16:00 〜 18:00
[PF03] 思春期の注意欠如・多動傾向と情緒の問題に関する縦断研究
学校ライフイベント,自尊感情との関連
キーワード:注意欠如・多動傾向, 情緒の問題, 思春期
問題と目的
注意欠如・多動性障害(ADHD)の子どもは,環境との相互作用により,二次的な精神医学的併存症,すなわち二次障害に直面することが多い(齊藤・青木, 2010)。その一群として,気分障害や不安障害などの情緒に関連する障害が挙げられる(Ollendick et al., 2008)。一方,ADHDの症状は連続体として捉えられることが指摘されており(McLennan, 2016),医学的なADHDの診断に限らず,注意欠如・多動傾向が高い子どもについても,二次的な情緒の問題を抱えやすいことが想定される。本邦の子どもの注意欠如・多動傾向と情緒の問題との関連について,例えば,中学生の注意欠如・多動傾向が,学業や友人関係のライフイベント,自尊感情を媒介して情緒の問題へと関連するメカニズムが報告されているものの(齊藤, 2015),縦断的関連のメカニズムについては検討されていない。また,学校ライフイベントのうち,ポジティブイベントとネガティブイベントのそれぞれの効果については独立に検討されていない。そこで,本研究では,“子どもの注意欠如・多動傾向の高さが,学校でのポジティブイベントの少なさ,ネガティブイベントの多さと関連し,自尊感情の低さを媒介して,情緒の問題の高さへと関連する”という仮説について3時点の縦断データを用いて検討することとした。
方 法
調査対象者と手続き:子どもの養育環境に関する縦断研究に登録された家庭において,小学校5年生時(Time 1),小学校6年生時(Time 2),中学校1年生時(Time 3)の3時点のデータが揃った子ども202名とその母親202名の回答を分析の対象とした。2014年3月,2015年2月,2015年12月に,郵送により各質問紙の配付・回収を行った。
測定尺度:①注意欠如・多動傾向 ADHD Rating Scale日本語版(DuPaul et al., 1998, 市川・田中 監修, 2008)保護者評定版(18項目,4件法)。②学校ライフイベント ポジティブイベント5項目,ネガティブイベント4項目を作成(2件法)。③自尊感情 Kid-KINDLR questionnaire(Ravens-Sieberer & Bullinger, 1998)日本語版(柴田ら, 2003)のうち「自尊感情」の下位尺度(4項目,4件法)。④情緒の問題 Child Behavior CheckList(CBCL; Achenbach, 1991)4~18歳児・養育者評定版の日本語版(戸ヶ崎・坂野, 1998)のうち,不安・抑うつに関する下位尺度(14項目,3件法)。
結果と考察
性別を統制した上での各変数間の偏相関係数を求めたところ,Time 1の注意欠如・多動傾向の高さはTime 1のポジティブイベントの少なさおよびネガティブイベントの多さに関連を示し,これらのTime 1のイベントはTime 2の自尊感情の低さへと関連を示した。さらに,Time 2の自尊感情は,Time 3の情緒の問題との間に負の関連を示した。仮説モデルを検討するためのパス解析を行ったところ(Figure 1),良好なモデル適合度が示され,男女共に同一の有意なパスが確認された。
注意欠如・多動傾向が高い思春期の子どもにおける情緒の問題を予防,軽減するためには,学校におけるポジティブイベントの増加やネガティブイベントの減少につながるようや支援,また自尊感情を向上させるような取り組みが重要である可能性が示唆された。
注意欠如・多動性障害(ADHD)の子どもは,環境との相互作用により,二次的な精神医学的併存症,すなわち二次障害に直面することが多い(齊藤・青木, 2010)。その一群として,気分障害や不安障害などの情緒に関連する障害が挙げられる(Ollendick et al., 2008)。一方,ADHDの症状は連続体として捉えられることが指摘されており(McLennan, 2016),医学的なADHDの診断に限らず,注意欠如・多動傾向が高い子どもについても,二次的な情緒の問題を抱えやすいことが想定される。本邦の子どもの注意欠如・多動傾向と情緒の問題との関連について,例えば,中学生の注意欠如・多動傾向が,学業や友人関係のライフイベント,自尊感情を媒介して情緒の問題へと関連するメカニズムが報告されているものの(齊藤, 2015),縦断的関連のメカニズムについては検討されていない。また,学校ライフイベントのうち,ポジティブイベントとネガティブイベントのそれぞれの効果については独立に検討されていない。そこで,本研究では,“子どもの注意欠如・多動傾向の高さが,学校でのポジティブイベントの少なさ,ネガティブイベントの多さと関連し,自尊感情の低さを媒介して,情緒の問題の高さへと関連する”という仮説について3時点の縦断データを用いて検討することとした。
方 法
調査対象者と手続き:子どもの養育環境に関する縦断研究に登録された家庭において,小学校5年生時(Time 1),小学校6年生時(Time 2),中学校1年生時(Time 3)の3時点のデータが揃った子ども202名とその母親202名の回答を分析の対象とした。2014年3月,2015年2月,2015年12月に,郵送により各質問紙の配付・回収を行った。
測定尺度:①注意欠如・多動傾向 ADHD Rating Scale日本語版(DuPaul et al., 1998, 市川・田中 監修, 2008)保護者評定版(18項目,4件法)。②学校ライフイベント ポジティブイベント5項目,ネガティブイベント4項目を作成(2件法)。③自尊感情 Kid-KINDLR questionnaire(Ravens-Sieberer & Bullinger, 1998)日本語版(柴田ら, 2003)のうち「自尊感情」の下位尺度(4項目,4件法)。④情緒の問題 Child Behavior CheckList(CBCL; Achenbach, 1991)4~18歳児・養育者評定版の日本語版(戸ヶ崎・坂野, 1998)のうち,不安・抑うつに関する下位尺度(14項目,3件法)。
結果と考察
性別を統制した上での各変数間の偏相関係数を求めたところ,Time 1の注意欠如・多動傾向の高さはTime 1のポジティブイベントの少なさおよびネガティブイベントの多さに関連を示し,これらのTime 1のイベントはTime 2の自尊感情の低さへと関連を示した。さらに,Time 2の自尊感情は,Time 3の情緒の問題との間に負の関連を示した。仮説モデルを検討するためのパス解析を行ったところ(Figure 1),良好なモデル適合度が示され,男女共に同一の有意なパスが確認された。
注意欠如・多動傾向が高い思春期の子どもにおける情緒の問題を予防,軽減するためには,学校におけるポジティブイベントの増加やネガティブイベントの減少につながるようや支援,また自尊感情を向上させるような取り組みが重要である可能性が示唆された。