10:00 〜 12:00
[PG22] 学習指導要領と国際バカロレア教育の教育理念の融合のさせ方に関わる探索的調査研究(1)
「探究科」の学習で育てる学習者像とそれに育成する資質・能力の検討
キーワード:学習指導要領, 国際バカロレア教育, 「探究科」の学習
問題と目的
近年,「国際バカロレア(IB)教育」の推進については,資質・能力(コンピテンシー)ベースの学習観をはじめ,次期学習指導要領と目指す学習者像に共通点が多いことから,従来の日本の教育の良さに国際基準としてのIBを掛け合わせることで,時代の変化に適した新しい教育のあり方を示す役割が期待されている(日本教育新聞, 2017,6098号)。そのような中,東京学芸大学附属大泉小学校は,研究開発学校として,新教科「探究科」の学びについて研究に取り組んでいる。具体的には,IBの理念を取り入れた教育課程と評価方法の開発に関わる実践研究を行っている(教育新聞, 2017,3518号)。
これまでのところ,後藤・鄭・宮澤・梶井(2016)は,「『異文化間理解教育』で育成する児童像に基づいた学習指導・評価項目」(塙・梶井・細井, 2014)と「『国際バカロレア教育』の学習者像」(文部科学省, 2011),文部科学省が定義した『グローバル人材の定義』(グローバル人材育成推進会議, 2011)」の3つの観点から,附属大泉小学校の「探究科」の学習で育成する資質・能力の具体を,資料分析により理論的に整理した。整理の結果,1つに,児童に育成する資質・能力の主軸が,コミュニケーションに関わる能力に基づくこと,2つに,そのコミュニケーション能力は,「コミュニケーションをとりつつ挑戦することができる人」「バランスをとったコミュニケーションができる人」「思いやりをもってコミュニケーションができる人」「コミュニケーションを通して振り返ることができる人」「探究を通してコミュニケーションができる人」の5つの学習者像から捉えられることが示された。なお,「探究科」の学習は,「探究を通してコミュニケーションができる人」の育成に関わる学習活動に相当し,さらに「知識のある人」「探究する人」「考える人」の学習者像の育成と関連することが仮定された。
本研究の目的は,「探究科」の学習で育てる学習者像と,それに育成する資質・能力を,IBにおける概念操作の定義に基づいて明らかにすることである。
方 法
調査対象:附属大泉小学校の教員26名であった。
調査時期:2016年8月25日,26日に行った。
調査方法:後藤・鄭・宮澤・梶井(2016)による,「知識のある人」「探究する人」「考える人」「探究を通してコミュニケーションができる人」の4つの学習者像について,それに育成する資質と能力を,IBにおける概念操作の定義に基づいて,質問紙調査法により回答を求めた。
IBにおける概念操作の定義 資質と能力には,それぞれIB教育の初等教育プログラム(PYP)で扱われる「PYP attitudes」と「PYP key concepts」(久保, 2012)を使用した。なお,attitudesは,いずれも豊かな人間性に関わる内容であることから,学びに向かう姿勢,いわゆる資質として用いた。また,key conceptsは,探究学習場面における方法・手続きが示されており,また,およそ知識,技能に相当する内容であることから,学ぶ力,いわゆる能力として用いた。
回答に際しては,担当学年を想定して,4つの学習者像の育成に要する資質と能力について,それぞれattitudes,key conceptsから3つずつのキーワードを選択し,各キーワードについてどのような姿勢,力であるのかを箇条書きで説明するよう求めた。
結果と考察
教員が,「探究科」の学習で育成すべきと考えている資質,能力を,それぞれ「知識のある人」「探究する人」「考える人」「探究を通してコミュニケーションできる人」の4つの学習者像,および低・中・高学年の学年ブロックの枠組みに整理した。整理の結果,資質については,「知識のある人」に備えるべき資質として「持久性」,「探究する人」には「好奇心」,「考える人」には「自主性」,「探究を通してコミュニケーションできる人」には「協調性」が重要であることが推定された。一方,能力は,「知識のある人」が身に付ける能力として「理解力」,「探究する人」には「比較・類推力」,「考える人」には「自己調整力」,「探究を通してコミュニケーションできる人」には「調和的表現力」が重要であることが推定された。
さらに,上記の資質,能力の育成に際しては,「仕組み」「役割」「働き」といった,調べているものの性質に関わる「概念」と,「知識」「つながり(関連)」「変化」「生活との結びつき」という,状態に関わる「概念」の2種類で構成される学習課題・内容が必要となることが示唆された。なお,状態に関わる「概念」は,「知識」については低学年,「つながり(関連)」「変化」については中学年,「生活との結びつき」については高学年で,指導の重点に位置づけられることが推察された。
謝 辞
本研究は,東京学芸大学「日本における次世代対応型教育モデルの研究開発」〔文部科学省特別経費(プロジェクト分)〕の研究成果の一部である。
近年,「国際バカロレア(IB)教育」の推進については,資質・能力(コンピテンシー)ベースの学習観をはじめ,次期学習指導要領と目指す学習者像に共通点が多いことから,従来の日本の教育の良さに国際基準としてのIBを掛け合わせることで,時代の変化に適した新しい教育のあり方を示す役割が期待されている(日本教育新聞, 2017,6098号)。そのような中,東京学芸大学附属大泉小学校は,研究開発学校として,新教科「探究科」の学びについて研究に取り組んでいる。具体的には,IBの理念を取り入れた教育課程と評価方法の開発に関わる実践研究を行っている(教育新聞, 2017,3518号)。
これまでのところ,後藤・鄭・宮澤・梶井(2016)は,「『異文化間理解教育』で育成する児童像に基づいた学習指導・評価項目」(塙・梶井・細井, 2014)と「『国際バカロレア教育』の学習者像」(文部科学省, 2011),文部科学省が定義した『グローバル人材の定義』(グローバル人材育成推進会議, 2011)」の3つの観点から,附属大泉小学校の「探究科」の学習で育成する資質・能力の具体を,資料分析により理論的に整理した。整理の結果,1つに,児童に育成する資質・能力の主軸が,コミュニケーションに関わる能力に基づくこと,2つに,そのコミュニケーション能力は,「コミュニケーションをとりつつ挑戦することができる人」「バランスをとったコミュニケーションができる人」「思いやりをもってコミュニケーションができる人」「コミュニケーションを通して振り返ることができる人」「探究を通してコミュニケーションができる人」の5つの学習者像から捉えられることが示された。なお,「探究科」の学習は,「探究を通してコミュニケーションができる人」の育成に関わる学習活動に相当し,さらに「知識のある人」「探究する人」「考える人」の学習者像の育成と関連することが仮定された。
本研究の目的は,「探究科」の学習で育てる学習者像と,それに育成する資質・能力を,IBにおける概念操作の定義に基づいて明らかにすることである。
方 法
調査対象:附属大泉小学校の教員26名であった。
調査時期:2016年8月25日,26日に行った。
調査方法:後藤・鄭・宮澤・梶井(2016)による,「知識のある人」「探究する人」「考える人」「探究を通してコミュニケーションができる人」の4つの学習者像について,それに育成する資質と能力を,IBにおける概念操作の定義に基づいて,質問紙調査法により回答を求めた。
IBにおける概念操作の定義 資質と能力には,それぞれIB教育の初等教育プログラム(PYP)で扱われる「PYP attitudes」と「PYP key concepts」(久保, 2012)を使用した。なお,attitudesは,いずれも豊かな人間性に関わる内容であることから,学びに向かう姿勢,いわゆる資質として用いた。また,key conceptsは,探究学習場面における方法・手続きが示されており,また,およそ知識,技能に相当する内容であることから,学ぶ力,いわゆる能力として用いた。
回答に際しては,担当学年を想定して,4つの学習者像の育成に要する資質と能力について,それぞれattitudes,key conceptsから3つずつのキーワードを選択し,各キーワードについてどのような姿勢,力であるのかを箇条書きで説明するよう求めた。
結果と考察
教員が,「探究科」の学習で育成すべきと考えている資質,能力を,それぞれ「知識のある人」「探究する人」「考える人」「探究を通してコミュニケーションできる人」の4つの学習者像,および低・中・高学年の学年ブロックの枠組みに整理した。整理の結果,資質については,「知識のある人」に備えるべき資質として「持久性」,「探究する人」には「好奇心」,「考える人」には「自主性」,「探究を通してコミュニケーションできる人」には「協調性」が重要であることが推定された。一方,能力は,「知識のある人」が身に付ける能力として「理解力」,「探究する人」には「比較・類推力」,「考える人」には「自己調整力」,「探究を通してコミュニケーションできる人」には「調和的表現力」が重要であることが推定された。
さらに,上記の資質,能力の育成に際しては,「仕組み」「役割」「働き」といった,調べているものの性質に関わる「概念」と,「知識」「つながり(関連)」「変化」「生活との結びつき」という,状態に関わる「概念」の2種類で構成される学習課題・内容が必要となることが示唆された。なお,状態に関わる「概念」は,「知識」については低学年,「つながり(関連)」「変化」については中学年,「生活との結びつき」については高学年で,指導の重点に位置づけられることが推察された。
謝 辞
本研究は,東京学芸大学「日本における次世代対応型教育モデルの研究開発」〔文部科学省特別経費(プロジェクト分)〕の研究成果の一部である。