16:00 〜 18:00
[PF78] 高校生におけるレジリエンスの経験的獲得プロセスの検討
変わろうという意識を支える心理教育授業の役割
キーワード:レジリエンス, 心理教育, プロセス
問題と目的
レジリエンス(精神的回復力)の獲得プロセスについては,これまでにトラウマ体験をした人々の回復プロセスの観点から多くの研究が進められ,その知見が積み重ねられている。一方で近年,そうしたリスク状況への適応を目指す文脈だけでなく,予防の文脈においてもレジリエンスが注目されるようになり,特に教育現場においてストレス対処能力を育成するための心理教育が行われるようになっている。そうした心理教育の効果は,尺度得点の向上といった量的検討が行われることが多い。しかしながら,予防的教育においては即時的な変化だけでなく,その後の生活の中でリスクに直面した際にどのような効果をもたらすかという長期的な効果検討が不可欠であるといえる。
そこで本研究では,高校の授業内でレジリエンス心理教育を受けた生徒が3年間の生活でのストレス対処を通してその知識をどのように活用し内在化していったかを調査し,レジリエンス教育の長期的効果の検討および,レジリエンスの獲得プロセスについての一考察を得ることを目的とした。
方 法
1. インタビュー実施時期 X+3年3月
2. 対象者 A高校において1~3年次に計9コマのレジリエンス授業(SPARK Program; Boniwel & Ryan, 2009)を受けた生徒10名。全生徒の中から3年間の高校生活を経てレジリエンス尺度得点の変化が①上昇した生徒,②低下した生徒,③変化の少なかった生徒に分けたうえでサンプリングし,十分な倫理的配慮のもとインタビューを依頼した。
3. 手続き 個別に15~30分の半構造面接を行った。「レジリエンス授業について」「3年間での自分自身の変化」「レジリエンスを自分の言葉で説明するとしたら」について自由に語ってもらった。
4. 分析方法 インタビューはすべて逐語化されたのち.KJ法を援用したカテゴリー生成およびカテゴリー間の関連が検討された。逐語化されたデータは内容のまとまりが保たれる1~2文で切片化され,要約を表すラベルが付けられた。そしてラベル内容の類似性によりサブカテゴリーが生成され,さらにその類似性からカテゴリーがまとめられた上でカテゴリーグループに分類された。
結果と考察
239切片から,49のサブカテゴリー,19のカテゴリー,4のグループが得られた(Table 1)。
レジリエンス授業の中では,【知識を得る】ことによって【自分を客観的に見る視点を得る】とともに【自分のネガティブ側面の許容】が行われていた。その許容を基盤として【自分を変えようとする意識】が生じはじめることが見出された。
生活の中でのレジリエンス体験には大きくふたつの流れがあった。ひとつはつらい体験に直面した際に授業で学んだ【気持ちを回復させるための試み】で気持ちを調整することで【問題解決に向けた試み】を行う余裕が生まれたという流れであり,もうひとつは,つらい体験に【対処できない自分】に直面する中で,【変化を後押しする環境・サポート】に支えられながら【変わろうという意識】を育み問題解決に向かう流れであった。そしてそれらの【試みの成果】を実感するようなレジリエンス体験を繰り返すことにより徐々に【問題に対する距離を保てる】ようになり,さらには【問題に対する認識の変化】も体験していた。また,つらい状況の中で問題解決を試みることができた【自分への信頼】が育まれていた。授業を通した自己の客観的理解および許容によって育まれた「変わろう」という気持ちが,生活の中でのレジリエンス体験を後押しするプロセスが示唆された。
※本研究は科研費16H00078, 15K17291の助成を受けた。
レジリエンス(精神的回復力)の獲得プロセスについては,これまでにトラウマ体験をした人々の回復プロセスの観点から多くの研究が進められ,その知見が積み重ねられている。一方で近年,そうしたリスク状況への適応を目指す文脈だけでなく,予防の文脈においてもレジリエンスが注目されるようになり,特に教育現場においてストレス対処能力を育成するための心理教育が行われるようになっている。そうした心理教育の効果は,尺度得点の向上といった量的検討が行われることが多い。しかしながら,予防的教育においては即時的な変化だけでなく,その後の生活の中でリスクに直面した際にどのような効果をもたらすかという長期的な効果検討が不可欠であるといえる。
そこで本研究では,高校の授業内でレジリエンス心理教育を受けた生徒が3年間の生活でのストレス対処を通してその知識をどのように活用し内在化していったかを調査し,レジリエンス教育の長期的効果の検討および,レジリエンスの獲得プロセスについての一考察を得ることを目的とした。
方 法
1. インタビュー実施時期 X+3年3月
2. 対象者 A高校において1~3年次に計9コマのレジリエンス授業(SPARK Program; Boniwel & Ryan, 2009)を受けた生徒10名。全生徒の中から3年間の高校生活を経てレジリエンス尺度得点の変化が①上昇した生徒,②低下した生徒,③変化の少なかった生徒に分けたうえでサンプリングし,十分な倫理的配慮のもとインタビューを依頼した。
3. 手続き 個別に15~30分の半構造面接を行った。「レジリエンス授業について」「3年間での自分自身の変化」「レジリエンスを自分の言葉で説明するとしたら」について自由に語ってもらった。
4. 分析方法 インタビューはすべて逐語化されたのち.KJ法を援用したカテゴリー生成およびカテゴリー間の関連が検討された。逐語化されたデータは内容のまとまりが保たれる1~2文で切片化され,要約を表すラベルが付けられた。そしてラベル内容の類似性によりサブカテゴリーが生成され,さらにその類似性からカテゴリーがまとめられた上でカテゴリーグループに分類された。
結果と考察
239切片から,49のサブカテゴリー,19のカテゴリー,4のグループが得られた(Table 1)。
レジリエンス授業の中では,【知識を得る】ことによって【自分を客観的に見る視点を得る】とともに【自分のネガティブ側面の許容】が行われていた。その許容を基盤として【自分を変えようとする意識】が生じはじめることが見出された。
生活の中でのレジリエンス体験には大きくふたつの流れがあった。ひとつはつらい体験に直面した際に授業で学んだ【気持ちを回復させるための試み】で気持ちを調整することで【問題解決に向けた試み】を行う余裕が生まれたという流れであり,もうひとつは,つらい体験に【対処できない自分】に直面する中で,【変化を後押しする環境・サポート】に支えられながら【変わろうという意識】を育み問題解決に向かう流れであった。そしてそれらの【試みの成果】を実感するようなレジリエンス体験を繰り返すことにより徐々に【問題に対する距離を保てる】ようになり,さらには【問題に対する認識の変化】も体験していた。また,つらい状況の中で問題解決を試みることができた【自分への信頼】が育まれていた。授業を通した自己の客観的理解および許容によって育まれた「変わろう」という気持ちが,生活の中でのレジリエンス体験を後押しするプロセスが示唆された。
※本研究は科研費16H00078, 15K17291の助成を受けた。