10:00 〜 12:00
[PG21] 教員養成課程の大学生の音楽科に対する教科観
キーワード:教科観, 音楽科, 学習指導案
本研究では,より適切で有意義な音楽科の教育実践につながる教科観について,教員養成課程の最終学年の学生を対象に検討する。
方 法
参加者 教員養成課程音楽科専攻の大学4年生10名(全員,教員志望で教育実習を2回経験)。
教科観の調査 参加者の教科観を捉えるため,PAC-Assist2(土田,2016)を用いて,PAC分析(内藤,1997)を行った。本研究では,「学校の教科としての音楽科に対するイメージや考え」「音楽科という教科について,感じたり考えていること」を連想してもらったまた,教科観の形成要因を検討できるように,音楽科に対するイメージのきっかけや元となった経験についても尋ねた。
指導案作成課題 この課題では,本時の目標,児童観,指導観,学習指導過程を空欄にした音楽科の学習指導案の完成を,参加者に求めた。
手続き 教科観の調査と指導案作成課題は別個の研究として,別々の日に個別で行った。
結果と考察
指導案の評価 音楽科教師1名と心理学専攻の学生1名で,参加者が作成した学習指導案を検討し,教科指導の実践力をある程度身につけている参加者を選出した。参加者Aは,テーマに沿った手立てを踏まえており,実践したいことが伝わる指導案であった。したがって,参加者の中で教科指導の実践力が最も高いと判断した。
教科観の検討 以下,参加者AのPAC分析の回答(Fig. 1)に基づき,音楽科の教育実践につながる教科観を検討する。
Aはクラスタ1に対して“音楽や美術(略)といった芸術教育は特に豊かな心を育む”と述べており,音楽科には,豊かな心を育むという「教科の特徴」があると考えている。そして,“何を一番子どもに学んで欲しいかと言ったら,豊かな心”と,豊かな心を育むことを,最も重要な「教育目標」とみなしていた。また,「教育目標」や「教科の特徴」によって形成されているクラスタ1と,主体的な学びという「指導観」に関わるクラスタ2が,“コミュニケーションを伴うことで豊かな心を育む”点で関連していると述べていた。鑑賞(クラスタ3)という「学習内容」も,“コミュニケーションとか言語活動は鑑賞でも必要”と,コミュニケーションによってクラスタ2と結びついている。“鑑賞で音楽に感動したり,美しさを感じ取る”ことが“豊かな心を育むというところに結びついている”との回答からは,「学習内容」が「教育目標」と結びついていることが分かる。さらに,クラスタ全体の関係についての回答(“3と4は等しい関係,これらより2がちょっと上。2,3,4をひっくるめて1”)から,授業を子ども主体のものにして教育目標にたどり着く,というように,教科観が構造化されていることが示唆される。すなわち,参加者Aの教科観は,単なる連想や相違点による関連ではなく,因果関係や鍵となる概念(“豊かな心”,“コミュニケーション”,“鑑賞”)によって結びついた構造を持っているといえよう。
また,音楽科で一番大切なことは人との関わりであると答えた参加者が多い中,Aは“コミュニケーションを伴うことで豊かな心を育む”と,人との関わりは豊かな心を育むための手段と考えていた。このことから,Aの教科観は教育目標が核になっていると推察できる。また,Aは,学習指導要領に示された「豊かな心情」という抽象的な目標を,鑑賞という具体的な学習内容の中でイメージできている。さらにAの学習指導案には,授業全体の見通しが,明確に示されていた。以上より,明確な教科の教育目標を核に教科について具体的に考えることが,見通しを持った,より有意義な教育実践につながる可能性が示唆される。
引用文献
内藤 哲雄(1997).PAC 分析実施法入門 個を科学する新技法への招待 ナカニシヤ出版
土田 義郎(2016)PAC-Assist2(http://wwwr.kanazawa-it.ac.jp/~tsuchida/lecture/pac-assist.htm)
*本研究は三浦明日香氏(平成28年度愛知教育大学卒業生)と共同で行った。
方 法
参加者 教員養成課程音楽科専攻の大学4年生10名(全員,教員志望で教育実習を2回経験)。
教科観の調査 参加者の教科観を捉えるため,PAC-Assist2(土田,2016)を用いて,PAC分析(内藤,1997)を行った。本研究では,「学校の教科としての音楽科に対するイメージや考え」「音楽科という教科について,感じたり考えていること」を連想してもらったまた,教科観の形成要因を検討できるように,音楽科に対するイメージのきっかけや元となった経験についても尋ねた。
指導案作成課題 この課題では,本時の目標,児童観,指導観,学習指導過程を空欄にした音楽科の学習指導案の完成を,参加者に求めた。
手続き 教科観の調査と指導案作成課題は別個の研究として,別々の日に個別で行った。
結果と考察
指導案の評価 音楽科教師1名と心理学専攻の学生1名で,参加者が作成した学習指導案を検討し,教科指導の実践力をある程度身につけている参加者を選出した。参加者Aは,テーマに沿った手立てを踏まえており,実践したいことが伝わる指導案であった。したがって,参加者の中で教科指導の実践力が最も高いと判断した。
教科観の検討 以下,参加者AのPAC分析の回答(Fig. 1)に基づき,音楽科の教育実践につながる教科観を検討する。
Aはクラスタ1に対して“音楽や美術(略)といった芸術教育は特に豊かな心を育む”と述べており,音楽科には,豊かな心を育むという「教科の特徴」があると考えている。そして,“何を一番子どもに学んで欲しいかと言ったら,豊かな心”と,豊かな心を育むことを,最も重要な「教育目標」とみなしていた。また,「教育目標」や「教科の特徴」によって形成されているクラスタ1と,主体的な学びという「指導観」に関わるクラスタ2が,“コミュニケーションを伴うことで豊かな心を育む”点で関連していると述べていた。鑑賞(クラスタ3)という「学習内容」も,“コミュニケーションとか言語活動は鑑賞でも必要”と,コミュニケーションによってクラスタ2と結びついている。“鑑賞で音楽に感動したり,美しさを感じ取る”ことが“豊かな心を育むというところに結びついている”との回答からは,「学習内容」が「教育目標」と結びついていることが分かる。さらに,クラスタ全体の関係についての回答(“3と4は等しい関係,これらより2がちょっと上。2,3,4をひっくるめて1”)から,授業を子ども主体のものにして教育目標にたどり着く,というように,教科観が構造化されていることが示唆される。すなわち,参加者Aの教科観は,単なる連想や相違点による関連ではなく,因果関係や鍵となる概念(“豊かな心”,“コミュニケーション”,“鑑賞”)によって結びついた構造を持っているといえよう。
また,音楽科で一番大切なことは人との関わりであると答えた参加者が多い中,Aは“コミュニケーションを伴うことで豊かな心を育む”と,人との関わりは豊かな心を育むための手段と考えていた。このことから,Aの教科観は教育目標が核になっていると推察できる。また,Aは,学習指導要領に示された「豊かな心情」という抽象的な目標を,鑑賞という具体的な学習内容の中でイメージできている。さらにAの学習指導案には,授業全体の見通しが,明確に示されていた。以上より,明確な教科の教育目標を核に教科について具体的に考えることが,見通しを持った,より有意義な教育実践につながる可能性が示唆される。
引用文献
内藤 哲雄(1997).PAC 分析実施法入門 個を科学する新技法への招待 ナカニシヤ出版
土田 義郎(2016)PAC-Assist2(http://wwwr.kanazawa-it.ac.jp/~tsuchida/lecture/pac-assist.htm)
*本研究は三浦明日香氏(平成28年度愛知教育大学卒業生)と共同で行った。