16:00 〜 18:00
[PF34] 同音条件の違いが日中同形四字熟語の認知処理過程に及ぼす影響
語彙判断課題による検討
キーワード:日中同音条件, 日中同形四字熟語, 異なる日本語能力
問題と目的
第二言語の語彙処理研究では,バイリンガルがL2を処理する際は,L1も活性化され,L2の処理に影響を与えることが明らかにされている。また,同根語か非同根語かという単語の属性が影響を与えることを示唆しており,L2学習者の語彙処理を検討する際に,特にL1とL2の書字体系が類似する場合は,二言語間の語彙属性に配慮しなければならないことを示唆している(邱,2002)。邱(2002)では,台湾人日本語学習者が日本語の同根語を処理する際は,三つの処理経路(形態直接ルート・中国語音韻媒介ルート・日本語音韻媒介ルート)を利用する一方,非同根語を処理する際は,日本語音韻媒介ルートのみ利用すると仮定し,意味判断課題を用いて,異なる日本語レベルの台湾人日本語学習者の同根語及び非同根語の処理経路の違いが検討した結果,日本語の習熟度に関わらず,同根語は形態情報もしくは中国語の音韻情報を媒介して意味アクセスされるのに対し,非同根語は日本語の音韻情報を媒介して意味アクセスされることが示された。しかし,実験参加者は厳密に言えば外国語学習者で,第二言語学習者ではない。また,茅本(2002)では,語彙判断課題と命名課題を用いて,中国語母語者は日本語漢字のアクセスについて調べた結果,語彙判断課題は形態,意味類似性に,命名課題は音韻,意味類似性にそれぞれ影響が見られたが,日本語能力による影響については検討していない。そこで本研究では,日中同形四字熟語を刺激材料とし,日中それぞれの同音条件は異なる日本語能力を持つ中国語母語者(第二言語学習者)の四字熟語への認知過程を検討したい。
方 法
「参加者」日本語を第二言語とする中国語母語者20名は実験参加した。「計画」2(日本語能力:上級上位,上級下位)✕2(入れ替え漢字音韻条件:日本語同音,中国語同音)の2要因間・内混合計画であった。「刺激」漢検3~5級の日中同形四字熟語をベースとし,160語の刺激リストを作成した。内訳は日本語同音40語,中国語同音40語,関連なしの正しい綴り80語。「手続き」1.語彙判断課題:本実験は,語彙判断課題を用いた。パソコン画面から注視点が呈示された直後に,刺激単語を呈示する。実験参加者は,刺激単語は日本語として存在するかどうかをできるだけ速く正確に判断し,対応のキーを押してもらうと教示した。刺激単語が呈示されてから実験参加者がキーを押すまでの時間が反応時間として,パソコンによって自動計測される。本試行が行われる前に,練習試行として5試行が行われる。2.日本語能力確認テスト段階:漢検2級及び日本語検定2級(抜粋)をベースとした自制テストを実施した。30点満点。3.実験後インタビュー段階:基本情報(留学歴及び学習歴など)及び実験に関する情報。
結果と考察
20名のデータを分析した。誤答率において2要因分散分析した結果(表1),どちらの要因でも主効
果が見られなかった。反応時間において2要因分散分析した結果(表2),入れ替え漢字音韻条件の主効果が見られなかったか,習熟度の主効果が見
られた。(F(1.18)=4.54,p<.05)
上級下位は上級上位と比べで,反応時間は有意に長かった。
先行研究から,上級上位学習者は上級下位学習者と比べで,同形語を処理する際により日本語母語者の認知過程に接近し,より日本語音韻媒介ルートと形態ルートを利用する。つまり,上級上位学習者において,日本語同音条件は中国語同音条件と比べで,誤答率は有意に高く,反応時間は有意に遅くなる。上級下位学習者においてはその逆の結果が出るという仮説を立っているが,実験結果はその仮説を支持しない。以上のことから,四字熟語の熟知度はもっと統制すべく,要因として組む必要があると考える。また,茅本(2002)のように,意味判断の場合は,語彙判断と異なる結果が出る可能性も高く,次の研究も取り込みたいと考える。さらに,日本語母語者の認知過程との比較するため,日本語母語者のデータも取りたいと考える。
引用文献
茅本百合子(2002)語彙判断課題と命名課題における中国語母語話者の日本語漢字アクセス 教育心理学研究 2002 50 436-445
邱學瑾(2002)台湾人日本語学習者における日本語漢字熟語の処理過程 -日中2言語間の同根語と非同根語の比較- 広島大学大学院教育学研究科紀要 第二部 第51号 2002 357-365
第二言語の語彙処理研究では,バイリンガルがL2を処理する際は,L1も活性化され,L2の処理に影響を与えることが明らかにされている。また,同根語か非同根語かという単語の属性が影響を与えることを示唆しており,L2学習者の語彙処理を検討する際に,特にL1とL2の書字体系が類似する場合は,二言語間の語彙属性に配慮しなければならないことを示唆している(邱,2002)。邱(2002)では,台湾人日本語学習者が日本語の同根語を処理する際は,三つの処理経路(形態直接ルート・中国語音韻媒介ルート・日本語音韻媒介ルート)を利用する一方,非同根語を処理する際は,日本語音韻媒介ルートのみ利用すると仮定し,意味判断課題を用いて,異なる日本語レベルの台湾人日本語学習者の同根語及び非同根語の処理経路の違いが検討した結果,日本語の習熟度に関わらず,同根語は形態情報もしくは中国語の音韻情報を媒介して意味アクセスされるのに対し,非同根語は日本語の音韻情報を媒介して意味アクセスされることが示された。しかし,実験参加者は厳密に言えば外国語学習者で,第二言語学習者ではない。また,茅本(2002)では,語彙判断課題と命名課題を用いて,中国語母語者は日本語漢字のアクセスについて調べた結果,語彙判断課題は形態,意味類似性に,命名課題は音韻,意味類似性にそれぞれ影響が見られたが,日本語能力による影響については検討していない。そこで本研究では,日中同形四字熟語を刺激材料とし,日中それぞれの同音条件は異なる日本語能力を持つ中国語母語者(第二言語学習者)の四字熟語への認知過程を検討したい。
方 法
「参加者」日本語を第二言語とする中国語母語者20名は実験参加した。「計画」2(日本語能力:上級上位,上級下位)✕2(入れ替え漢字音韻条件:日本語同音,中国語同音)の2要因間・内混合計画であった。「刺激」漢検3~5級の日中同形四字熟語をベースとし,160語の刺激リストを作成した。内訳は日本語同音40語,中国語同音40語,関連なしの正しい綴り80語。「手続き」1.語彙判断課題:本実験は,語彙判断課題を用いた。パソコン画面から注視点が呈示された直後に,刺激単語を呈示する。実験参加者は,刺激単語は日本語として存在するかどうかをできるだけ速く正確に判断し,対応のキーを押してもらうと教示した。刺激単語が呈示されてから実験参加者がキーを押すまでの時間が反応時間として,パソコンによって自動計測される。本試行が行われる前に,練習試行として5試行が行われる。2.日本語能力確認テスト段階:漢検2級及び日本語検定2級(抜粋)をベースとした自制テストを実施した。30点満点。3.実験後インタビュー段階:基本情報(留学歴及び学習歴など)及び実験に関する情報。
結果と考察
20名のデータを分析した。誤答率において2要因分散分析した結果(表1),どちらの要因でも主効
果が見られなかった。反応時間において2要因分散分析した結果(表2),入れ替え漢字音韻条件の主効果が見られなかったか,習熟度の主効果が見
られた。(F(1.18)=4.54,p<.05)
上級下位は上級上位と比べで,反応時間は有意に長かった。
先行研究から,上級上位学習者は上級下位学習者と比べで,同形語を処理する際により日本語母語者の認知過程に接近し,より日本語音韻媒介ルートと形態ルートを利用する。つまり,上級上位学習者において,日本語同音条件は中国語同音条件と比べで,誤答率は有意に高く,反応時間は有意に遅くなる。上級下位学習者においてはその逆の結果が出るという仮説を立っているが,実験結果はその仮説を支持しない。以上のことから,四字熟語の熟知度はもっと統制すべく,要因として組む必要があると考える。また,茅本(2002)のように,意味判断の場合は,語彙判断と異なる結果が出る可能性も高く,次の研究も取り込みたいと考える。さらに,日本語母語者の認知過程との比較するため,日本語母語者のデータも取りたいと考える。
引用文献
茅本百合子(2002)語彙判断課題と命名課題における中国語母語話者の日本語漢字アクセス 教育心理学研究 2002 50 436-445
邱學瑾(2002)台湾人日本語学習者における日本語漢字熟語の処理過程 -日中2言語間の同根語と非同根語の比較- 広島大学大学院教育学研究科紀要 第二部 第51号 2002 357-365