16:00 〜 18:00
[PF20] 自律的学修を高める授業実践の試み
自己理解を促進するアプローチから
キーワード:メタ認知, 自己概念, 変容可能性
問題と目的
自己に関連する情報について他者からフィードバックを受けた際に,その変容が生じうることが実証的に検討されている(下斗米,1988,1990)。このように,外部から新たな情報を得ることで,自己概念はある程度変容していくと考えられる。
本研究では,自己を多面的に捉えるための講義を通じて,受講者自身の認知や評価に変化が生じるか否かを探索的に検討する。
方法
参加者 大学生86名のうち,留学生2名を除く84名(男性45名,女性39名)を対象とした。
手続き 初回の講義時に,講義時間の一部を使用して,以下の尺度への回答を求めた(時点1)。(a)状態自尊心尺度(阿部・今野, 2007)9項目・5件法,(b)自己概念の明確性尺度(徳永・堀内, 2012)12項目・4件法(c)成人用メタ認知尺度(阿部・井田, 2010; モニタリング,コントロール,メタ認知的知識の3下位尺度から構成される)28項目・6件法,(d)Locus of Control尺度(鎌原・樋口・清水, 1982; 外的統制,内的統制の2下位尺度から構成される)18項目・4件法。その上で,初回を含めて合計9時間(週1回あたり3時間の講義を3週にわたって実施)の講義を行った。講義においては,論理的思考を育むためのトレーニングや,虚記憶の実験,選択的注意,基準値の誤り,潜在連合テストによる潜在的な特性の測定およびフィードバックなど,自己に対して多面的な情報が得られるよう工夫を行った。3回目の講義終了時に,上記(a)~(d)の尺度への回答を再度求めた(時点2)。なお,時点1,2の調査実施時に,調査への回答は任意であること,成績などへの影響はないこと,個人を特定する形での公表はしない旨を口頭及び文章にて説明し,データ収集に同意する者のみ回答を求めた。
結果と考察
各尺度について,逆転項目を処理した上で合算平均値を求め,各下位尺度得点とした。得点が高いほど,当該尺度名の傾向が強いことを示す。
本研究で使用した(a)~(d)の各尺度について,対応のあるt検定を用いて2時点の平均値を比較した。その結果,モニタリングおよびコントロール,内的統制に有意傾向もしくは有意な変化が見られ,各尺度の得点は上昇していた(Table1)。一方,それ以外の尺度得点については有意な変化は見られなかった。
本研究は,受講者に対して,自己を多面的に捉えることを促す講義を行うことで,心的な変化が生じるか否かを探索的に検討した。論理的思考のトレーニングから潜在連合テストを用いた特性の測定など,多岐にわたる方法を用いて講義を行った結果,モニタリング,コントロール,内的統制の3尺度においては,一定の変化が認められた。各尺度はそれぞれ,「意識的に立ち止まり,自分の理解を確認する」など(モニタリング),「初めて聞く情報や知識は,自分の言葉に置き換えてみる」など(コントロール),「あなたは,努力すれば,どんなことでも自分の力でできると思いますか」など(内的統制)の項目で構成されている。こうしたスキルや認知の上昇は,自己を多面的に理解することをめざした講義の成果とも考えられる。
しかしながら,本研究の参加者はいわば実験群のみであり,本研究で行った講義の成果と結論づけるためには,統制群を設定した比較検討も必要である。加えて,本研究の結果のみでは,講義で扱った複数のテーマのうち,スキルや認知の変容に対して,いずれが特に有効なのか,もしくは複数の組み合わせが有効であるかは判断できない。こうした点を考慮し,さらなる検討が必要である。
自己に関連する情報について他者からフィードバックを受けた際に,その変容が生じうることが実証的に検討されている(下斗米,1988,1990)。このように,外部から新たな情報を得ることで,自己概念はある程度変容していくと考えられる。
本研究では,自己を多面的に捉えるための講義を通じて,受講者自身の認知や評価に変化が生じるか否かを探索的に検討する。
方法
参加者 大学生86名のうち,留学生2名を除く84名(男性45名,女性39名)を対象とした。
手続き 初回の講義時に,講義時間の一部を使用して,以下の尺度への回答を求めた(時点1)。(a)状態自尊心尺度(阿部・今野, 2007)9項目・5件法,(b)自己概念の明確性尺度(徳永・堀内, 2012)12項目・4件法(c)成人用メタ認知尺度(阿部・井田, 2010; モニタリング,コントロール,メタ認知的知識の3下位尺度から構成される)28項目・6件法,(d)Locus of Control尺度(鎌原・樋口・清水, 1982; 外的統制,内的統制の2下位尺度から構成される)18項目・4件法。その上で,初回を含めて合計9時間(週1回あたり3時間の講義を3週にわたって実施)の講義を行った。講義においては,論理的思考を育むためのトレーニングや,虚記憶の実験,選択的注意,基準値の誤り,潜在連合テストによる潜在的な特性の測定およびフィードバックなど,自己に対して多面的な情報が得られるよう工夫を行った。3回目の講義終了時に,上記(a)~(d)の尺度への回答を再度求めた(時点2)。なお,時点1,2の調査実施時に,調査への回答は任意であること,成績などへの影響はないこと,個人を特定する形での公表はしない旨を口頭及び文章にて説明し,データ収集に同意する者のみ回答を求めた。
結果と考察
各尺度について,逆転項目を処理した上で合算平均値を求め,各下位尺度得点とした。得点が高いほど,当該尺度名の傾向が強いことを示す。
本研究で使用した(a)~(d)の各尺度について,対応のあるt検定を用いて2時点の平均値を比較した。その結果,モニタリングおよびコントロール,内的統制に有意傾向もしくは有意な変化が見られ,各尺度の得点は上昇していた(Table1)。一方,それ以外の尺度得点については有意な変化は見られなかった。
本研究は,受講者に対して,自己を多面的に捉えることを促す講義を行うことで,心的な変化が生じるか否かを探索的に検討した。論理的思考のトレーニングから潜在連合テストを用いた特性の測定など,多岐にわたる方法を用いて講義を行った結果,モニタリング,コントロール,内的統制の3尺度においては,一定の変化が認められた。各尺度はそれぞれ,「意識的に立ち止まり,自分の理解を確認する」など(モニタリング),「初めて聞く情報や知識は,自分の言葉に置き換えてみる」など(コントロール),「あなたは,努力すれば,どんなことでも自分の力でできると思いますか」など(内的統制)の項目で構成されている。こうしたスキルや認知の上昇は,自己を多面的に理解することをめざした講義の成果とも考えられる。
しかしながら,本研究の参加者はいわば実験群のみであり,本研究で行った講義の成果と結論づけるためには,統制群を設定した比較検討も必要である。加えて,本研究の結果のみでは,講義で扱った複数のテーマのうち,スキルや認知の変容に対して,いずれが特に有効なのか,もしくは複数の組み合わせが有効であるかは判断できない。こうした点を考慮し,さらなる検討が必要である。