The 59th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

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ポスター発表 PF(01-81)

ポスター発表 PF(01-81)

Sun. Oct 8, 2017 4:00 PM - 6:00 PM 白鳥ホールB (4号館1階)

4:00 PM - 6:00 PM

[PF77] 高校生に対する予防的心理支援としてのレジリエンス教育の実践と効果(3)

集団と個人の特性効果に着目して

鈴木水季1, 岐部智恵子2, 平野真理3 (1.郁文館夢学園, 2.お茶の水女子大学, 3.東京家政大学)

Keywords:レジリエンス, 心理教育, 集団と個人の特性効果

問題と目的
 学校現場において心理教育を導入し,その効果を報告する実践研究が増加している。教科学習に加え,児童生徒の社会情動性などの心理的発達を促し,社会適応に必要なスキルの獲得を支援するこれらの心理教育は,実証結果に基づく教育を展開するうえで重要な取り組みといえる。しかし,学校現場においては対象となる生徒の個人特性,学年などの集団特性など教育効果に影響を及ぼす要因も多く,それらを適正に検討することが求められる。そこで,本研究では予防的心理支援としてレジリエンス教育を継続して行っている学校のデータを用い,生徒へのプログラムの効果をコホートごとに検討することとした。具体的には,同一講師により実施された同一プログラムが,異なるコホートの生徒群に対しても同様で一定の効果があるかを確認した。また,個人の内的側面を取り扱う心理教育においては,生徒の個人特性によって効果が変わることが考えられるため,コホート間の検討に加え,生徒の心理的自己評価に応じてレジリエンス教育の効果の検討を行った。
方   法
対象者 高校1年次にレジリエンス教育(SPARK:Boniwell &Ryan, 2009)を受けた生徒(合計333名)。
 コホート1(n = 85, 男子 = 40, 女子 = 45)
 コホート2(n = 127, 男子 = 54, 女子 = 73)
 コホート3(n = 121, 男子 = 59, 女子 = 62)
分析データ レジリエンス教育実施前(T1),実施後(T2),3か月後のフォローアップ(T3)に測定した心理尺度得点。分析に使用した主な尺度は二次元レジリエンス要因尺度(平野,2010),自尊感情尺度(Rosenberg, 1965),一般自己効力尺度(Schwarzer & Jerusalem, 1995)である。なお,属性変数として性別,コホートをカテゴリカル変数として分析に含めた。
分析方法 記述統計として全体のデータならびにコホートごとのT1, T2, T3のレジリエンス得点の変化を確認。ベースラインにおける生徒の心理的自己評価としてT1の自尊感情と自己効力感(r = .58, p < .001)のz得点から合成得点を作成し,平均を基準とした自己評価の高低群(1, 0)を作成した上で,反復測定の分散分析(混合計画)によりレジリエンス得点に対する自己評価の効果を検討した。自尊感情,自己効力感ともコホート間の平均の差を検定し,有意差がないことを確認している。分散分析では性別とコホートを統制した。
結   果
 まず,分析対象全体,ならびにコホートごとのレジリエンス得点の記述統計を表1に示す。全体的には心理教育を受けた生徒たちのレジリエンス要因の自己報告得点はT1 < T2 < T3と上昇する傾向が示唆されたものの,コホートごとではC1とC2に同様の変化が見られるのに対し,C3ではT1 > T3 > T2という異なる変化が示された。
 次に,反復測定の分散分析を用い,心理教育による生徒の縦断的変化を検討した。分析の結果,生徒個人の自己評価がレジリエンス得点の変化に対し,主効果F(1, 265) = 58.52 (p < .001),交互作用F(2, 530) = 8.22 (p < .001) ともに有意であることが示された。最後に,自己評価得点の高低群でレジリエンス得点の変化量(Δ = T3-T1)を検定したところ,自己評価低群(Δ平均 = 3.79)と高群(Δ平均 = -1.50)の間に有意な差が見いだされ(t = -3.39, p < .01, d = .41),個人特性によって心理教育の効果が異なることが示唆された。
考   察
 本研究の結果から,同一講師が同一プログラムを実施した場合でも,生徒の集団特性(i.e.コホート)や個人特性(i.e.心理的自己評価)によって効果が異なる可能性が見いだされた。特に,自己評価が相対的に低い生徒が予防的心理教育によって適応的なスキルを身に着ける可能性が比較的高いことが示唆されたことから,心理教育の処遇を操作し,適性処遇交互作用の検討を行うなど研究知見を現場に還元するためにより精緻に検討していくことが求められる。さらに,今後は効果が及ぶに至る詳細なメカニズムの検討も必要であろう。
※本研究は科研費 16H00078,の助成を受けました