項目,三島(2006)の児童用学校適応感尺度であった。回答は「4:はい」「3:どちらかといえばはい」「2:どちらかといえばいいえ」「4:いいえ」の4件法を採用した。
結果と考察
H27年度の入学者:3回の調査全てに回答した生徒82名(実験群9名,統制群73名)を分析対象とした。各調査項目について回数(3水準)×出身校(2水準)の混合分散分析を行ったが,いずれも交互作用,主効果共に見られなかった。実験群の被験者数が9名と少ないことを考慮し,群毎に各調査項目について3回の平均値間に差があるかを検討するために被験者内一要因分散分析を行った。統制群のあいさつスキルにおいて有意傾向差があり(F(2, 144)=2.70, p<.10),第3回<第1回であった(p<.10)。また,児童用コンピテンス尺度の運動因子において有意差が見られ(F(2, 144)=7.83, p<.01),第2回と第3回<第1回であった(p<.01)。自己価値因子においても有意差があり(F(2, 144)=3.11, p<.05),第3回<第1回であった(p<.10)。他方,実験群においては得点の有意な低下は起きていなかった。したがって,上記の3つに関しては,統制群の子どもの得点は時間の経過と共に低下していたが,SSEを受講した実験群の子どもは入学時の水準を維持していたと言える。あいさつは毎日行うべきことであり,人間関係づくりの基本である。横断研究から,児童期の子どもと比べて思春期の子どもの自己肯定感は低いことが明らかにされている(久芳ら, 2007)。それだけに,小学校におけるSSEの実施が中学校入学後の学校適応に望ましい影響を与え得ることを実証した点は本研究の成果と言える。
H28年度の入学者:分析対象は76名(実験群10名,統制群66名)であった。H28年10月時点における各変数の平均得点についてt検定による群間比較を行った。児童用ソーシャルスキル尺度の攻撃性に関して有意傾向差が見られ(t(74)=1.92, p<.10),実験群が統制群よりも攻撃的ではなかった。引っ込み思案に関しても有意差があり(t(74)=3.1<.01),実験群が統制群よりも引っ込み思案であった。つまり,実験群の生徒は統制群よりも,穏やか(控えめ)な学校生活を送っていると言える。
文部科学省(2015)の調査はいじめや不登校といった問題が中学校で顕在化することを明らかにしている。国立教育政策研究所(2014)はこの問題について,小中連携の重要性と小学校から予防教育に取り組む必要性を唱えている。筆者らはH26,27年の2年間にわたり,公立小学校1校(以下,A小)において,ソーシャルスキル教育を中心技法とする〝こころの教育〟を実践した。その目的は,児童のソーシャルスキルの獲得と自己肯定感や学校適応感などの肯定的感情を育成し,中1ギャップの予防につなげることである。具体的内容は,H26年度の1学期にあいさつ,聴き方&話し方,感謝の3つのソーシャルスキルを取り上げ,2学期以降は感情スキルを取り上げた。本研究の理論的背景は学校適応アセスメントのための三水準モデル(大対・大竹・松見, 2007)である。
本研究の目的は,A小においてSSEに参加した子どもが,同地区の公立B中学校(以下,B中)へ進学後において,他小学校出身の子どもと比較して,学校生活における適応状況が望ましい状況にあるのかを検証することである。
方 法
対象生徒:B中のH27年度の入学者とH28年度の入学者であった。
H27年度の入学者:在籍数は98名であり,A小出身者10名を実験群,他小出身者88名を統制群とした。翌年,彼らが2年生に進級した時点の在籍数は101名であり,A小出身者10名,他小学校出身者91名であった。彼らはH26年度の1年間,A小にてSSEに参加していた。
H28年度の入学者:入学時の在籍数は95名であり,A小出身者10名を実験群,他小出身者85名を統制群とした。彼らはH26,27年の2年間,A小にてSSEに参加していた。
調査の時期と方法:H27年7月(第1回),H28年3月(第2回)と10月(第3回)の計3回アンケート調査を行った。調査はクラス毎に行われた。担任教師が回答方法を教示し,配布と回収を行った。
調査項目:SSEの目標スキルであるあいさつスキル,聴き方・話し方スキル,感謝スキルを測定する尺度(筆者らが作成),嶋田(1996)の児童用ソーシャルスキル尺度の攻撃性,向社会性,引っ込み思案の3つの因子,桜井(1992)の児童用コンピテンス尺度の学習,運動,社会,自己価値の4つの因子,藤枝・相川(2014)の児童用ソーシャルサポート尺度,A小の校長が指定した自己肯定感を測定する項目,三島(2006)の児童用学校適応感尺度であった。回答は「4:はい」「3:どちらかといえばはい」「2:どちらかといえばいいえ」「4:いいえ」の4件法を採用した。
結果と考察
H27年度の入学者:3回の調査全てに回答した生徒82名(実験群9名,統制群73名)を分析対象とした。各調査項目について回数(3水準)×出身校(2水準)の混合分散分析を行ったが,いずれも交互作用,主効果共に見られなかった。実験群の被験者数が9名と少ないことを考慮し,群毎に各調査項目について3回の平均値間に差があるかを検討するために被験者内一要因分散分析を行った。統制群のあいさつスキルにおいて有意傾向差があり(F(2, 144)=2.70, p<.10),第3回<第1回であった(p<.10)。また,児童用コンピテンス尺度の運動因子において有意差が見られ(F(2, 144)=7.83, p<.01),第2回と第3回<第1回であった(p<.01)。自己価値因子においても有意差があり(F(2, 144)=3.11, p<.05),第3回<第1回であった(p<.10)。他方,実験群においては得点の有意な低下は起きていなかった。したがって,上記の3つに関しては,統制群の子どもの得点は時間の経過と共に低下していたが,SSEを受講した実験群の子どもは入学時の水準を維持していたと言える。あいさつは毎日行うべきことであり,人間関係づくりの基本である。横断研究から,児童期の子どもと比べて思春期の子どもの自己肯定感は低いことが明らかにされている(久芳ら, 2007)。それだけに,小学校におけるSSEの実施が中学校入学後の学校適応に望ましい影響を与え得ることを実証した点は本研究の成果と言える。
H28年度の入学者:分析対象は76名(実験群10名,統制群66名)であった。H28年10月時点における各変数の平均得点についてt検定による群間比較を行った。児童用ソーシャルスキル尺度の攻撃性に関して有意傾向差が見られ(t(74)=1.92, p<.10),実験群が統制群よりも攻撃的ではなかった。引っ込み思案に関しても有意差があり(t(74)=3.1<.01),実験群が統制群よりも引っ込み思案であった。つまり,実験群の生徒は統制群よりも,穏やか(控えめ)な学校生活を送っていると言える。