10:00 〜 12:00
[PG17] 幼児期における仲間関係の固定化に関する事例的検討
卒園間際の年長児に注目して
キーワード:幼児, 仲間関係, 固定化
問題と目的
幼児期における親密な仲良しの形成は,重要な発達的目標の1つとされる。無藤(1997)や砂上(2012)をはじめとして,幼児が相互作用の積み重ねによって仲間関係を形成し,その仲間と協同的に遊べるようになるまでの発達的プロセスが,今日まで検討されてきた。
ところが,こうした先行研究が十分に注目してこなかったのが,関係が形成された「その後」の問題である。幼児は加齢とともに,仲良し以外を受け入れなくなるなど(倉持・柴坂, 1999),仲間関係を維持しようと試みることで,関係を固定化させている可能性がある。しかし,先行研究はあくまで幼児が仲間関係を「形成するまで」に焦点を絞ってきた。そのため,仲間関係がある程度築かれた後,いかに幼児は新たな関係を「築きにくくなる」か,その実体は十分に検討されていない。
そこで本研究は,親密な関係が形成された後,いかに新参者の参加が困難であるか,その様態を卒園間際の年長児から検討することを目的とした。
方 法
参加者 北海道札幌市近郊に位置する,仏教系の私立Z幼稚園の年長学年(男児39名,女児42名)を対象とした。なかでも, 発達に遅れがみられないほか,安定した友だちが学年のなかにいないと保育者から報告された,女児Aに注目した。
観察期間 201X年2月初旬~3月中旬の約1ヶ月半を対象とした。観察日数は19日であった。
観察方法 自由遊びと,幼児の人間関係が現れやすいと考えられる(外山, 1998),昼食時の席とり場面の様子を中心に観察した。また,時折Aや保育者に対して簡単なインタビューを行った。その他,保育の流れをフィールドノートに記録した。
分析資料 自由遊びにおいては,Aが仲間入りを試みる場面,および他児を遊びに誘う場面の様子を事例として抽出した。また,席取り場面については,設定保育が終わってから着席するまでの様子について事例を抽出した。
結果と考察
得られた事例の特徴的な変化から,Aの仲間関係の様態は,大きく3つの時期に分けられた。
まず,保育者の報告通り,学年内に安定した仲良しがいない第1期である(~2月終旬)。Aの言葉によれば,彼女の仲良しは年中児や小学生に多いが,この学年には近所に住む男児Bを除いていないとのことであった。この時期,Aが遊ぶ相手は日によってバラバラなほか,昼食時も空いていた席にただ座ることが殆どであった。
次に,Aが仲良しを築こうとする第2期である(~3月初旬)。この時期,Aは女児Cに対して,遊びのなかで「(一緒に)いこ」と誘ったり,昼食を共にとろうと約束したりと,仲間関係を築こうと強く試みはじめた。しかし,その試みは,Cと仲良しである女児DとEによって阻まれることになった。DとEは,AがCと関係構築を試みる際に,Cに「どっちが好きか」を尋ねたり,Cの手を引き距離を置こうと試みたりするなどの抵抗をみせた。また,昼食時には誰がCの隣に座るかで,Aを含めて揉める現象が現れた。そして,時にAはCに,一緒に座ろうと約束を取り付けるも,Eが約束を破断させたりし,関係構築を阻止しようとする姿が観察された。
そして最後に,特定の仲良しを新たに築けないまま,卒園を迎える第3期である(~3月中旬)。結果的にAは,Cらとは時折関わりをとる関係となったものの,積極的に遊びを共にしようとはしなくなった。こうしてAは,特定の仲良しを築けないまま,卒園の日を迎えたのであった。
総合考察
幼児期において,仲間関係が形成された後,新たな仲良しを作ることがいかに困難な状況にあるかが,卒園間際のAの姿から示唆された。人間関係の形成と固定化は,発達を促進する正の側面のみならず,関係性攻撃といった(Crick & Grotpeter, 1995),他者の排除を生む負の側面をも有すると推察される。今後は,幼児期の仲間関係研究の発展へ向けて,関係形成の負の側面である,関係の固定化と排除の生起の発達的な連関や,その排除に対応していくための,保育の実践的営為を明らかにしていく必要があるだろう。
付 記
本研究は,KAKENHI No.25590166「幼児教育環境と幼児の共発達に関する生態・文化的アプローチ」(代表者:川田 学)の助成を受けた。
幼児期における親密な仲良しの形成は,重要な発達的目標の1つとされる。無藤(1997)や砂上(2012)をはじめとして,幼児が相互作用の積み重ねによって仲間関係を形成し,その仲間と協同的に遊べるようになるまでの発達的プロセスが,今日まで検討されてきた。
ところが,こうした先行研究が十分に注目してこなかったのが,関係が形成された「その後」の問題である。幼児は加齢とともに,仲良し以外を受け入れなくなるなど(倉持・柴坂, 1999),仲間関係を維持しようと試みることで,関係を固定化させている可能性がある。しかし,先行研究はあくまで幼児が仲間関係を「形成するまで」に焦点を絞ってきた。そのため,仲間関係がある程度築かれた後,いかに幼児は新たな関係を「築きにくくなる」か,その実体は十分に検討されていない。
そこで本研究は,親密な関係が形成された後,いかに新参者の参加が困難であるか,その様態を卒園間際の年長児から検討することを目的とした。
方 法
参加者 北海道札幌市近郊に位置する,仏教系の私立Z幼稚園の年長学年(男児39名,女児42名)を対象とした。なかでも, 発達に遅れがみられないほか,安定した友だちが学年のなかにいないと保育者から報告された,女児Aに注目した。
観察期間 201X年2月初旬~3月中旬の約1ヶ月半を対象とした。観察日数は19日であった。
観察方法 自由遊びと,幼児の人間関係が現れやすいと考えられる(外山, 1998),昼食時の席とり場面の様子を中心に観察した。また,時折Aや保育者に対して簡単なインタビューを行った。その他,保育の流れをフィールドノートに記録した。
分析資料 自由遊びにおいては,Aが仲間入りを試みる場面,および他児を遊びに誘う場面の様子を事例として抽出した。また,席取り場面については,設定保育が終わってから着席するまでの様子について事例を抽出した。
結果と考察
得られた事例の特徴的な変化から,Aの仲間関係の様態は,大きく3つの時期に分けられた。
まず,保育者の報告通り,学年内に安定した仲良しがいない第1期である(~2月終旬)。Aの言葉によれば,彼女の仲良しは年中児や小学生に多いが,この学年には近所に住む男児Bを除いていないとのことであった。この時期,Aが遊ぶ相手は日によってバラバラなほか,昼食時も空いていた席にただ座ることが殆どであった。
次に,Aが仲良しを築こうとする第2期である(~3月初旬)。この時期,Aは女児Cに対して,遊びのなかで「(一緒に)いこ」と誘ったり,昼食を共にとろうと約束したりと,仲間関係を築こうと強く試みはじめた。しかし,その試みは,Cと仲良しである女児DとEによって阻まれることになった。DとEは,AがCと関係構築を試みる際に,Cに「どっちが好きか」を尋ねたり,Cの手を引き距離を置こうと試みたりするなどの抵抗をみせた。また,昼食時には誰がCの隣に座るかで,Aを含めて揉める現象が現れた。そして,時にAはCに,一緒に座ろうと約束を取り付けるも,Eが約束を破断させたりし,関係構築を阻止しようとする姿が観察された。
そして最後に,特定の仲良しを新たに築けないまま,卒園を迎える第3期である(~3月中旬)。結果的にAは,Cらとは時折関わりをとる関係となったものの,積極的に遊びを共にしようとはしなくなった。こうしてAは,特定の仲良しを築けないまま,卒園の日を迎えたのであった。
総合考察
幼児期において,仲間関係が形成された後,新たな仲良しを作ることがいかに困難な状況にあるかが,卒園間際のAの姿から示唆された。人間関係の形成と固定化は,発達を促進する正の側面のみならず,関係性攻撃といった(Crick & Grotpeter, 1995),他者の排除を生む負の側面をも有すると推察される。今後は,幼児期の仲間関係研究の発展へ向けて,関係形成の負の側面である,関係の固定化と排除の生起の発達的な連関や,その排除に対応していくための,保育の実践的営為を明らかにしていく必要があるだろう。
付 記
本研究は,KAKENHI No.25590166「幼児教育環境と幼児の共発達に関する生態・文化的アプローチ」(代表者:川田 学)の助成を受けた。