16:00 〜 18:00
[PF41] ゼミナールでの授業外活動に対する教員の認識
計量テキスト分析による検討
キーワード:大学教育, 学習環境, 質問紙調査
問題と目的
大学教育におけるゼミナールは,少人数での共同体的な学習環境として重要な役割を果たしており,PBL (問題解決型学習) やアクティブ・ラーニングの視点からも,その価値が再認識されている。しかし,教育現場の条件に応じて多様に展開され,密室性が高いなどの理由から,実証的な研究は少なく (毛利,2006),体系的な議論が不足している。
ゼミナールでは,教員や友人との日常的なコミュニケーションを通じて,専門分野の暗黙知や考え方を吸収できる (渡部,2013)。つまり,組織化され構造化された環境において発生し,明らかに学習としてデザインされているフォーマル学習と,そこから偶発的に発生したノンフォーマル学習 (OECD, 2010) が混在している。前者については,授業内の活動に焦点化した調査 (伏木田・北村・山内,2011,2014) が行われているが,授業外での後者の学習に特化した検討はみられない。
そこで本研究では,サブゼミ,インターゼミ,ゼミナール大会,ゼミコンパ,ゼミ合宿など,計画的で意図的な活動だが,目標や時間,支援などの観点では明確にデザインされていない半構造化学習について,教員の認識を明らかにする。
方 法
調査手順 東京都内に本部が所在する大学の中で,人文学,社会科学,総合科学系学部に所属している教員 (専任講師以上) 約14355名のうち, 525名を系統抽出した。学部2年生以上が対象のゼミナールについて,当該年度の状況を回答するよう求めた。調査の期間は,2015年2月下旬~3月下旬までとした。
調査項目 年齢,性別,専門分野,初めてゼミナールを担当した年齢,対象学年と人数,学習テーマのほか,授業外活動の重要性に対する認識やゼミナールに対する信念などから構成した。
分析方法 「そのゼミナールでは,授業時間外の活動をどの程度,重要視しましたか?あてはまる数字1つに○をつけて,その理由を記入してください。」という質問に対して,5件法と理由に関する自由記述を求め,KH Coderを用いた計量テキスト分析 (樋口 2014) により検討した。
結果と考察
調査票一式を郵送した全体の約30%にあたる157名の教員より回答が得られた。性別については,男性109名(69.4%),女性44名(28.0%),年齢は平均51.2歳(S.D. =10.3),ゼミナールの経験年数は平均15.5歳(S.D. =9.7)であった。
授業外活動の重要性は,「全く重要でない」が6名(3.8%),「あまり重要でない」が14名(8.9%),「どちらともいえない」が22名(14.0%),「まあ重要である」が51名(32.5%),「とても重要である」が52名(33.1%)となった。自由記述回答文については,頻出語を確認した後,共起ネットワーク分析を行った。その結果,(a)発表や報告の準備,(b)自主的な勉強,(c)課題や研究の推進,(d)グループでの学習などの観点から,授業外活動が必要とされていることが示唆された。
引用文献
伏木田稚子, 北村智, 山内祐平 (2011) 学部3, 4年生を対象としたゼミナールにおける学習者要因・学習環境・学習成果の関係 日本教育工学会論文誌, 35, 157-168.
伏木田稚子, 北村智, 山内祐平 (2014) 学部ゼミナールの授業構成が学生の汎用的技能の成長実感に与える影響 日本教育工学会論文誌, 37, 419-433.
樋口耕一 (2014) 社会調査のための計量テキスト分析――内容分析の継承と発展を目指して ナカニシヤ出版
OECD (2010) Recognising non-foraml and informal learning: outcomes, policies and practices. (松田岳士 (訳) (2011). 学習成果の認証と評価――働くための知識・スキル・能力の可視化 明石書店)
毛利 猛 (2006). ゼミナールの臨床教育学のために 香川大学教育実践総合研究, 12, 29-34.
渡部信一 (2013). 日本の「学び」と大学教育 ナカニシヤ出版
付 記
本研究は,JSPS科研費26885022の助成を受けた研究の一部である。ご協力くださった方々に深謝いたします。
大学教育におけるゼミナールは,少人数での共同体的な学習環境として重要な役割を果たしており,PBL (問題解決型学習) やアクティブ・ラーニングの視点からも,その価値が再認識されている。しかし,教育現場の条件に応じて多様に展開され,密室性が高いなどの理由から,実証的な研究は少なく (毛利,2006),体系的な議論が不足している。
ゼミナールでは,教員や友人との日常的なコミュニケーションを通じて,専門分野の暗黙知や考え方を吸収できる (渡部,2013)。つまり,組織化され構造化された環境において発生し,明らかに学習としてデザインされているフォーマル学習と,そこから偶発的に発生したノンフォーマル学習 (OECD, 2010) が混在している。前者については,授業内の活動に焦点化した調査 (伏木田・北村・山内,2011,2014) が行われているが,授業外での後者の学習に特化した検討はみられない。
そこで本研究では,サブゼミ,インターゼミ,ゼミナール大会,ゼミコンパ,ゼミ合宿など,計画的で意図的な活動だが,目標や時間,支援などの観点では明確にデザインされていない半構造化学習について,教員の認識を明らかにする。
方 法
調査手順 東京都内に本部が所在する大学の中で,人文学,社会科学,総合科学系学部に所属している教員 (専任講師以上) 約14355名のうち, 525名を系統抽出した。学部2年生以上が対象のゼミナールについて,当該年度の状況を回答するよう求めた。調査の期間は,2015年2月下旬~3月下旬までとした。
調査項目 年齢,性別,専門分野,初めてゼミナールを担当した年齢,対象学年と人数,学習テーマのほか,授業外活動の重要性に対する認識やゼミナールに対する信念などから構成した。
分析方法 「そのゼミナールでは,授業時間外の活動をどの程度,重要視しましたか?あてはまる数字1つに○をつけて,その理由を記入してください。」という質問に対して,5件法と理由に関する自由記述を求め,KH Coderを用いた計量テキスト分析 (樋口 2014) により検討した。
結果と考察
調査票一式を郵送した全体の約30%にあたる157名の教員より回答が得られた。性別については,男性109名(69.4%),女性44名(28.0%),年齢は平均51.2歳(S.D. =10.3),ゼミナールの経験年数は平均15.5歳(S.D. =9.7)であった。
授業外活動の重要性は,「全く重要でない」が6名(3.8%),「あまり重要でない」が14名(8.9%),「どちらともいえない」が22名(14.0%),「まあ重要である」が51名(32.5%),「とても重要である」が52名(33.1%)となった。自由記述回答文については,頻出語を確認した後,共起ネットワーク分析を行った。その結果,(a)発表や報告の準備,(b)自主的な勉強,(c)課題や研究の推進,(d)グループでの学習などの観点から,授業外活動が必要とされていることが示唆された。
引用文献
伏木田稚子, 北村智, 山内祐平 (2011) 学部3, 4年生を対象としたゼミナールにおける学習者要因・学習環境・学習成果の関係 日本教育工学会論文誌, 35, 157-168.
伏木田稚子, 北村智, 山内祐平 (2014) 学部ゼミナールの授業構成が学生の汎用的技能の成長実感に与える影響 日本教育工学会論文誌, 37, 419-433.
樋口耕一 (2014) 社会調査のための計量テキスト分析――内容分析の継承と発展を目指して ナカニシヤ出版
OECD (2010) Recognising non-foraml and informal learning: outcomes, policies and practices. (松田岳士 (訳) (2011). 学習成果の認証と評価――働くための知識・スキル・能力の可視化 明石書店)
毛利 猛 (2006). ゼミナールの臨床教育学のために 香川大学教育実践総合研究, 12, 29-34.
渡部信一 (2013). 日本の「学び」と大学教育 ナカニシヤ出版
付 記
本研究は,JSPS科研費26885022の助成を受けた研究の一部である。ご協力くださった方々に深謝いたします。