The 59th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

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ポスター発表 PG(01-81)

ポスター発表 PG(01-81)

Mon. Oct 9, 2017 10:00 AM - 12:00 PM 白鳥ホールB (4号館1階)

10:00 AM - 12:00 PM

[PG02] 幼児における他者の要求変化の背後にある「別の他者を欺こうとする意図」への気づきに関する研究

多田幸子1, 尾池晴香#2 (1.山梨県立大学, 2.港区立しばうら保育園分園)

Keywords:幼児, 意図理解, 欺きの意図

目   的
 こどもは発達の早期から,人間の動作の中に意図を知覚するとされる(Legerstee, 2005/2014)。さまざまな意図の中でも,他者が「本当」の状態ではなく「見かけ」の状態を示そうとすることへの理解は,幼児期から児童期にかけて発達する(溝川・子安, 2007)。しかし,うそ理解の発達に関する研究より,幼児期にはうそをつかれても,相手が自分をだまそうとしていることが理解しがたく(松井, 2015),よって,他者が自己の利益のために見かけの状態を示して誰かを欺こうとする意図を持つことを理解するのは容易とは言えないようである。では,幼児は他者の言動に利己的な欺きの意図をどの程度見出し,また,欺きの意図の他にどういった意図を推察するのか。本研究では,幼児と成人を対象に,2人のこどもが登場する物語を呈示し,物語中の1人のこどもにおける要求変化の理由を説明するよう求めた。
方   法
 参加者 年少群30名(平均4歳2ヶ月),年長群32名(平均5歳1ヶ月),大学生53名(平均21歳0ヶ月)であった。
 課題 瀬野(2008)を元に,兄と弟が赤いミニカーを欲しがるが,最後に兄が要求を変え青いミニカーを選ぼうとするという物語を作成した。物語冒頭で,兄は,弟が頻繁に自分のまねをすることを知っていると明示された。また,物語に関わる5つの質問を作成した。問1:兄が最初に求めたミニカーの色を尋ねた,問2:兄が最後に求めようとしたミニカーの色を尋ねた,問3:兄が要求を変えた理由を尋ねた,問4:兄が本当に欲しいミニカーの色を尋ねた,問5:兄が捉える弟の行動面での特徴を尋ねた。
 手続き 幼児の場合は個別で調査し,参加者には上述の物語を7枚の紙芝居で呈示した後,先に挙げた5つの質問をした。成人の場合は集団に対して上述の物語課題に関する質問紙を配布し回答を求めた。物語と設問は調査者が口頭で読み上げ,各問の回答には十分な時間を取り,全参加者の記入が終了したことを確認して次の質問に移った。
結   果
 兄の真の要求の理解 問1で兄がはじめに欲しがったミニカーの色を赤(正答),問2で最後に兄が選ぼうとしたミニカーの色を青(正答)と回答し,問4で兄が本当に欲しいミニカーの色を赤と答えた者は年少では11名(37%)と有意に少なく,年長では20名(63%)であり,成人では45名(85%)と有意に多かった(x2(2)=20.14, p<.01)。また,問1・2に正答した者で問4に青と答えた者は,年少8名(20名中40%),年長5名(26名中19%),成人4名(50名中8%)であった。
 兄の要求変化の理由 問1・2に正答し,問4で赤と回答した者が推察する兄の要求変化の理由を整理した。Table1より,自分が欲しいミニカーを手に入れるためという欺きの意図に言及した者は年少0名,年長1名,成人7名であった。
 また,Table1より各年齢群で最多の回答は,年少では要求変化の理由が「分からない」,年長・成人では利他的意図でもって「弟に譲るため」であった。この利他的意図に言及する回答は他の回答に比して年少で有意に少なく,成人で有意に多かった(x2(2)=19.50, p<.01)。
 兄が捉える弟の行動特徴の理解 問1・2に正答し,問4で赤と答え,問5で兄は弟が頻繁に自分の真似をすることを知っているとの回答を示した者は,年少5名(11名中45%),年長15名(20名中75%),成人42名(45名中93%)であった。
考   察
 以上より,4歳では他者における見かけの要求変化を理解することが難しく,要求変化の理由説明は困難と言えた。5歳では不十分ながら他者の見かけの要求変化を理解する者,またその中で見かけの要求変化の理由を説明できる者が増えた。だが,見かけの要求変化の意図として利己的な欺きに言及する者は少なく,成人においてもその割合は2割に満たなかった。むしろ,5歳と成人では他者の希望を優先するという利他的な意図に言及する者が目だった。これは特に成人で顕著であり,このことから,他者の言動に別の他者を欺く意図をどの程度見出すかは,個人内の認知発達以外の要因にも影響される可能性が考えられた。
 付記 本稿は尾池晴香氏(2016年度山梨県立大学卒業)の卒業研究を加筆修正したものである。