4:00 PM - 6:00 PM
[PF70] いじめ被害経験と加害経験の有無が自己関係づけに及ぼす影響
青年期における回顧的研究
Keywords:いじめ, 自己関係づけ, 被害者への有責性認知
問題と目的
いじめ問題は,被害者を自殺に追いやるほどの心的外傷体験になりうるため,解決が急務であるが,有効な対策は少ない。いじめの解決を妨げている要因の一つに,「いじめられる側にも問題や責任がある」という,いじめ被害者への有責性認知(竹川, 2002, 2010)が挙げられる。
福井・小山(2015)は,いじめられる側にも責任があると回答した者の多くが,大した理由もなく漠然と被害者に非があると回答していることを見出した。特にいじめ被害経験がなく加害経験のみを有する男性は,罪悪感が強く抑制されている(小山・福井,2014b)とともに,いじめ被害者への有責性を高く認知する(小山・福井,2014a)ことが報告されている。
ところで,大類・仁平(1999)は,青年期においては自分の問題行動について,自身に原因を帰属する傾向があると述べており,周囲の者だけでなく被害者自身もいじめ行為の原因を自分に帰している可能性もあると考えられる。八田(2007)は,いじめの原因帰属について被害者に尋ねた結果,被害者は自分の被害を過小評価したり,「自分にも非があったかもしれない」などと述べたりすることを報告しており,さらに,いじめ被害者の1割程度は,自分が一方的に悪かったと考えていることも明らかにしている。
このように,いじめ被害経験だけでなく,周囲の者によるいじめ被害者への有責性認知も,被害者の自尊心をさらに低下させたり,被害的な認知傾向をもたらしたりすることで,いじめ被害による悪影響を増幅させることが予想される。
そこで,本研究では,いじめ被害・加害経験がいじめ被害者の自己関係づけに及ぼす影響について探索的に検討した。
方 法
調査対象者:平均年齢19.77歳(SD =1.72)の大学生468名(女性257名,男性211名)の協力を得た。
尺度構成:いじめ被害・加害経験の有無について聴取した。また,自己関係づけの度合いを測定するために,自己関係づけ尺度(金子, 2000)を用いて合計得点を得た。いじめ被害・加害経験のデータは,上述した小山・福井(2014a, b, 2015a, b, c, 2016a, b, c)や福井・小山(2015, 2016, 2017a, b)と一部重複している。
結 果
自己関係づけ尺度の合計得点を従属変数として,2(性別)×2(被害経験の有無)×2(加害経験の有無)の3要因分散分析を行った結果,被害経験の主効果が有意であり(F (1, 460) = 6.086, p <.05),被害なし群よりも被害あり群の方が自己関係づけ得点が高かった。それに対して,性別(F (1, 460) = .003, n.s.)と加害経験の有無(F (1, 460) = .180, n.s.)の主効果は有意でなかった。結果をFigure 1に示した。なお,交互作用は一次,二次ともに有意ではなかった。
考 察
本研究の目的は,いじめ被害・加害経験が自己関係づけに及ぼす影響について検討することであった。その結果,被害経験のある群で,自己関係づけ得点が高いことが分かった。
いじめ被害者にとって,被害経験はそれまで信頼していた人からの裏切られ体験ともいえ,信頼・安全・仲間といった概念を揺さぶり(市井, 1999),被害者に深い心の傷を残す(亀田・相良, 2007)。荒木(1996)は,いじめ被害経験者は対人不安に悩む者が多く,視線恐怖などの対人恐怖症状を呈する者も多いことを報告している。このように,いじめ被害という対人関係における傷つき体験により,被害者は他者の一挙一動に過敏に反応し,自己に結びつけるようになる傾向があるといえる。
石橋ら(1999)は,いじめ被害当時の苦痛が大きくなるほど,対人恐怖心性における長期的な悪影響も大きくなることを明らかにしている。今後は,いじめ被害当時の苦痛度を統制した上で,いじめ被害経験の効果が保存されるかを検討するとともに,いじめ被害経験者において自己関係づけが高まることに寄与している他の要因を探求することも必要である。
いじめ問題は,被害者を自殺に追いやるほどの心的外傷体験になりうるため,解決が急務であるが,有効な対策は少ない。いじめの解決を妨げている要因の一つに,「いじめられる側にも問題や責任がある」という,いじめ被害者への有責性認知(竹川, 2002, 2010)が挙げられる。
福井・小山(2015)は,いじめられる側にも責任があると回答した者の多くが,大した理由もなく漠然と被害者に非があると回答していることを見出した。特にいじめ被害経験がなく加害経験のみを有する男性は,罪悪感が強く抑制されている(小山・福井,2014b)とともに,いじめ被害者への有責性を高く認知する(小山・福井,2014a)ことが報告されている。
ところで,大類・仁平(1999)は,青年期においては自分の問題行動について,自身に原因を帰属する傾向があると述べており,周囲の者だけでなく被害者自身もいじめ行為の原因を自分に帰している可能性もあると考えられる。八田(2007)は,いじめの原因帰属について被害者に尋ねた結果,被害者は自分の被害を過小評価したり,「自分にも非があったかもしれない」などと述べたりすることを報告しており,さらに,いじめ被害者の1割程度は,自分が一方的に悪かったと考えていることも明らかにしている。
このように,いじめ被害経験だけでなく,周囲の者によるいじめ被害者への有責性認知も,被害者の自尊心をさらに低下させたり,被害的な認知傾向をもたらしたりすることで,いじめ被害による悪影響を増幅させることが予想される。
そこで,本研究では,いじめ被害・加害経験がいじめ被害者の自己関係づけに及ぼす影響について探索的に検討した。
方 法
調査対象者:平均年齢19.77歳(SD =1.72)の大学生468名(女性257名,男性211名)の協力を得た。
尺度構成:いじめ被害・加害経験の有無について聴取した。また,自己関係づけの度合いを測定するために,自己関係づけ尺度(金子, 2000)を用いて合計得点を得た。いじめ被害・加害経験のデータは,上述した小山・福井(2014a, b, 2015a, b, c, 2016a, b, c)や福井・小山(2015, 2016, 2017a, b)と一部重複している。
結 果
自己関係づけ尺度の合計得点を従属変数として,2(性別)×2(被害経験の有無)×2(加害経験の有無)の3要因分散分析を行った結果,被害経験の主効果が有意であり(F (1, 460) = 6.086, p <.05),被害なし群よりも被害あり群の方が自己関係づけ得点が高かった。それに対して,性別(F (1, 460) = .003, n.s.)と加害経験の有無(F (1, 460) = .180, n.s.)の主効果は有意でなかった。結果をFigure 1に示した。なお,交互作用は一次,二次ともに有意ではなかった。
考 察
本研究の目的は,いじめ被害・加害経験が自己関係づけに及ぼす影響について検討することであった。その結果,被害経験のある群で,自己関係づけ得点が高いことが分かった。
いじめ被害者にとって,被害経験はそれまで信頼していた人からの裏切られ体験ともいえ,信頼・安全・仲間といった概念を揺さぶり(市井, 1999),被害者に深い心の傷を残す(亀田・相良, 2007)。荒木(1996)は,いじめ被害経験者は対人不安に悩む者が多く,視線恐怖などの対人恐怖症状を呈する者も多いことを報告している。このように,いじめ被害という対人関係における傷つき体験により,被害者は他者の一挙一動に過敏に反応し,自己に結びつけるようになる傾向があるといえる。
石橋ら(1999)は,いじめ被害当時の苦痛が大きくなるほど,対人恐怖心性における長期的な悪影響も大きくなることを明らかにしている。今後は,いじめ被害当時の苦痛度を統制した上で,いじめ被害経験の効果が保存されるかを検討するとともに,いじめ被害経験者において自己関係づけが高まることに寄与している他の要因を探求することも必要である。