16:00 〜 18:00
[PF65] 就学移行期における障害のある子どもに関する記録物の作成・活用状況と課題(2)
テキストマイニングによる自由記述の分析から
キーワード:幼保小接続, 就学支援シート
目 的
就学移行期における障害のある子どもに関する記録物の作成・活用状況と記入者の意識・課題について,前報(濱田他,2017)の調査では自由記述も求めていた。本報は,これらの自由記述をテキストマイニングにかけ,保育者と小学校教諭の意識の差異と共通性を探ることを目的とした。
方 法
前報の調査において得られた自由記述をKH Coder(Ver. 2.00f)を用いて分析した。就学前施設と小学校のそれぞれの自由記述における語の共起ネットワークを描くことで典型的な記述パターンを視覚化し,客観性を確保しつつ,両者の自由記述の特徴を要約・提示することを試みた。
結果と考察
伝えたい内容と役に立った内容:障害のある幼児の「困難の状況」に関して,就学前施設に「就学移行時の記録で伝えたい内容」を尋ねたところ,「生活・活動の具体的な状況」(全体指示の理解の難しさ,個別の声がけの必要性など),「本人・家庭の様子や支援の状態」,「好きなこと・苦手なことや興味・関心」が多く挙げられていた。他方,小学校に「就学移行時の記録で役に立った内容」を尋ねたところ,生活の具体的な状況に関する情報もさることながら,「医療機関での診断・相談の記録」や「食事・排泄を含む身辺自立・障害の程度」に関する情報が役立ったとの記述が多かった。
また,障害のある幼児に対して保育者が行った「具体的な配慮」と「配慮の意図」に関して,就学前施設に「伝えたい内容」を尋ねたところ,「絵や写真を用いた視覚的な支援や教材の活用・工夫」,「活動参加にあたり事前に見通しが持てるような配慮」,「友達との関わりや相手の気持ちの理解」に関する内容が多く挙げられていた。他方,小学校に「役に立った内容」を尋ねたところ,上記に加えて,パニックへの対応やクールダウンの声かけなどの「突発的な事態への対処」に関する内容が役立ったとする記述が特徴的であった。就学前施設が伝えたい内容と小学校側が求める内容との間には若干の食い違いがある可能性が示唆された。
様式を改善するために:「就学移行時の記録」の様式を改善するために「どのような項目を追加したいか」(就学前施設),「どのような項目が追加されるとよいか」(小学校)を尋ねたところ,両者ともに「現状のままで十分」とする記述が多かった。しかし,就学前施設では,保護者の同意のもとに作成する「就学移行時の記録」は具体的に記述することが難しいなどの理由から,様式の変更よりむしろ小学校の教員に直接引き継ぐ機会が必要との記述もなされていた。直接の引き継ぎを求める記述が多く見られたのは小学校も同様であった。また,小学校においては,項目の追加に関して,医療機関などの関係機関との連携の状況を知りたいとする記述もなされていた点が特徴的であった。
要録と「就学移行時の記録」の使い分け:要録と「就学移行時の記録」について,「どのように区別しているか」(就学前施設),「区別されているか」(小学校)を尋ねたところ,両者ともに「就学移行時の記録」は,要録よりも具体的で細かく書かれており,保護者に提示して確認を得るなど開示を前提としている点が異なるとしていた。
「就学移行時の記録」を活用するために:「就学移行時の記録」を今後さらに活用するために具体的にどのようなことが必要かを尋ねたところ,就学前施設では,担任との話し合いや,小学校側が参観に来る,あるいは就学後に小学校での様子を参観するなど,共通理解を図ることが必要であるとの記述が多かった。他方,小学校では,就学前施設と同様の内容に加えて,公立・私立間,就学前施設・小学校間で「就学移行時の記録」の形式の統一を図ることが必要との記述が特徴的であった。
接続の課題と改善案について:特別な支援を必要とする幼児に関する就学前施設と小学校との接続に関して課題と改善策を記述するよう求めたところ,就学前施設では,見学や交流授業などを通じて小学校と日常的に連絡し合える関係を求める声が多く,特に小学校の教員が幼児の様子を見に来ることを希望している点が特徴的であった。一方で,小学校側に対しては,「就学移行時の記録」が伝わっていないのではないかとの懸念や不満も見られた。小学校では,就学前施設との接続もさることながら,保護者に関する実態把握(保護者の思いの理解など)の難しさが課題として挙げられていた。また,私立幼稚園等との引き継ぎの場の設定が必要との意見や,就学前施設において個別の指導計画などの資料が蓄積されていないとの指摘もあった。就学前施設と小学校間では接続の課題に関しても認識の齟齬が示された。(本調査は平成28年度文科省委託「幼児期の教育内容等深化・充実調査研究」(研究受託機関 名古屋市立大学)の研究成果の一部である)
就学移行期における障害のある子どもに関する記録物の作成・活用状況と記入者の意識・課題について,前報(濱田他,2017)の調査では自由記述も求めていた。本報は,これらの自由記述をテキストマイニングにかけ,保育者と小学校教諭の意識の差異と共通性を探ることを目的とした。
方 法
前報の調査において得られた自由記述をKH Coder(Ver. 2.00f)を用いて分析した。就学前施設と小学校のそれぞれの自由記述における語の共起ネットワークを描くことで典型的な記述パターンを視覚化し,客観性を確保しつつ,両者の自由記述の特徴を要約・提示することを試みた。
結果と考察
伝えたい内容と役に立った内容:障害のある幼児の「困難の状況」に関して,就学前施設に「就学移行時の記録で伝えたい内容」を尋ねたところ,「生活・活動の具体的な状況」(全体指示の理解の難しさ,個別の声がけの必要性など),「本人・家庭の様子や支援の状態」,「好きなこと・苦手なことや興味・関心」が多く挙げられていた。他方,小学校に「就学移行時の記録で役に立った内容」を尋ねたところ,生活の具体的な状況に関する情報もさることながら,「医療機関での診断・相談の記録」や「食事・排泄を含む身辺自立・障害の程度」に関する情報が役立ったとの記述が多かった。
また,障害のある幼児に対して保育者が行った「具体的な配慮」と「配慮の意図」に関して,就学前施設に「伝えたい内容」を尋ねたところ,「絵や写真を用いた視覚的な支援や教材の活用・工夫」,「活動参加にあたり事前に見通しが持てるような配慮」,「友達との関わりや相手の気持ちの理解」に関する内容が多く挙げられていた。他方,小学校に「役に立った内容」を尋ねたところ,上記に加えて,パニックへの対応やクールダウンの声かけなどの「突発的な事態への対処」に関する内容が役立ったとする記述が特徴的であった。就学前施設が伝えたい内容と小学校側が求める内容との間には若干の食い違いがある可能性が示唆された。
様式を改善するために:「就学移行時の記録」の様式を改善するために「どのような項目を追加したいか」(就学前施設),「どのような項目が追加されるとよいか」(小学校)を尋ねたところ,両者ともに「現状のままで十分」とする記述が多かった。しかし,就学前施設では,保護者の同意のもとに作成する「就学移行時の記録」は具体的に記述することが難しいなどの理由から,様式の変更よりむしろ小学校の教員に直接引き継ぐ機会が必要との記述もなされていた。直接の引き継ぎを求める記述が多く見られたのは小学校も同様であった。また,小学校においては,項目の追加に関して,医療機関などの関係機関との連携の状況を知りたいとする記述もなされていた点が特徴的であった。
要録と「就学移行時の記録」の使い分け:要録と「就学移行時の記録」について,「どのように区別しているか」(就学前施設),「区別されているか」(小学校)を尋ねたところ,両者ともに「就学移行時の記録」は,要録よりも具体的で細かく書かれており,保護者に提示して確認を得るなど開示を前提としている点が異なるとしていた。
「就学移行時の記録」を活用するために:「就学移行時の記録」を今後さらに活用するために具体的にどのようなことが必要かを尋ねたところ,就学前施設では,担任との話し合いや,小学校側が参観に来る,あるいは就学後に小学校での様子を参観するなど,共通理解を図ることが必要であるとの記述が多かった。他方,小学校では,就学前施設と同様の内容に加えて,公立・私立間,就学前施設・小学校間で「就学移行時の記録」の形式の統一を図ることが必要との記述が特徴的であった。
接続の課題と改善案について:特別な支援を必要とする幼児に関する就学前施設と小学校との接続に関して課題と改善策を記述するよう求めたところ,就学前施設では,見学や交流授業などを通じて小学校と日常的に連絡し合える関係を求める声が多く,特に小学校の教員が幼児の様子を見に来ることを希望している点が特徴的であった。一方で,小学校側に対しては,「就学移行時の記録」が伝わっていないのではないかとの懸念や不満も見られた。小学校では,就学前施設との接続もさることながら,保護者に関する実態把握(保護者の思いの理解など)の難しさが課題として挙げられていた。また,私立幼稚園等との引き継ぎの場の設定が必要との意見や,就学前施設において個別の指導計画などの資料が蓄積されていないとの指摘もあった。就学前施設と小学校間では接続の課題に関しても認識の齟齬が示された。(本調査は平成28年度文科省委託「幼児期の教育内容等深化・充実調査研究」(研究受託機関 名古屋市立大学)の研究成果の一部である)