日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PE(01-80)

ポスター発表 PE(01-80)

2017年10月8日(日) 13:30 〜 15:30 白鳥ホールB (4号館1階)

13:30 〜 15:30

[PE77] 小学校におけるソーシャルスキル教育を中心とした心理教育の縦断実践研究(9)

潜在曲線モデルによる学校適応に影響する要因の時間的変化の検討

増南太志1, 藤枝静暁2, 相川充3 (1.埼玉学園大学, 2.埼玉学園大学, 3.筑波大学)

キーワード:学校適応, 潜在曲線モデル, 三水準モデル

問題と目的
 文部科学省(2015)の調査はいじめや不登校といった問題が中学校で顕在化することを明らかにしている。国立教育政策研究所(2014)はこの問題について,小中連携の重要性と小学校から予防教育に取り組む必要性を唱えている。筆者らはH26,27年の2年間にわたり,公立小学校1校(以下,A小)において,ソーシャルスキル教育を中心技法とする〝こころの教育〟を実践した。その目的は,児童のソーシャルスキルの獲得と自己肯定感や学校適応感などの肯定的感情を育成し,中1ギャップの予防につなげることである。具体的内容は,H26年度の1学期にあいさつ,聴き方&話し方,感謝の3つのソーシャルスキルを取り上げ,2学期以降は感情スキルを取り上げた。本研究の理論的背景は学校適応アセスメントのための三水準モデル(大対・大竹・松見, 2007)である。
 本研究の目的は,学校適応に影響する要因の時間的変化の様相を潜在曲線モデルによってとらえることである。
方   法
対象生徒:関東の公立小学校1校,全学年2クラス編成で合計12クラス。1年生から6年生で5回の調査に参加した317名の生徒であった。なお,6年生10名については,H27年7月以降の調査を中学校で実施した。
調査の時期と方法:H26年5月,H26年12月,H27年3月,H27年7月,H28年3月の5回のアンケート調査について分析を行った。調査はクラス毎に行われた。担任教師が回答方法を教示し,配布と回収を行った。
調査項目:児童用コンピテンス尺度(学習,運動,社会,自己価値),ソーシャルスキル教育尺度(感謝,聞く話す,あいさつ),ソーシャルサポート尺度,学校適応感尺度,ソーシャルスキル尺度(攻撃性,向社会性,引っ込み思案),自己肯定感を調べるための項目を実施した。回答は「4:はい」「3:どちらかといえばはい」「2:どちらかといえばいいえ」「4:いいえ」の4件法を採用した。
適合度の基準と欠損値処理:潜在曲線モデルによる検証を行うにあたり,χ2値が小さく, RMSEAが0.08以下, GFIが0.9以上, CFIが0.9以上の場合に, モデルとデータの適合が良いと判断した。また,欠損値の処理には,完全情報最尤法を用いた。
結   果
 調査項目ごとに,潜在曲線モデルへの当てはめを行った結果,適合度の基準を満たした項目は,自己肯定感とあいさつスキルであった。また,RMSEAが0.1未満であり,基準を満たしていなかったものの,他の適合度については基準を満たしていた項目は,自己価値,感謝スキル,学校適応感であった。各項目に対する適合度と潜在曲線モデルの母数をTable 1に示した。
自己価値:切片の結果より,初期値が19.826であり,個人差(分散)もあった。傾きの結果より,測定ごとの変化には個人差(分散)がみられた。
自己肯定:初期値が3.006であるが,個人差もあった。測定ごとの変化は個人差が大きかった。
感謝:初期値が13.774であり,個人差もあった。測定ごとの変化は,有意傾向ではあるものの,0.064ずつの上昇がみられた。
あいさつ:初期値が13.809であるが,個人差もあった。測定ごとの変化は,0.167ずつ下がる傾向がみられたが,個人差もあった。切片と傾きの共分散は有意傾向ではあったが,初期値が大きいほど,測定ごとの変化が下がる傾向であった。
学校適応:初期値が11.923であるが,個人差もあった。測定ごとの変化は,0.157ずつ下がる傾向がみられたが,個人差もあった。
考   察
 適合度の良かった自己肯定とあいさつスキルについては,切片・傾きともに個人差が大きかった。あいさつスキルは下がる傾向であったが,切片と傾きの共分散の結果より,初期値が高さによって変化のしかたが変わることが考えられる。全般的に,切片の分散が有意であることから,調査開始期から初期値に個人差があるといえる。今後,開始期について群分けなどを行うことにより,時間的変化の傾向を明らかにしていく必要がある。