The 59th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

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ポスター発表 PF(01-81)

ポスター発表 PF(01-81)

Sun. Oct 8, 2017 4:00 PM - 6:00 PM 白鳥ホールB (4号館1階)

4:00 PM - 6:00 PM

[PF17] 数学の授業における教科書等の活用に関する教師の信念

中学校・高校の数学教師を対象としたインタビュー調査

福田麻莉 (東京大学大学院)

Keywords:教科書・参考書, 数学, 授業方略

問題と目的
 家庭学習を進める上で,「自力では解けない問題がある」というつまずきに直面することは少なくない。こうしたつまずきへの対処方略として,援助要請に関する研究が盛んに行われてきた(e.g., Newman, 1990)。しかしながら,家庭学習の場合,近くに援助者がいない場合がほとんどであると考えられる。そのため,教科書や参考書といった身の回りの外的リソースを活用し(Rouet, 2006),つまずきを乗り越える力を身につけさせることが学習者の自立を促す上で重要であるといえる。
 つまずき場面での教科書・参考書の利用に関して,福田(印刷中)は「授業中,教師がどの程度教科書を活用しているか」に対する生徒の認識が,教科書・参考書の利用行動に影響することを明らかにした。すなわち,家で教科書・参考書を見返させるためには,まず授業の中で教師が積極的に教科書を活用し,生徒にその内容を把握させることが重要であることが示唆された。しかしながら,日本における問題解決型の授業では,「教科書には答えが書いてある」という理由から,授業中に子ども達に教科書を使わせないという教師の存在が指摘されている(木村, 2013)。こうした教師の行動は,学習方略の獲得という観点からみると,望ましくない結果を生じさせる可能性がある。しかし,教師がなぜ授業中に教科書・参考書を活用ししないのかといった点に着目した実証研究は行われていない。授業改善を促す上では,こうした教師の信念を捉える必要があるだろう。以上より,本研究では,教科書の活用に関して教師が抱いている信念を明らかにすることを目的とし,数学の教師に対する調査を実施する。
方   法
 調査対象者 公立中学校の数学教師2名,公立高校の数学教師6名,計8名。
 手続き 授業の空き時間等を利用して,個別インタビュー(半構造化面接)を実施した。実施時間は1人あたり20〜30分であった。
 調査内容 インタビュー内容は次の4項目であった。(1)授業中,教科書・参考書の使用に関して意識していることはあるか,(2)教科書・参考書は先生にとってどのような道具か,(3)生徒にとってどのような道具であってほしいか,(4)教科書・参考書を使ってほしいと思うか。
結   果
 教科書・参考書の使用に関して意識していること 内容が似ている回答をまとめて分類した結果,教師8名のうち,4名の教師がそもそも教科書を使用しないと回答した。具体的には,「教科書の内容に準拠したプリントを作成しており,教科書を間接的に使っている」といった回答が得られた。また,使用している教師の回答として,「行間が読めない子が多いので,行間を読むことを意識している。」といった回答が得られた。
 教科書・参考書は先生にとってどのような道具か 得られた回答を分類した結果,「最低限の教えるべき内容が書かれているもの」といった,教授内容の指針として捉えている回答と,「あくまで一つの手段であり,必ずしも用いなくてはならないものではない」といった,教授ツールの選択肢のうちの一つとして捉えている回答が得られた。
 生徒にとってどのような道具であってほしいか 回答の傾向として,教科書を問題集として捉え,演習に使って欲しいという回答と,分からないことを確認するための道具と捉え,復習に使って欲しいという回答の2つに分類された。分からないことを確認するための道具と捉えている教師の具体的な回答として,「安心材料であってほしい。自分でわからなくなったときにもう一度確認してほしい。」といった発言が得られた。
 教科書・参考書を使ってほしいと思うか 得られた回答を分類した結果,4名の教師が「使ってほしいと思わない」と回答した。その理由として,「人それぞれだから」,「教科書ではなく,問題集で演習をしてほしい」,「部活に力を入れている学校であるため,レベル的にも難しい」といった回答が得られた。また,「使ってほしいと思わない」と回答した教師4名のうち3名が,(1)教科書・参考書の使用に関して意識していることにおいて,教科書をそもそも使用していないと回答していた。
考   察
 結果から,「家庭学習での使用を見越しているか否か」という点が,授業中の教科書・参考書の活用行動に影響を及ぼす可能性が示唆された。すなわち,授業で教科書・参考書を活用することの重要性を教師に伝える際には,まず家庭学習でのつまずき対処方略を獲得させることの重要性について,教師の理解を促すことが重要であると言える。